毎年のことながら、12月は怒涛である。昼は年末年始の休みに備えて仕事の段取りをしつつ、夜は忘年会ラッシュという人も多いだろう。テレビもすっかり年末モードで、今年の漢字が発表されれば世相を、レコード大賞が発表されればヒットソングを振り返る。当コラムも年内最後。NBAのアウォードは6月の発表だが、今回は当コラムで設けた勝手なアウォードと共に2019年のNBAを振り返ろうと思う。 まずはNBA版『M-1グランプリ』。この賞は、最も笑えるネタを提供してくれた選手に贈りたい。ノミネートしたのはロサンゼルス・レイカーズのレブロン・ジェームズとアレックス・カルーソというチームメイトの2人である。レブロンの植毛した前髪が試合中に抜け、それをアンソニー・デイビスに指摘されるという場面もなかなか滑稽だった。王様と呼ばれる男も生え際は制御できない、という男の哀愁が滲んでいるのも良かった。 しかし、今年のNBA版『M-1グランプリ』は、僅差でカルーソを選出した。今年のオフ、カルーソがワークアウトする姿をレイカーズ公式がツイートした。画像は計4枚で、そのうち2枚は上半身裸で筋トレに励む姿だったのだが、その2枚をファンがフォトショップでムキムキに加工。これがツイッター上で拡散された結果、NBAから抜き打ちのドーピング検査を受ける羽目になったのである。もちろん、検査結果は白だった。ちなみに、NBAはドーピング検査はあくまでランダムだとしているが、先日もシューターとして知られるダニー・グリーンが試合ですさまじいダンクを決めた直後にドーピング検査を受けるという出来事があり、作為的に検査対象を選んでいるのではないかと話題になっている。
次のアウォードは、NBA版『流行語大賞』である。この賞に関しては、ポートランド・トレイルブレイザーズのCJマッカラムがファンのツイートにリプライした “Im trying Jennifer”(原文ママ) の圧勝だろう。発言自体は2018年のものだが、シーズンを通して話題を振りまいてくれたので、この賞に値すると考えた。事の発端はマッカラムのテレビでの発言だった。昨シーズンが始まる前、マッカラムはテレビでデマーカス・カズンズが大幅な減俸を受け入れてゴールデンステイト・ウォリアーズと1年契約したことを批判、「僕は絶対にあんな風に優勝を追っかけたりしない」とコメントした。 このマッカラムの発言を受けてウォリアーズファンのジェニファーさんが「まずプレイオフで1勝してから口を開きなさい」とマッカラム宛にツイートし、件の流行語を引き出した。“Im trying Jennifer” は、「ジェニファー、俺だって頑張ってるんだよ」程度の意味だが、シンプルでキャッチーなこともあってネットで大流行。ポートランドのラジオ・ホスト、ブランドン・プレイグも「ジェニファー、今シーズンのブレイザーズに素敵なチームスローガンを作ってくれてありがとう」と反応、胸に “Im trying Jennifer” と書かれたTシャツを販売する者まで現れた。 その後シーズンが進むに連れてこのネタも下火になっていったが、プレイオフでブレイザーズが勝ち上がることでブームが再燃する。ブレイザーズがオクラホマシティ・サンダーをファーストラウンドで破ると、記者から「ジェニファーさんに何か言いたいことはありますか」と聞かれ、マッカラムが「いやいや、感謝してるよ。彼女はきっと若く素敵な女性だろう」と答える一幕があった。その後カンファレンス・ファイナルでデンバー・ナゲッツを倒したブレイザーズは、カンファレンス・ファイナルでウォリアーズとの直接対決を迎えた。シリーズの第2試合、ESPNがゲストに呼んだのは、なんとジェニファーさん本人。ついにマッカラムとジェニファーさんが対面することになったのである。ここでもジェニファーさんに何か言いたいことはあるかと言われたマッカラムは「ありがとう」と伝え、2人は笑顔で握手を交わした。ちなみにジェニファーさんのツイッターのプロフィールでは、現在も背景画像にマッカラムと対面した時の写真が使われている。
最後は、NBA版『このミステリーはすごい!』。毎シーズン、この部門のネタには事欠かないNBAだが、今年も多くの怪現象があった。まず思い浮かんだのは、マジック・ジョンソンである。当時レイカーズの球団社長を務めていたマジックだが、今年4月記者会見中に突然辞任を発表。さらに、元同僚のロブ・ペリンカの批判を始めて物議を醸した。現在最もホットなのは、カワイ・レナードのエージェントを務める叔父のデニス・ロバートソン氏の話題だろう。今年のオフにカワイはFAとなっていたが、エージェントのロバートソン氏がラプターズ、レイカーズ、クリッパーズといった契約候補先のチームに共同オーナーの権利、プライベートジェット、家、そしてお金を要求していたことが先日リークされた。カワイがスパーズからラプターズへ移籍した際も黒幕として名前の挙がったロバートソン氏は、今後も要注目かも知れない。 そんな多くのノミネートがあった『このミス』だが、当コラムではディオン・ウェイターズを選んだ。今年11月のこと、フロリダのトークショウ・ホスト、アンディ・スレイターが「フェニックスからロサンゼルスへの移動中、飛行機の中でマイアミ・ヒートの選手が救急医療が必要な状態に陥った」とツイート。続いて、ウェイターズがグミの過剰摂取で気を失い、起きてからパニック発作を起こしたことがツイートされた。ツイッター上でファンが心配する中、グミの過剰摂取というパワーワードが余計混乱を招いたが、蓋を開けてみればグミは大麻入りで、普段食べ慣れていないウェイターズが量を間違えたとのことだった。命に別状がなかったのは何よりである。 この不祥事を受けて、ヒートはウェイターズに10試合の出場停止を命じた。チームからの処罰としては類を見ない長さである。エリック・スポールストラHCとの口論により、開幕戦もチームから出場停止処分を受けていたウェイターズは、今シーズンまだ1度もプレイしていない。かつてウェイターズがスターになれると信じている少数派は「ウェイターズ・アイランドの住人」と呼ばれていた。現在のところ当時の住人の期待は裏切られているが、早く心を入れ替えて、最早無人島と化したウェイターズ・アイランドにファンが再上陸するぐらいの活躍を見せてほしいものである。
以上、勝手な私設アウォードと共に今年のNBAを振り返ってみた。当コラムも10月から週1回のペースで更新してきたが、様々な反響をいただいたおかげで無事に年を越せそうである。応援、叱咤ともに大歓迎。年が明ければトレードデッドライン、そしてオールスターが待っている。引き続き、来年も皆さんと共にNBAを楽しめますように。また、読者諸兄におかれましても、良いお年を迎えられんことを。
大柴壮平:ロングインタビュー中心のバスケ本シリーズ『ダブドリ』の編集長。『ダブドリ』にアリーナ周りのディープスポットを探すコラム『ダブドリ探検隊』を連載する他、『スポーツナビ』や『FLY MAGAZINE』でも執筆している。YouTube『Basketball Diner』、ポッドキャスト『Mark Tonight NTR』に出演中。