シーズン再開後のイースタン・カンファレンスでファイナル進出の最有力候補は、リーグ最高勝率(53勝12敗/.815)の成績を挙げるミルウォーキー・バックスだろう。11月から12月にかけて破竹の18連勝を飾るなど、開幕24勝3敗という見事なスタートダッシュに成功。その後もシーズン中断まで順調に白星を積み重ねたバックスに、1974年以来となるファイナル進出、そして71年以来のリーグ制覇を期待する声は少なくない。そんなチームを牽引したのが、昨季のMVPであるヤニス・アデトクンボである。
昨季、1試合平均27.7得点、12.5リバウンド、5.9アシストを記録したリーグMVPは、今季中断時点で平均29.6得点、13.7リバウンド、5.8アシストとさらに進化してみせた。今季のアワード選考は中断前までのパフォーマンスを基準にするため、アデトクンボが2年連続でMVPを受賞する可能性は十分にあるだろう。 仮に現在25歳のアデトクンボが今季もMVPとなれば、カリーム・アブゥドル・ジャバー(1971年と72年)、レブロン・ジェームズ(2009年と10年)に次いで、25歳以下で複数回のMVPを受賞した史上3人目の選手となる。
豪快なダンクなど圧倒的なオフェンス能力にスポットライトが集まりがちのアデトクンボだが、守備もトップクラスだ。昨シーズンはオール・ディフェンシブ・ファーストチームにも選出されている。さらに今シーズンは平均リバウンドでリーグ3位、個人の守備レーティング96.5(100ポゼッションあたりの平均失点)は同1位を記録。アンソニー・デイビス、ルディ・ゴベアらも有力候補ではあるものの、マイケル・ジョーダン、アキーム・オラジュワンに続く同一シーズンでのMVPと最優秀守備選手賞の同時受賞も十分ある。
新型コロナウイルス対策のためウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートでの一か所集中開催となる再開シーズンは、いろいろと行動が制限され、それに不満を訴える選手もいるが、彼にとっては障害にならない。『ESPN』によるとアデトクンボは「ギリシャで4人の兄弟と一緒に暮らしていたアパートは、今のホテルの部屋よりもずっと狭かった」と語っており、不便な環境にもストレスを感じていないようだ。 また、アデトクンボは3月6日のロサンゼルス・レイカーズ戦で右ひざを負傷し、リーグ中断前の2試合を欠場していた。もし、シーズンが中断されることなく続いていたら、責任感が強いだけに、痛みを抱えながらでもプレイを続けることを選択したかもしれない。だが、この中断期間によってじっくり静養することができたようだ。マイク・ブーデンホルザーHC(ヘッドコーチ)は「彼が健康であることは我々にとって大きなアドバンテージとなる。心身ともに素晴らしい状態だ」と、アデトクンボのコンディションに太鼓判を押している。
2013年のNBA入り以来、アデトクンボはここまで毎年、平均得点、平均リバウンドの数字を向上させてきた。そして彼の進化に歩調を合わせるように、バックスも着実に強豪の階段を上っている。まさに今シーズンは王座奪取へ機が熟したと言っていいだろう。 今シーズン終了後、アデトクンボはスーパーマックスでの契約延長が可能となる。「自分は長く同じチームにいたいタイプ」といったコメントを残すなど、本人も愛着のあるバックス残留を望んでいるとされている。去就に関する様々な憶測や雑音を封じるためにも、ここでチャンピオンとなれば、誰にも文句を言わせずにオフの延長契約交渉に臨むことができるだろう。彼自身だけでなくミルウォーキーの人々も、今季優勝を果たし、アデトクンボが長くチームにとどまってくれることを願っているはずだ。