シーズン中断なら給与が大幅減?コロナ禍でもNBA選手が再開を狙うワケ【家徳悠介コラム vol.6】

新型コロナウイルスが、未だ世界で猛威を振るっている。NBAがシーズン再開の目途を立てられない状況が続いているのは、致し方ないことだろう。 先月、以下の記事で紹介した通り、リーグ、チームはこのままリーグ中止となれば、計259試合のレギュラーシーズンとプレイオフの収入を失うこととなる。その財政的影響は測り知れず、単純計算でリーグは約3,000億円もの損害を受ける可能性があるのだ。

コロナショックでNBAは財政破綻するの?【家徳悠介コラム vol.4】

このような状況下で、NBAは無観客でのリーグ再開に向けて動いているとのニュースが聞こえてくる。今回はその背景について、NBAと選手の間にある労務協定(CBA)を中心に探っていきたい。

NBA選手の給与支払体系とは

複雑な話をする前に、CBAに定められたNBA選手の給与システムが、そもそもどうなっているのか簡単に説明する。 <給与システム要点> ◆各チームのサラリーキャップは、前年度のNBAにおけるバスケットボール関連収益(BRI)を基に、複雑な計算式を経て算出される。すなわち、今季のリーグ収益は来季のサラリーキャップに影響する。 ◆全チームを合わせた選手総年俸額は、BRIの51%を上限とする。51%を超えた場合にリーグが超過分を回収できるよう、各選手は年俸の10%相当をNBAの設けるエスクロー口座(第三者預託)へ事前にプールする。なお、例年はBRIを達成する場合がほとんどのため、上記プール金はシーズン後に選手へ返金されていた。 ◆11月15日を最初の給料日として、選手の年俸は原則隔週払いの24分割で支払われる。なお、シーズンの期間内での分割、1年間の分割(月給)も選べる。

コロナがNBA選手に与える金銭的ダメージ

NBAは今季、開幕前のダレル・モーリーGM(ヒューストン・ロケッツ)による香港支援発言によって、一大市場である中国(当時、香港と対立)からの収入が数百億円規模で減っている状況だった。それに加え今回のコロナ禍という史上稀に見る事態のため、選手はエスクロー口座にプールした留保金が返ってこない公算が高い。

アダム・シルバー・コミッショナー(左)と選手会長のクリス・ポールとの間では、シーズン再開について意見交換がなされているという

さらに、4月17日にNBAと選手会間で、コロナショックがフォース・マジュール条項(不可抗力条項:今回のコロナのように暴動、天災等といった予測や制御できない事由が起きた場合、契約を破棄・一部破棄する権利が与えられる条項)に該当するとの合意がなされた事で、5月15日から支払われる選手給与に関して、これまで留保されていた10%分に加え、追加で15%(給与額の合計25%)相当がエスクロー口座に留保されることが決まった。そして、エスクロー口座にプールされたお金は、正式にシーズンキャンセルとなった場合、今季のBRIと照らし合わせ、留保された金額の一部または全額をリーグとチームに返還することとなる。 なお、計算すると、すでにリーグ全体で留保されることが決まっていた約420億円(今季の年俸総額である4,200億円の10%)に加え、追加で約3.3億ドル(約370億円)が今回の合意によって留保されることになる。つまりロサンゼルス・レイカーズのアンソニー・デイビスを例に取ると、彼の今季年俸である約2,711万ドル (約30億円)のうち、最大約510万ドル(約6億円)が一旦エスクロー口座に留保されたうえで、リーグに回収される可能性があるのだ。

上記決定を受け、NBAはどう動くか?

NBAの各チームが平均してシーズン戦17.5試合+プレイオフ5.6試合を残していることを踏まえると、平均合計試合数(92.6試合)の約24.8%が未消化となる。仮に今季が中断となれば、残された試合分の売上は当然ゼロだ。 その場合、リーグや各チームの売り上げが減るばかりでなく、選手もエスクロー口座に留保された金額の多くをリーグに徴収されることが確定、すなわち減俸を強いられることとなってしまう。

シーズン中断となった場合、アンソニー・デイビスは約6億円もの大金を失う可能性がある

そして、一部選手にとって上記以上に痛手なのが、リーグ中止によって来季のサラリーキャップが大幅に下がってしまう可能性が高い点だ。冒頭で説明した通り、サラリーキャップは前年のBRIを基に算出されるため、今季のリーグ収益が落ち込めば来季のキャップ総額も下がってしまうからだ。 今季1.09億ドル(約120億円)だった各チームのサラリーキャップが、仮に25%減の8,500万ドル(約90億円)になったとする。そうなると、大半のチームは新たにFA選手を加える前に総年俸額がキャップに達してしまい、新規の補強が難しくなってしまう。


上記状況を鑑みると、NBAで議論が深まっている統一会場でのシーズン再開が、いよいよ現実味を帯びてくる。無論、健康第一という大前提は変わらないはずだが、シーズン中止はリーグ、チーム、選手それぞれに失うものが大きすぎることが分かっただろう。 このように複雑に様々な事項が絡み合う中で、アダム・シルバー・コミッショナーがどのような決断を下すのか見ものである。

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家徳悠介:「スポーツはヲタクに変えさせろ」をスローガンに、 ニューヨークをベースにスポーツビジネスコンサル、及びスポーツテクノロジー事業を行う「スポヲタ社」を経営。テクノロジーを活用して、よりスポーツを面白くする事を心掛ける。

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