レギュラーシーズンを82試合から78試合へ。NBAが提案した新ルールへの賛否【杉浦大介コラム vol.8】

試合数減についてオールドファンの反発は必至か

NBAのスケジュールが2021-22シーズンから大幅に変更されるかもしれない。11月下旬、アダム・シルバー・コミッショナーが提唱する新システムの導入が検討されているとESPNが報道し、リーグ内で大きなニュースとなった。 話し合われているのは具体的には以下の3つだ。    ・レギュラーシーズンの試合数を82から78に減らし、変わりにシーズン中(感謝祭~クリスマスの季節)にトーナメントのカップ戦を導入  ・プレイオフのカンファレンス・セミファイナル以降、シードを勝率順に変更  ・7~10位のチームでトーナメントを行い、プレーオフの第7、8シードを決定 かなり大きな改革となるこれらの案に関して、全体的には否定的な意見が多いように感じられる。特にシーズン中のゲームを78試合にしてしまうことには、やはり反対派が多い。元ESPN.comのクリス・シェリダン記者は、「NBAのシーズンはずっと82試合。変更したら過去の記録と比較が難しくなり、リーグの歴史を変えてしまうことになる」と痛烈に批判していた。 ポストシーズンのシード順変更も、セミファイナル以降に突然、プレイオフの流れが変わるのはやや不自然な感じがしてしまう。新システムが導入されていれば、例えば一昨季はゴールデンステイト・ウォリアーズ対ヒューストン・ロケッツという最高勝率チーム同士がファイナルで対戦していた可能性が高く(実際はウォリアーズ対クリーブランド・キャバリアーズでウォリアーズが4勝0敗のスウィープ)、最大の舞台がより見応えのあるものになっていたのは事実だろう。ただ、伝統的な東西対決の構図を崩すのは本当に正しいのか。この案に限った話ではないが、特にオールドファンから抜本的な改革にかなり強烈な反発が出ることが予想される。

シーズン中のトーナメント戦についてハーデンが完全否定

ただ、NBAはこれまでもさまざまな変化を恐れないリーグであり続け、そのおかげで急速に発展してきたのは紛れもない事実だ。そんな背景もあってか、今回の新たな改革案にも一定の理解を示すメディアも少なからずいる。元『ニューヨーク・タイムズ』の記者で、現在は『Bleacher Report』で健筆を振るうハワード・ベック氏もその1人だ。 「ソーシャルメディアの普及もあって、ファンの興味もハイライトを求めるものに変わった。NBAのレギュラーシーズンはやや盛り上がりに欠けるものになっている。タンキング、選手の負担軽減策もあって、テレビ視聴率も低下傾向。だからシステムの変化を考慮すること自体は理にかなう」 なかでも最も大きな改革といえるのは、“シーズン中のトーナメント戦”の導入だろう。欧州サッカーなどでは恒例行事として開催されているカップ戦だ。レギュラーシーズンの中だるみが感じられる時期にそれを行うというのは、確かに興味深いアイデアではある。 「12月半ばまでに約1/3のチームがプレイオフ進出の希望を失っていることが多い状況下で、シーズン半ばのゲームを活性化させようとする考え方は理解できる。11、12月のゲームが違う意味を持つことで、その勢いが1~3月に持ち越されるかもしれない。ただ、シーズン中に“NBAカップ”を開催するというアイデアは、やはり魅力的には感じられない。いったい何をかけるのか? 単なるトロフィーには誰も魅力は感じないはずで、多額の賞金をかけなければいけないだろう。ファンはチーム、選手がこれ以上どれだけのお金を受けとろうと興味はないだけに、例えばドラフト指名権といったわかりやすい報酬が必要かもしれない」 ベック氏もトーナメントのコンセプトに理解を示しつつ、実際に興行的に成立、成功するかには否定的だった。このアイデアが表沙汰になった直後、ヒューストン・ロケッツのジェームズ・ハーデンが「NBAはカレッジ・バスケットボールとは違うんだ」と完全否定だったのは記憶に新しい。12月20日、1選手ごとに100万ドルという多額の優勝賞金が用意されていると『ESPN.com』が報道したが、ロールプレイヤーはともなく、3000~4000万ドルの年俸を受け取るスーパースターがこの額に魅力を感じるかは確かに微妙なところかもしれない。 もっとも、『フォーブス』のシュロモ・スプラング氏のように、ほぼ全面的に通称“NBAカップ”をサポートしている記者もいる。 「欧州サッカーではシーズン中のトーナメントは恒例であり、アメリカで反対意見が出ているのは“馴染みがない”というだけ。数をこなすうちに、徐々に活性化するのではないか。低迷中のチームにもシーズン中に何かを勝ち取るチャンスが出るのは大きく、まったく盛り上がらないとは考え難い」 カップ戦に関しては比較的若い世代に肯定派が多いように思えることに、リーグ上層部は勇気付けられているに違いない。NBAはこのプランに本気で取り組んでいるように思えるだけに、今後の展開が気になるところだ。

ハーデンはトーナメントについて「NBAはカレッジ・バスケットボールとは違うんだ」と完全否定している

「プレイ・イン・トーナメント」がタンキング減少のカギとなる?

一方、7~10位のチームにプレイオフ最後の2席を争わせる、いわゆる「プレイ・イン・トーナメント」に関しては賛成意見が非常に多かった。 「すべての提案の中で、このトーナメントは賛成だ。3、4月に選手、ファンの興味を保つという意味で、優れたアイデアだと思う。トーナメントの戦いがエキサイティングというだけでなく、11、12、13位のチームにも、トーナメントの枠内に入るという目標をシーズン終盤に与えることにもなるかもしれない」 思慮深いベック記者も、このアイデアには大きな抵抗は感じていない様子だった。一発勝負かせいぜい2戦先勝制のトーナメントが実現すれば、MLBのワイルドカード戦を彷彿とさせるようなスリリングな戦いになるだろう。主力が頻繁に休養を取る4月のレギュラーシーズンゲームは凡庸な内容になることが多いが、このトーナメントが組み込まれれば、プレイオフ開始前の倦怠感が少なからず解消されるに違いない。 「日程調整が難しく、下位チームの戦いのために上位陣を待たせることになりかねない」(シェリダン記者)、「シーズン32~35勝くらいの9、10位チームをプレイオフに出すのが正しいのかというひっかかりはある」(ベック記者)といった声もあるが、致命的なマイナス材料ではあるまい。何より、ファンを落胆させることが多いタンキングを減らすという点でも意味は大きい。このトーナメントがすんなりと導入されることを支持する関係者は多いのではないか。 このように喧々諤々の意見が出ている新ルールは、来年4月に開催されるNBAの理事会で話し合われるという。導入のためには、全体の2/3のチームの承認が必要。シルバー・コミッショナーはリーグ75周年となる2021-22シーズンに向けて準備しているというが、その目論見通りに進むかどうか。1つでも実施されたならリーグ史上に残る変化といえるだけに、しばらくはその行方から目が離せない。

杉浦大介:ニューヨーク在住のフリーライター。NBA、MLB、ボクシングなどアメリカのスポーツの取材・執筆を行なっている。『DUNK SHOOT』、『SLUGGER』など各種専門誌や『NBA JAPAN』、『日本経済新聞・電子版』といったウェブメディアなどに寄稿している。

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