スポーツ界には「名選手名コーチにあらず」という格言があるが、現役時代に基本に忠実なプレイで“ビッグ・ファンダメンタル”の異名を取ったティム・ダンカンにはそんなジンクスは無縁だった。今季からサンアントニオ・スパーズのAC(アシスタントコーチ)に就任した43歳は、3月3日(日本時間4日)のシャーロット・ホーネッツ戦でグレッグ・ポポビッチHC(ヘッドコーチ)に代わって指揮を執り、104-103の勝利に導いた。 1997年のドラフト1巡目1位指名でNBA入りしたダンカンは、19年間スパーズ一筋でプレイ。歴代17位の通算2万6,496得点、同7位の通算1万5,091リバウンド、同6位の通算3,020ブロックを記録したほか、優勝5回、シーズンMVP2回、オールスター出場15回など栄光に彩られたキャリアを送った。2020年のバスケットボール殿堂入りファイナリストにも名を連ねている。 昨夏に古巣スパーズのコーチングスタッフに加わったダンカンは、ポポビッチHCが個人的な事情により指揮を執れなかったため、3月3日のホーネッツ戦で代理として“HCデビュー”。今季ここまで5試合しか出場していなかった新人ケルドン・ジョンソンを自己最長の15分間プレイ(7得点)させるなど独自のカラーを見せ、敵地で勝利に導いた。『NBA.com』は試合後のダンカンのコメントを伝えている。 「今日はHCとして座っていたけど、実を言うと私はHCではなかった。我々には(アシスタントコーチとして)ベッキー(ハモン)やウィル(ハーディ)、ミッチ(ジョンソン)がいる。ミッチが試合の準備をして、ベッキーとウィルがすべてのプレイをコールしていた。私はただ立って叫んでいるだけの無意味な存在だったよ」 現役時代から自身が目立つことを嫌うダンカンらしく、2014年からACを務めるベッキー・ハモン、そして今季からコーチングスタッフ入りしたウィル・ハーディとミッチ・ジョンソンの3人を立てた。 ダンカンが選手時代、スパーズのACを務めていたホーネッツのジェームズ・ボレゴHCはジョークを交えつつ、“新人指導者”へリスペクトの言葉を送った。 「変な気分だ。彼の21番のジャージーとチームでリーダーシップをとる姿をよく見ていた。今晩、彼はブレザーを着ていた。彼がいなければ、私はここに(HCとして)座っていなかっただろう」 ダンカンの初采配は選手からも好評で、『San Antonio Express-News』のトム・オスボーン記者によれば、共闘経験もある6thマンのパティ・ミルズは「彼はすごく気が利く。素早く答えが見つけ出せて、知識も豊富だ。選手たちが質問すれば、建設的なフィードバックをしていた。これがHCとして初めての試合とは信じがたいよ」と感嘆していたという。 ダンカン本人はHC職について、「ポップが(次の試合で)戻ってくるだろうから、喜んで彼にHCの座を返すさ」とかわしていたが、本当のHCとして指揮を執る姿を楽しみにしているファンもきっと多いはずだ。