当コラムではこれまで2週にわたり、富永啓生選手のアメリカ挑戦の模様をお届けしてきた。最終回となる今週は、夢の舞台であるNBAについて富永選手からお話を伺った。
富永啓生という名前がバスケファンの間に知れ渡ったのは、2018年のウインターカップだった。平均39.8点という驚異的な得点力と共に、シュートを決めたあとの天を指差すジェスチャーや派手なガッツポーズを記憶している方も多いだろう。普段はのんびりとした雰囲気の富永選手だが、小さい頃からNBAを観ていた影響で試合中は自然とアメリカンなジェスチャーが出るという。 バスケを始めた頃の富永少年は、コービー・ブライアントのファンだった。しかし、ある選手の登場でその心はすっかり奪われてしまった。そう、ステフィン・カリーだ。以前『ダブドリ』でインタビューさせてもらったときはカリーのすごいところについて「3ポイントレンジの広さと、広いにも関わらず決めてくるところ」と答えていた。まさに今、憧れのカリーと同じ武器を磨いてアメリカで活躍していることを思えば、感慨深い。 アメリカに渡って以降もNBAをチェックしているという富永選手。今シーズン一番印象に残っている試合を聞くと、「カリーの復帰戦です。『復帰してすぐあんなにシュートを決められるんだ』って思いました。やっぱりカリーはオーラが全然違いますね」と目を輝かせながら答えてくれた。NBAを語るときはいちファンに戻ってしまう、そんな富永選手に今シーズンのアウォードを選んでもらった。
まずはMVP(最優秀選手賞)。米メディアではヤニス・アデトクンボとレブロン・ジェームズの一騎打ちだと報じられているが、富永選手には別の意見があるようだ。 「自分なら(ルカ)ドンチッチを選びますね。すべての分野でレベルが高いですし、クラッチタイムでも決められるので」 たしかに今シーズンのドンチッチはもう少しチームを勝たせていたらMVP候補に名前が挙がっても不思議ではない活躍をしていた。 次は最優秀守備選手賞(以下DPOY)。富永選手が選んだのはカワイ・レナードだった。カワイと言えば昨年のドラフト前に八村塁の比較対象として紹介されていたが、富永選手もフェイダウェイを打つ姿などが似ていると感じることがあるそうだ。なお、富永選手はその八村を新人王(以下ROY)に選んでいる。 「ザイオン(ウィリアムソン)は全く参考にならないぐらい身体能力がすごいですし、(ジャ)モラントも能力が高い選手ですが、僕は八村選手に獲ってほしいですね」
最後に、オールNBAチーム。富永選手が真っ先に挙げたのはステフィン・カリーだ。今シーズンは怪我でほとんど出ていないが、選考理由は「もちろん、好きだからです」。ガードのもう1枠にはトレイ・ヤングが入った。やはり自分と同じロングレンジを狙えるシューター系のガードが好みなのだろうか。フォワードは「アシストができるし自分で点も取れる」レブロン・ジェームズ、そしてDPOYに指名したカワイ・レナードと順当な選出。 意外だったのはセンターで、「自分、(ロサンゼルス)レイカーズの(ジャベール)マギーが好きなんですよね。プレイもノリもめっちゃレイカーズに合ってませんか? 観てて面白いです」とのこと。マギーがオールNBAチームにふさわしいかと言われれば疑問は残るが、カリー、ヤング、レブロン、カワイというメンバーに加わればアリウープを連発してくれそうである。
今年は大好きなカリーのいるゴールデンステイト・ウォリアーズの他、八村のいるワシントン・ウィザーズの試合をよく観たという。富永選手の目に八村の活躍はどう映ったのだろうか。 「日本人とか関係なく、普通にNBA選手として活躍しているのがすごいです。いいところは合わせからのダンクや、ハイポ辺りからの正確なシュート。課題はスリーポイントでしょうか」 よくディフェンスが苦手と評される八村だが、富永選手の意見では「ブロックもいいし、ディフェンスに問題があるようには見えない」とのことだ。
すでに驚異的な活躍をしている八村、本契約に手が届きそうな位置にいる渡邊雄太、そしてB.LEAGUEからNBAという前例のないルートに挑戦している馬場雄大。この3人に続くべく奮闘中の富永選手に、最後にこんな質問をしてみた。 「富永選手から見て、アメリカに挑戦してほしい同年代の日本人選手はいますか?」 すると、少しの迷いもなく富永選手が答えた。 「河村(勇輝)ですね。アメリカでもあんなスピード見たことないですよ。アメリカにはクロスオーバーで横に振るスピードが速い選手はいますが、縦のスピードなら河村が一番です」
その河村選手は先日『ダブドリ』のインタビューの中で「自分もアメリカにいるトミーを見てすごくいい刺激になってますし、トミーも多分、自分のBでのプレイを見ていい刺激になってると思います。お互いが成長して、二人で日本代表を背負ってやっていきたいって気持ちもあります」と発言していた。 富永選手と河村選手。ウインターカップ で激戦を繰り広げた2人が数年後、現在の八村、渡邊、馬場のように日本バスケを引っ張っていくのだろうか。勝手にそんな期待をしてしまうが、画面の中の富永選手はあくまで肩の力が抜けた自然体だ。こちらの思惑などひらりと交わして自分の道を進んでくれそうな、そんなしなやかな力強さを感じる。 2人は、おそらく日本バスケを引っ張っていってくれるだろう。ただし富永啓生は富永啓生のやり方で、河村勇輝は河村勇輝のやり方でそれを為すだろう。近い将来、そんな光景が見られることを楽しみにしている。
大柴壮平:ロングインタビュー中心のバスケ本シリーズ『ダブドリ』の編集長。『ダブドリ』にアリーナ周りのディープスポットを探すコラム『ダブドリ探検隊』を連載する他、『スポーツナビ』や『FLY MAGAZINE』でも執筆している。YouTube『Basketball Diner』、ポッドキャスト『Mark Tonight NTR』に出演中。