カイリー・アービング提唱の選手主体リーグ案が無視できない理由【家徳悠介コラム vol.9】

NBA再開の時が刻一刻と近づくなか、カイリー・アービング(ブルックリン・ネッツ)の発言が注目されている。「(再開後の試合が行われる)オーランドに行くことは支持できない」と再開を否定するとともに、選手主体のリーグを発足すべきと言ったというのだ。 はたして、そうしたリーグの発足はどの程度現実味のある話なのだろうか。

カイリー案の実現には資金調達が欠かせないが…

カイリーが新リーグ設立を提案したのは、NBAがディズニーワールドの施設で再開しようとしている事に強く反対しているからだ。ESPNなどのレポートによると、カイリーがこの案を提示したのは今回が初めてではなく、シーズン中も継続して選手たちに打診していたという。 なお、新リーグの具体案は漏れ聞こえてこないが、こうした提案は他のリーグでもしばしば聞かれる。しかし、そのほとんどが実現に至らないのが実情だ。 カイリーの案で真っ先に浮かぶ問題点は、莫大と予想されリーグ運営資金の調達、NBAからどうやって選手を移籍させるか、そしてリーグ運営に必要な人材をどう確保するかといった点だ。 とりわけ資金調達については顕著だ。Vol.6のコラムで執筆した通り、NBAのチームは選手年俸だけで年間約1.1億ドル(約120億円)が必要で、その他にチーム運営費、強化費、施設運営費など莫大なお金がかっている。コロナで少しトーンダウンしたとは言え、確かにプライベート・エクイティー(PE)などによる大規模資金調達はカイリーが本気になれば可能とも思われるものの、プロスポーツ界でも高額の年俸を稼いでいるNBA選手が魅力に感じるサラリーを支払い、更にはその運営費を払うほどの資金を調達できるのかは極めて疑問だ。

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さらに、昨季MVPのヤニス・アデトクンボ(ミルウォーキー・バックス)が、「(カイリーは)NBAがリーグを発展させるために、どれほどの時間とお金をかけてきたのか理解していない。また、リーグが人気を長期間維持する難しさもね」と述べれば、NBA随一のエージェントとして知られるデビッド・フォークに至っては、「過去15年間で新規バスケリーグを始めるのに、これほど最悪なタイミングはない」と一蹴している。

カイリーの提案に対して、アデトクンボは否定的な意見を述べている

カイリー案を実現させる方法

先述の通り、筆者はカイリーの案が実現する可能性は低いと考える一方で、米国には老舗リーグから独立し近年大成功を収めている選手主体のリーグがある。一昨年発足したPLL(プロ・ラクロス・リーグ)だ。20年以上続いていたMLL(メジャー・リーグ・ラクロス)の運営に不満を持ったスター選手が独立し設立した、スタートアップ・リーグである。 このリーグは、ポール・レーブルというスター選手が発起人となり、選手の待遇をより良くすること、そしてチームでなく選手主体のリーグを作ることをミッションに掲げ、2018年に設立された。その際、チェルニン・グループ、ブラム・キャピタルといった大手ベンチャーキャピタルに加え、米国一のスポーツエージェンシーであるCAAからも出資を受け、周囲を驚かせた。 このリーグは発足間もないながら、人気、収入面でMLLを圧倒しており、数年後にはラクロスの主要リーグとなっている事が予測される。その成功要因として、以下が挙げられる。 ①ホームタウンを持たずツアーモデルでの開催 近年のファンがチームでなく、選手を応援している点に着目。全チームがホームタウンを持たず、統一会場で全試合を行うというモデルにしたこと(統一会場は試合ごとに変更)。これにより、スタジアム運営に関わるコストカットと同時に、一つの会場で全スター選手を見れるという、ファンにとっては夢のような舞台を実現した。 ②選手の不満を解決 MLLでは年俸が低かったため、選手は平日に別の仕事をせねばならず、ラクロスに集中できなかった。PLLでは会場費等のコストを削ると同時に、SNSを活用して選手の給与を劇的に上げることに成功した。 ③長期放映権確保 PLLは大手メディアのNBCとリーグ開幕前から長期の契約を締結。早くから安定収益を確保することに成功していた。 カイリーが新リーグを実現し、成功に満ちくためには、これらの要素を満たす必要がある。


カイリーが新リーグ発足にどこまで真剣なものかは不透明だが、元々ビジネスに熱心なカイリーであるため、この提案も事前調査はしているだろうし、もしかしたら様々な経済面を考慮した上で実現可能と考えているのかもしれない。 カイリーはミレニアル世代(1975~1990年代前半生まれの世代)、またその下の世代にあたるZ世代(1990年代中盤以降生まれの世代)に絶大な人気を誇っており、彼らの興味関心を良く理解しているものと思われる。特にZ世代のNBA人気は伸び悩んでおり、その世代の興味をどう喚起するかNBAは苦戦を強いられていた。もしカイリーがこれらを理解し、そうした層をターゲットに「現代向き」なモデルを新たに構築できれば、新リーグでバスケ界を圧巻する可能性は十分あるだろう。 今後、この新リーグ案がどのように進展していくのか目が離せない。

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家徳悠介:「スポーツはヲタクに変えさせろ」をスローガンに、 ニューヨークをベースにスポーツビジネスコンサル、及びスポーツテクノロジー事業を行う「スポヲタ社」を経営。テクノロジーを活用して、よりスポーツを面白くする事を心掛ける。

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