ファンが選手の移籍先を決める? NBAの未来に一石を投じたディンウィディーの取り組み【家徳悠介コラム vol.8】

2019-20シーズンの再開がいよいよ現実味を帯びてきた。ファンとしては待ちに待った再開だが、3月上旬からの中断期間中、NBA界隈では様々な新しい取り組みが行われていた。 中でも筆者が最も驚いたのが、ブルックリン・ネッツのスペンサー・ディンウィディーによる、自身の来季所属チームをクラウドファンディング(以下クラファン)で決めるというものである。

■ディンウィディーのツイート

ディンウィディーによるクラファンの本当の狙いとは

5月16日、ディンウィディーは米国大手クラファンサイト「ゴーファンドミー(GoFundMe)」にページを開設した。クラファン額がディンウィディーの来オフ希望するマックス契約に相当する約2463万ドル(約27億円)に到達したら、同ファンディングに参加したファンによる多数決で来季の所属先を決めるとしたのだ。 「選手のスポンサーやエージェントは、自分の契約チームを決める判断に大きく影響を及ぼす。だが、僕が判断を下す上で最も大事なのはファンの声だ。なのでこの自粛生活下、何かファンのみんなと楽しい事をしたい。公平性を保つために、チームオーナーやチーム関係者には参加しないで欲しい」

■ディンウィディーが開設したページはこちら

最終的には1150ドル(約13万円)しか集まらず、史上初のファンによる移籍先決定とはならなかったが、これによってディンウィディーが落ち込んでいるということはないだろう。彼はページ開設当初から、“希望金額に満たなかった場合は全額をコロナショックによって甚大な影響を受けている医療機関に寄付する”としており、寄付金を募るのが目的だったと推察できるからだ。 ただ、このディンウィディーの取り組みは、今後スポーツ界における新たな、そして現実的な資金調達の手法になり得るのではないだろうか?

スポーツ界に特化し、代表チームを支えるクラファンも

インターネット経由で資金を集めるクラファンという手法は、すでに多くの人にとって馴染み深いものだろう。銀行の融資や投資家から大口の出資を募るという従来のやり方ではなく、小口投資を多くの投資家・支援者から集めるというものである。 このシステムはビジネスに限らず、スポーツシーンでも広く活用されている。2014年のソチ五輪で多くの五輪候補選手が活動資金確保を目的にクラファンを実施して以降、スポーツ界ではごく当たり前の取り組みとなった。最近でも「オールバーズ(AllBirds)」という新興スニーカーブランドがクラファンで12万ドルの起業資金を調達し、その資金とそこで得た話題性を軸に今ではユニコーン(時価総額1000億円を超える非上場企業)にまで成長したことが話題になっている。 今ではスポーツに特化したクラファンサービスも多数あり、中でも「ラリーミー(RallyMe)」というサービスでは、米国のスキー代表チーム、サイクリング代表チーム、ボブスレー代表チームの公式活動資金調達プラットフォームとなっている。

「ファンが選ぶ時代」がスポーツ界にも訪れるか

こうしたスポーツ界での活用例を踏まえると、ディンウィディーの取り組みはスポーツ界の未来を暗示しているのではないだろうか? 近年、SNSの発達によってファンと選手の距離が近づいていることを鑑みると、クラファンの支援者の意見を基に選手が所属チームを選ぶという未来はそう遠くないように思える。それによって、プロアスリートがこれまでお金の出どころであったスポンサーや、チームオーナーでなく、本来最も大事にすべき「ファン」に主眼を置いたアクションが取れるようになるのだから。

選手とファンの距離はますます近くなっている。今後、ファンが選手の動向を左右する日は来るのだろうか

さらに、スポンサーの視点で考えても決して悪い話ではないだろう。スポンサーが選手に投資するのは、その先にファンがいるからこそ。選手とファンの距離が近づくことで、結果的により効果的な投資=スポンサードができるようになる。 日本でもエンタメ界ではAKB48の事例に代表されるように、プロデューサーやスポンサーでなく「ファンが選ぶ」時代がすでに来ている。 今すぐにスポーツ選手の動向を「ファンが選ぶ」ようになるかと言われたら、それは難しいかもしれないが、今回のディンウィディーの取り組みを契機に、その是非が問われるようになったら面白い。

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家徳悠介:「スポーツはヲタクに変えさせろ」をスローガンに、 ニューヨークをベースにスポーツビジネスコンサル、及びスポーツテクノロジー事業を行う「スポヲタ社」を経営。テクノロジーを活用して、よりスポーツを面白くする事を心掛ける。

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