サンアントニオ・スパーズのグレッグ・ポポビッチHC(ヘッドコーチ)は歴代3位の通算1272勝を誇り、将来のバスケットボール殿堂入りが確実な名将だ。71歳の指揮官がなぜ特別な存在なのか、元教え子がエピソードを交えて明かした。 セルビア系アメリカ人のポポビッチHCは、空軍士官学校で4年間過ごして兵役へ。大学のHCを経て、1988年にスパーズのアシスタントコーチとしてNBAでのキャリアをスタートさせた。94年にゼネラルマネージャーに就任し、その後96年にヘッドコーチの座に就き、NBA歴代最長記録となる24シーズン目を迎えている。
スパーズを5回の優勝に導き、自らも最優秀HC賞を3回獲得した名将について、2003-04シーズンにドラフト外からスパーズに加入してプレイしたブラジル人ガードのアレックス・ガルシアが語った内容を、『ESPN BRASIL』のグスタボ・ファルドン記者とウラジミール・ビアンチーニ記者が伝えている。 「ポポビッチと他のHCの大きな違いは戦術やシステムじゃない。彼が特別だった所以はオフコートでのアスリートとの向き合い方さ」 ガルシアによれば、過去にはトレーニング中にメニューを中断させて選手を集め、怒りを露わにして立ち去ったことがあったという。翌日にアシスタントコーチからビデオルームに行くように言われると、ポポビッチHCは一人一人に100ドル(約1万1000円)が入った封筒を手渡し、「私はミスを犯した。君たちは悪くない」と謝罪したそうだ。 ポポビッチHCはメディアに対してはどこか皮肉っぽく、インタビュアー泣かせとして知られるが、ガルシアは「ポポビッチが非常に素晴らしい人間で、遊び心があるいたずら好きで、みんなにモラルを与えてくれる。すごく穏やかで一流の男さ」と素顔を明かす。 「ポポビッチは僕の妻が妊娠した時、僕らに寄り添って問題はないか尋ねてきてくれた。彼の奥さんは、ティム・ダンカンの奥さんと一緒に、僕の妻のためにベビーシャワー(出産前に妊婦を祝うパーティー)を開いてくれた。妻がホテルをチェックアウトした時には、従業員から(お代の)支払いは必要ないと言われた。ポポビッチが全額支払ってくれたんだ! しかも、彼は出産目前だった妻のためにスパの代金も支払ってくれていた。妻はそれらを満喫していたよ」 ガルシアはスパーズでは2試合しか出場しておらず、平均6.5分間のプレイで1.5得点と主力クラスの選手ではなかったが、ポポビッチHCはそういう選手にも気配りを忘れなかった。稀代の名将の微に入り細をうがつ卓越したマネジメント力を表すエピソードではないだろうか。