Christmas Wish【大柴壮平コラム vol.12】

「クリスマスと言えばNBA」

皆さんは、NBAがレギュラーシーズン中、もっとも視聴者数を稼ぐ日がいつかご存知だろうか。時節柄、察しのいい方はお気づきだろうが、答えはクリスマスである。クリスマスと言えば恋人を連想する日本と違い、アメリカでは家族と家で過ごすのが習いらしい。必然的に、テレビの視聴数も上がる。そこに目をつけたNBAは、2008年以来、シーズンの目玉カードをクリスマスに5試合組むことで、「クリスマスと言えばNBA」というイメージを作り出すことに成功した。日本におけるケンタッキー・フライドチキンのようなキャンペーンと考えればわかりやすいだろう。 目玉カードに選ばれるチームは、大きく分けて2つある。1つ目は、前のシーズンで50勝以上を挙げたり、大型補強に成功した優勝候補。特にディフェンディング・チャンピオンは、2008年のフォーマット変更以降、全ての年でクリスマスに試合を行っている。2017年のゴールデンステイト・ウォリアーズ対クリーブランド・キャバリアーズのように、その年のファイナルの再戦が組まれることも多い。2つ目は、ビッグマーケットのチームである。例えば、近年は優勝どころかプレイオフにも行けなかったロサンゼルス・レイカーズだが、2008年から全てのクリスマスゲームに名前を連ねている。 クリスマスゲームは優勝候補、そしてビッグマーケットを重視するが、候補が多数ある場合はスター選手がいるチームが優先される傾向にある。優勝候補、ビッグマーケット、スター選手といったチーム選びのキーポイントは、視聴者数を稼ごうというNBAの意図が清々しいほど明確である。

優勝チーム、MVPはクリスマスゲームから現れる

割りを食うのはスモールマーケットのチームで、シャーロット・ホーネッツとメンフィス・グリズリーズにいたっては、一度もクリスマスに試合を行ったことがない。ホーネッツは2015-16シーズンに48勝を挙げたが、2016年のクリスマスゲームへの招待は無かった。グリズリーズは2012-13シーズンから3シーズン連続で50勝以上を達成したにもかかわらず、それでもクリスマスゲームは遠かった。シャーロット、メンフィス共にスモールマーケットであり、1人で数字を稼ぐようなスーパースターもいなかった。 私はグリズリーズのファンなので、愚痴りたい気持ちはある。しかし、2008年以降のクリスマスゲームのカードを眺めていると、NBAをただ拝金主義と罵って溜飲を下げるわけにもいかないことに気づく。実は2008年以降の11年で、クリスマスゲームを行っていないチームが優勝したのはわずかに1度だけである。その1度は昨シーズンのトロント・ラプターズで、トロントはビッグ・マーケットだがカナダのチームということで、アメリカ国内での視聴者数が稼げないと判断されたのだろう。NBAが優勝候補と睨んだチームの中からこれだけの高確率で優勝チームが出るのだから、NBAのスケジュール担当者の目には敬意を払う必要があるだろう。グリズリーズはいくら3シーズン連続で50勝以上を達成しようが、優勝できないと判断された。そして、実際にできなかったのである。 ちなみに、MVPは2008年以降毎年クリスマスゲームを行ったチームから出ている。レギュラーシーズンで最も視聴されるクリスマスゲームを戦ったチームの中から、ほぼ毎年優勝チームが現れる。MVPは、毎年クリスマスゲームズでプレーした選手から選ばれる。これにより、NFLのプレイオフ争いが一服しNBAが注目される時期に視聴者を取り込み、そこからプレイオフ、ファイナルへと繋がるストーリーを見せることで、ポストシーズンの視聴率をさらに稼ごうという寸法である。

昨秋NBA JAPAN GAMES 2019で来日したラプターズとロケッツは、ともにクリスマスに試合が設けられている

ふまえて、今年のクリスマスゲームのカードを見てみた

今年のクリスマスゲームのカードは、ミルウォーキー・バックス対フィラデルフィア・76ers、ボストン・セルティックス対トロント・ラプターズ、ロサンゼルス・クリッパーズ対ロサンゼルス・レイカーズ、ニューオーリンズ・ペリカンズ対デンバー・ナゲッツ、ヒューストン・ロケッツ対ゴールデンステイト・ウォリアーズの5カードである。優勝チームとMVPがこの中から選ばれると仮定すると、このリストの見方も変わってくるだろう。 本稿執筆時点で勝率上位10チームに入っているが、クリスマスゲームに試合の無いチームが3チームある。マイアミ・ヒート、インディアナ・ペイサーズ、ダラス・マーベリックスで、これまでの実績ベースではこの3チームが優勝する可能性は限りなく低いということになる。また、オフシーズンの補強で話題になったユタ・ジャズやブルックリン・ネッツも残念ながら優勝は来シーズン以降に持ち越しとなりそうだ。逆に、現状優勝するにはもうワンパンチ必要に見えるシクサーズやロケッツのファンには嬉しい話で、プレイオフで上位チームを破る快進撃が待っているかも知れない。 一方のMVPだが、ベッティング・サイトのオッズ・シャークを見ると、現在の人気は1位ヤニス・アデトクンボ、2位ルカ・ドンチッチ、3位ジェームズ・ハーデン、4位タイでレブロン・ジェームズとアンソニー・デイビスが、6位タイでカワイ・レナード、ジョエル・エンビード、ポール・ジョージが並ぶ展開となっている。この中で今年クリスマスゲームを戦わないのはルカ・ドンチッチのみ。デリック・ローズが持つ最年少MVP記録更新のハードルは、高いかも知れない。


ジンクスはあくまでジンクスであり、昨シーズンのラプターズのように今年もジンクスを破るチームが現れるかも知れない。クリスマスゲームに縁の無いグリズリーズのファンとしては、むしろジンクスを破るチームが現れた方が痛快だ。 しかし一方で、いつかはグリズリーズがクリスマスゲーム出場の栄誉に浴する日がくるのを待ちわびている自分もいる。スモールマーケットのチームがクリスマスゲームに出場するには、ただ勝率を上げるだけではダメである。やはりスター選手を獲得したいところだが、フリーエージェントでわざわざメンフィスを選ぶスター選手はいない。ドラフトで優れた選手を当て、スター選手に育て上げる必要がある。 マーケット・サイズのランキングでは、常にメンフィス、オクラホマシティ、ニューオーリンズの3都市が最下位を争っている。しかし、ケビン・デュラント、ラッセル・ウェストブルックと共にオクラホマシティはクリスマスゲームに出場した。ニューオーリンズはザイオン・ウィリアムソンの期待値だけで、今年のクリスマスゲームにエントリーされている。 メンフィスの出場も不可能ではない。幸いなことに、ジャ・モラントとジャレン・ジャクソンJr.の2人は将来を期待できる活躍を見せている。来年のクリスマスは、ルカ・ドンチッチとクリスタプス・ポルジンギスのダラス・マーベリックスと対戦なんていかがでしょうか。サンタクロース、もといアダム・シルバー・コミッショナー、御一考よろしくお願い申し上げます。

大柴壮平:ロングインタビュー中心のバスケ本シリーズ『ダブドリ』の編集長。『ダブドリ』にアリーナ周りのディープスポットを探すコラム『ダブドリ探検隊』を連載する他、『スポーツナビ』や『FLY MAGAZINE』でも執筆している。YouTube『Basketball Diner』、ポッドキャスト『Mark Tonight NTR』に出演中。

俺たちの明日【大柴壮平コラム vol.11】

価値観のアップデート【大柴壮平コラム vol.10】

コメント(8件)

    関連タグ

    キーワード

    • ニュース全般
    • クリスマスゲーム
    • 大柴壮平

    人気

    特集

    1. NBA Rakuten トップ
    2. 最新ニュース一覧
    3. Christmas Wish【大柴壮平コラム vol.12】