【特別コラム】渡邊雄太が貫いた強き決意。自らを追い込んで掴んだ本契約

日常に寄り掛かり立ち止まっていては、夢との距離さえ掴めない。そしていざ飛び込んだところで、必ずしも叶えられるものでもない。だからこそ夢は儚くて、尊い。 日本時間4月19日夜、トロント・ラプターズが渡邊雄太とNBA本契約(標準NBA契約)を結んだことを発表した。高校卒業後の2013年にNBAを目指して渡米した渡邊が、約8年の時を経て正真正銘のNBA選手となったのである。通常、チームからのリリースは現地の時間に合わせるため、日本時間だと深夜になることが多い。今回、日本の夜に情報が公開されたのは、日本のファンへ届けたいというチームの計らいがあったからだという。そして日本中のバスケットボールファンは、その一報を目にした瞬間歓喜した。 「Earned, not given.(与えられたのではなく、勝ち取った)」。 ラプターズの公式ツイッターが、渡邊が契約書にサインする写真に添えた言葉だ。本契約を手にするまで努力を続けてきた渡邊を形容するのに、これ以上相応しい言葉はないだろう。 2018年にジョージ・ワシントン大を卒業後、ドラフト外からサマーリーグを経て、2ウェイ契約を交わしたメンフィス・グリズリーズに入団。そして3年目の今季はラプターズに移籍した。様々な制限のある2ウェイ契約から本契約に昇格することを、NBA入り当初から大きな目標として掲げてきたが、その道のりは決して平坦なものではなかった。 これまで常に前向きな言葉を残してきた渡邊が、本契約発表翌日の会見で漏らした言葉は、NBA挑戦の厳しさを何よりも物語っている。 「正直辞めたいというか、逃げ出したくなる時はたくさんありました」

口だけの人間には絶対なりたくない

過去2シーズンを過ごしたグリズリーズでは、33試合しかNBAの舞台でプレイできなかった。Gリーグで目覚ましい結果を残してもチャンスが回ってこない、そんなもどかしい日々を過ごした。結果的に本契約を結んだラプターズとも、最初の契約は昨年11月のエグジビット10契約。キャンプに参加するための無保証契約で、チーム内の序列でいうと最下層と崖っぷちの状況だった。 「努力してもなかなか結果が出ない人も当然いると思います。僕もそういう時期が続いたこともあって、過去3年間、それなりの努力で大活躍している選手も何人も見てきて、『世の中、ある意味不公平だな』って感じることが正直すごくありました」 努力が必ずしも報われるわけではないと理解しつつ、それでも渡邊がそれを止める事はなかった。 諦めることなく挑戦を続けられたのは、渡邊に断固たる決意があったからだ。渡邊はこれまで挫けそうになった場面が何度もあったことを認めた上で、自らを追い込む状況を意図的に作り、それを乗り越えていったという。 「自分自身を奮い立たせることが難しかった時期がすごくあったので、こうやって偉そうに皆さんに向かって『自分は努力してますよ』と言うことによって、『努力するしかない』という状況を作ることはやっていました。自分自身にハッパをかけて……僕、口だけの人間大嫌いなんで。自分がそうは絶対なりたくないので、『言ったからには絶対にやれよ』っていうのを自分に言い聞かせてやっている時期は、正直ありました」

自分には努力することしかなかった

そんななか迎えた今季は大きな飛躍を遂げるシーズンとなった。最大のセールスポイントである守備とハッスルプレイでアピールすると、今年1月には当時自己最長となる10試合連続で試合出場を果たす。 八村塁との直接対決が注目された2月11日のワシントン・ウィザーズ戦の前に左足首を捻挫し、一度掴んだローテーションの座を失いかけたが、主力の欠場が続いたのを機に4月に再浮上。17日のオーランド・マジック戦ではキャリアハイの21得点を叩き出すなど、3ポイントを軸に課題のオフェンス面でも存在感を示し、現在は13試合連続で出場している。 浮き沈みはありながらも、「結局自分に残されていることが何かって考えたら、努力することしかなかったんです」と腐ることなく、得たチャンスを最大限に活かした。 指揮官のニック・ナースHC(ヘッドコーチ)は、契約に関する判断は自分ではなくフロントがしていると断った上で、「我々は彼が本契約に値すると思った。彼は素晴らしいプロ選手であり、ハードワークを続けてきたからね。将来的にチームに残る選手の候補として検討している」と本契約を勝ち取った渡邊を称賛した。

今までやってきた自分のことを信じる

待望の本契約を手にした渡邊だが、将来が確約されたわけではない。報道によれば、来季以降の契約は無保証で、フリーエージェント市場のモラトリアム期間(交渉は可能だが契約締結はできない期間。米東部時間8月2日午後6時~6日午前12時1分)が終了した3日後に37万5000ドルが保証。さらに、来季の開幕ロスターに入ればサラリーの全額が保証されるという。 来季開幕前に再び自身の価値を証明する必要があるが、渡邊に慢心はない。それと同時に、今の自分が評価されたことも、しっかりと理解している。 「まだ怪我人が帰ってきたときにプレイタイムがもらえる保証は全然ないですし、来シーズンの保証もまだないなかで、自分のアピールというか、もっともっとできるんだっていうところは見せていかなきゃいけない。ただ、だからといって、自分のプレイスタイルを変えるとか、そういうことは一切する必要はないと思っています。僕は今までやってきた自分のことを信じて、それをしっかりコート上で出してやれば結果としてついてきますし、それが周りに評価されるのは証明してきたので、それを続けるだけかなと思います」 本契約後初の試合となった4月22日のブルックリン・ネッツ戦では、カイル・ラウリー、パスカル・シアカム、フレッド・バンブリート、OG・アヌノビーと先発陣が一気に復帰。その影響で10試合ぶりに出場時間が15分を下回った渡邊だったが、変わらぬ全力プレイで攻守に奔走して4連勝を飾ったチームに貢献した。 渡邊が目指すのは、“チームを勝ちに導く”選手になることだという。 「NBAでは、僕が20~30点取ってくることが自分の仕事ではないと思っています。与えられた時間で、ベンチから出て流れを変える選手になって、最終的にチームの勝ちにつながるプレイをやれる選手になっていきたいなと思っています」 夢を叶えた渡邊は、早くも次の目標に向けた挑戦を始めている。

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