今週は映画編その2として、「NBA選手が出演している映画」を紹介する。先週に引き続き、私が編集長を務めるバスケ雑誌『ダブドリ』に映画コラム「シネトラ」を連載中のタツヤ・マキオ氏が、お薦めの映画をピックアップしてくれた。
香港映画の伝説、ブルース・リーの主演映画。リー扮する映画俳優のビリーと恋人で歌手のアンは、国際シンジケートにマネージメント契約を迫られていた。シンジケートの親分ドクター・ランドと部下のスタイナーは、アンを脅迫するなど様々な手段を使うが、ビリーは頑なに契約を拒否する。業を煮やしたドクター・ランドは、ビリーの暗殺を決意。シンジケートの殺し屋スティックは映画の撮影に見せかけてビリーを殺害しようとする。顔に重傷を負いながらも死の淵から生還したビリーは、シンジケートに自分が死んだと思わせたまま逆襲する計画を立てる……。 『死亡遊戯』に登場するNBA選手は、カリーム・アブドゥル・ジャバー。のちに殿堂入りした名選手だ。マジック・ジョンソンと組んで5度のNBA優勝を果たしたロサンゼルス・レイカーズ時代が有名なので、ジャバーと言えばスキンヘッドにゴーグル姿を思い出す人も多いだろう。しかし、この映画に出たのはまだ若いミルウォーキー・バックス時代で、ショートアフロがトレードマークだった。ブルース・リーからジークンドー(リーが創始した武道)を習っていたのが縁で映画に出ることになっただけに、動きはいい。演技という演技はなく見せ場は格闘シーンのみだが、圧倒的な存在感を放っている。
この作品を観ている最中、私はずっと得体の知れぬ違和感を覚えていた。好意的に解釈できるところはいくつかある。どんどん強い敵が出てくる展開は、少年漫画やテレビゲームの原型を観ているようだ。格闘シーンも、まだ総合格闘技が成立する前の異種格闘技戦と呼ばれた時代の趣きがあり、なんだか懐かしい気分に浸れる。しかし、映画の根本的な部分で言えば、プロットも演出も褒められたものではない。特に、物語の鍵になると思われた「敵に死んだと思わせる」意味を見いだせないまま映画が終わってしまったときは、呆気にとられてしまった。 鑑賞後、あまりにも消化不良だった私は、ネットで本作の情報を探り、衝撃の事実にたどりついた。本作はリーの死後、制作途中で止まっていた映画に既存の映画のカットや代役での撮影を加えて完成させたというのだ。これを知ったあとに改めて観ると、たしかに継ぎ接ぎだらけなことがわかる。違和感の正体はこれだったのだ。ジャバーの大ファン以外にはオススメし辛い映画である。
ケビン・ガーネットが本人役で登場するクライム映画。宝石商のハワードは借金取りに追われ、質屋を利用したりしながら綱渡りの生活をしている。そんなハワードの元に、ある日エチオピアの鉱山から採掘されたオパールが届く。ハワードはオパールで一攫千金を狙っていたが、来店したNBAのスター選手ケビン・ガーネットに自慢したところ、ガーネットがそのオパールに魅了されてしまう。ガーネットの強い要望を断れず、ハワードは一晩という約束でオパールをガーネットに貸すのだが……。 本人役とは言え、ガーネットはハマり役である。ガーネットのキャラクターが存分に物語に活かされているため、我々NBAファンはNBAを知らない層の数倍楽しめると思う。後述するが、本作の主人公ハワードは全くもって感情移入できないキャラクターだ。そのハワードに対するガーネットの反応の変化を見ることで、「そうか、あのガーネットがこんなリアクションをするんだから、感情移入できなくてもいいんだ」となんだか救われた気持ちになった。ガーネットが本人役だからこそ彼を物差しにすることができる。そしてその物差しを正確に使いこなせるのが、NBAファンたる我々の特権なのだ。 とはいえ、本作をお薦めできる人は限られている。おそらくこの映画を楽しむことができるのは、年間何十本と鑑賞するコアな映画ファンだけだろう。ハワードはギャンブル依存症な上に妻子を置いて浮気相手と同棲しているダメ男だ。しかも口八丁でその場しのぎの行動ばかりとる。映画の大半は、感情移入できない男がピンチに陥る姿をひたすら見せられるだけである。しかもBGMも映画音楽とは思えぬ妙に気をとられる曲が使われていて、集中して観続けること自体が難しい。これらの難関を乗り越えられた人だけに、衝撃的な結末を観ることが許される。我こそはと思う人は挑戦してほしい。
若き日のアーノルド・シュワルツェネガーが主演するファンタジーアクション映画。女王タラミスは、コナンに悪魔の角を持ち帰ってほしいと頼む。悪魔の角は女王の姪ジェンナだけが触ることができる。ジェンナを護衛するのがコナンの役目だ。最初は断ったコナンだったが、死んだ恋人バレリアを生き返すことができるという女王の口車に乗り取引に応じる。女王の密命を帯びた騎士ボンバータ、宝石泥棒のマラク、魔術師アキロ、女戦士ズーラを引き連れ、コナンとジェンナは冒険の旅に出る……。 女王の腹心ボンバータを演じるのが、数々のNBA記録を持つ男としてお馴染みのウィルト・チェンバレンだ。最も有名なのが、1962年にニューヨーク・ニックス戦で挙げた100得点という記録だろう。チェンバレンが100と書かれた紙を手に笑顔を見せる写真を見たことがある方も多いと思う。NBAファン目線では伝説の選手チェンバレンがこなすアクションシーンが注目だが、そつなく演じ切った印象である。
残念ながら、作品自体はチープを極めたようなストーリーだ。ロールプレイングゲームのようにただ冒険をクリアしていく。そこには伏線の概念がない。すべてがお約束通りだ。強いて言えば、殺陣は日本の時代劇の影響を見てとれるのに、素手の勝負だと途端にプロレス的になるのが興味深かった。時代劇の要素を取り入れたのは『スターウォーズ』シリーズのヒットに影響されたからだろう。また、プロレスに範をとっていることから、当時はまだ総合格闘技が市民権を得ていなかったことが知れる。そういった時代を考証して楽しむのがせいぜいといったところか。
NBA選手が出た映画ということで、鑑賞前は楽しみ半分怖いもの見たさ半分という心持ちだった。というのも、学生時代ラップ界のカリスマNasが『沈黙のテロリスト』という映画に出演した際にとんでもない大根役者ぶりを披露、以前とは同じ目でNasを見られなくなってしまったという悲しい出来事があったのだ。その点、先週紹介したレイ・アレンも含めNBA選手たちはスクリーンでも輝いていた。作品自体は手放しで褒めるわけにもいかないが、レイ・アレンのファンなら『ラスト・ゲーム』を、ケビン・ガーネットのファンなら『アンカット・ダイヤモンド』を観ても後悔はしないと思う。 さて、次週はNBAにまつわるどんな趣味を紹介しようか。シーズン停止期間は続くが、これを機にこれまで興味の湧かなかったことも積極的に取り上げようと思っている。観戦以外のNBAの楽しみ方を知っているという方がいたら、是非コメント欄にて教えてほしい。力を合わせてコロナ禍を乗り切りましょう。
大柴壮平:ロングインタビュー中心のバスケ本シリーズ『ダブドリ』の編集長。『ダブドリ』にアリーナ周りのディープスポットを探すコラム『ダブドリ探検隊』を連載する他、『スポーツナビ』や『FLY MAGAZINE』でも執筆している。YouTube『Basketball Diner』、ポッドキャスト『Mark Tonight NTR』に出演中。