成功のカギは「減速力」。科学が明かしたルカ・ドンチッチの真の凄さとは【家徳悠介コラム vol.5】

2019-20シーズンのNBAで最も輝きを放った選手の1人が、スロベニア出身の20歳、ルカ・ドンチッチ(ダラス・マーべリックス)だ。キャリア2年目の今季、平均28.7点(リーグ6位)、9.3リバウンド(同19位)、8.7アシスト(同4位)を記録。リーグ最多となる14度のトリプルダブルを達成するなど、押しも押されもせぬ若きスーパースターである。 ドンチッチを知らない人も、下記のハイライト見れば彼の“巧さ”がわかるはずだ。

Best Of Luka Doncic | 2019-20 NBA Season(YouTube)

ドンチッチのスキルの高さと同時に、もう一つ気づいた点があるだろう。それは、彼の身体能力が極めて平凡であるということだ。むしろ、ジャンプ力などは平均以下とも言える。 そんなドンチッチが、超人的な身体能力の持ち主が集うNBAのドラフトで全体3位という高順位で指名され、現在のような活躍を披露できるのはなぜなのか。最新のスポーツ科学が、その理由を明らかにしている。

欧州出身のガードがNBAでぶつかる「スピードの壁」

NBAで活躍した欧州出身選手と言えば、2011年にファイナルMVPを受賞したダーク・ノビツキー(ドイツ/マーベリックス)や、パウ(元レイカーズほか)&マルク(ラプターズ)のガソル兄弟(スペイン)、もしくは元キングスのペジャ・ストヤコビッチ(セルビア)あたりを思い浮かべる人もいるかもしれない。 他にも90年代に活躍した、アルビダス・サボニス(リトアニア/元ブレイザーズ)、ブラデ・ディバッツ(セルビア/元キングスほか)、デトレフ・シュレンフ(ドイツ/ソニックスほか)等もいるが、彼らに共通しているのはフロントコートのプレイヤーであるという点だ。ガード選手でオールスター級の活躍を披露したのは、フランス出身のトニー・パーカー(元スパーズ)とゴラン・ドラギッチ(スロベニア/ヒート)くらい。欧州出身のガードがNBAで活躍するというのは、ハードルが高いのだ。 その理由は、スピードを含む身体能力に起因する部分が大きい。多くの欧州出身のガードはNBAのスピードについていけず、欧州リーグでの活躍を北米で披露できなかったと言える。ドンチッチも例に漏れず、ドラフト前は「フロントコートの選手にならないと活躍は望めない」だの、「ガードとしてはバスト(期待外れな選手)になる可能性が高い」とまで言われていた。若干18歳という史上最年少で欧州リーグのMVPを受賞していたにも関わらず、である。

データを分析・測定して見えたNBAで上位10%以内の数値

そんなドンチッチに向けられていた疑問を払拭したのが、カリフォルニア州にあるピーク・パフォーマンス・プロジェクト(以下P3)社だ。最新のスポーツ科学やデータに基づいた選手の能力開発に力を入れた企業で、ドンチッチは16歳の頃から定期的にここへ通っていたという。 ドラフト前、P3社は蓄積していたドンチッチの身体のデータを最新技術によって細かく分析すると共に、改めて詳細に身体的特徴と身体能力を測定した。すると、面白い特徴が見つかったのである。 これまであまり注目されることが無かった「減速力」である。 ドンチッチの加速力、トップスピード、ジャンプ力はNBAでは平均程度だったものの、「減速力」というカテゴリーにおいては、上位10%以内との数値が出たのだ。つまり、ドンチッチはトップスピードの状態からより速くストップできるということである。これはディフェンダーが体感する「キレ」と同義であり、ドンチッチがオフェンスでしっかり相手を抜けるということが定量的に証明されたのだ。 さらに、その前年にシーズンMVPを獲得したジェームス・ハーデン(ロケッツ)も、スピードやジャンプ力といった一般的な項目は平均的ながら「減速力」のみ図抜けていることが分かったのも、ドラフトを控えるドンチッチにとって追い風となった。 無論、「減速力」だけではないだろうが、これまでように過去の実績といった定性面のみでなく、定量的にドンチッチの能力がNBAでも通用する可能性が高いとわかったことで、マーベリックスは高順位での指名に躊躇がなくなり、アトランタ・ホークスとのトレードを挟む形でドンチッチを手に入れたのである。

ハーデンがステップバックで相手を翻弄できるのは、「減速力」から生まれるキレがあるからこそ

Bリーグのパフォーマンスコーチも「減速力」に注目

ドンチッチの事例のようにスポーツ科学を駆使すれば、一見すると身体能力が低そうな選手からでも思わぬ能力を見出すことができるのだ。Bリーグ・アルバルク東京の荒尾裕文パフォーマンスコーチも、「加速力、トップスピード、ジャンプ力に加え、『減速力』はバスケットボールにおいて重要な能力の一つとして注目している」と話しており、今後は減速力に注目したパフォーマンス分析や、トレーニング方法が科学の力を通じて明らかになっていくだろう。 日本ではまだ馴染みのないスポーツ科学が今後発展していけば、国内から“第2のドンチッチ”が誕生する日も、そう遠くないかもしれない。

家徳悠介:「スポーツはヲタクに変えさせろ」をスローガンに、 ニューヨークをベースにスポーツビジネスコンサル、及びスポーツテクノロジー事業を行う「スポヲタ社」を経営。テクノロジーを活用して、よりスポーツを面白くする事を心掛ける。

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