「期待通りどころか期待を超えた」レジェンズ指揮官が見た馬場雄大のNBA挑戦1年目【杉浦大介コラム vol.19】

新型コロナウイルスによるパンデミックで3月中旬からNBAのシーズンは中断し、マイナーリーグであるGリーグはNBAの再開を待たずして今季終了を発表した。それに伴い、今シーズンはダラス・マーベリックス傘下のGリーグチーム、テキサス・レジェンズでプレイした馬場雄大のアメリカでの1年目も終わったことになる。 馬場はレジェンズの一員として41試合に出場し、5戦で先発出場。平均19.6分コートに立ち、6.3得点、2.6リバウンド、1.2アシスト、1.0スティールという成績を残した。これらの数字とその働きを、現場の人間はどう見ていたのか。レジェンズのヘッドコーチを務めたジョージ・ガラノプロスに、馬場の評価と今後の展望を尋ねた。

1オン1のディフェンスはエリートレベル

「馬場は期待通りどころか、期待を超えるだけのプレイをしてくれた。シーズンを通して素晴らしいディフェンスを続け、アウトサイドシュートを劇的に向上させた。彼がチームにもたらしたインパクトを喜ばしく思っているよ」 今季の総合評価を尋ねると、ガラノプロスHCは極めて好意的な言葉を返してくれた。もちろんコーチは自軍選手に関し、常にポジティブな部分を見つけようとするもの。それでも馬場に関しての言葉は、リップサービスではなかったのではないか。 開幕当初、アメリカのバスケットボールに慣れていなかった頃の馬場は、プレイ時間をほとんどもらえないことも多かった。それが徐々に出番を増やし、シーズン中盤以降は主力選手の地位を確立。今季24勝19敗でウェスタン・カンファレンス4位につけていたレジェンズに、様々な形で貢献した。

Bリーグ時代から定評のあったディフェンスについて、ガラノプロスHCも高く評価した

「最も印象的だったのはディフェンス。馬場の1オン1のディフェンスはエリートレベルだ。また、シーズンを通じてシューティングが向上したのも印象的だった。ハードな練習を続けた成果が示されたのだろう」 ガラノプロスHCのそんな言葉通り、シーズン中盤以降の馬場は3&Dプレイヤーとして頭角を現した感があった。持ち味のアグレッシブなディフェンスが冴え、2月1日のオースティン・スパーズ戦では3スティールを記録。守備意識の薄い選手が多かったレジェンズに、献身的な姿勢の馬場はうまくフィットしていたといってよい。 そして何より特筆すべきは、今季中にシューターとしても開眼したことだ。特に1月下旬から3ポイントの調子が劇的に上向き、29日のメンフィス・ハッスル戦では3/3、31日のノーザンアリゾナ・サンズ戦では5/6、2月1日のスパーズ戦では4/6ととてつもないペースで沈めて見せた。シーズンを通じての3P成功率も41.5%とハイレベルで、この点こそが今季最大の収穫といえたのではないか。

目標であるNBAに行くための課題とは

日本での馬場は必ずしもロングジャンパーで知られた選手ではなかった。渡米後にこれほど向上した理由として、本人は「(アメリカでは)他の選手が“チャンスがあれば打つ”というスタンスでいるので、そこに触発されたというのもあります」とメンタル面の変化を挙げてていた。それと同時に、黙々と継続したハードな練習が身を結んだ部分ももちろんあったに違いない。 「馬場はコート上ではすべての時間でハードにプレイしてくれる。そして毎日、課題を持って練習に取り組む。同時に素晴らしいチームメイトでもあるんだ。この組織が目指すべきものを体現してくれる選手なんだよ」 ガラノプロスHCはそう語り、馬場の姿勢の部分を絶賛していた。 実際に馬場は出番が少なくても腐らず、徐々にプレイの質を向上させていった。最終的に残っているスタッツは目立つものではなくとも、チーム事情から先発出場した1月31日~2月10日の5試合では平均13.4得点、FG成功率59.5%(25/42)、3P成功率52.0%(13/25)と好成績をマーク。こうして逆境の中で力をつけていった日本人ルーキーを、シーズン中に指揮官は「彼はこのチームの“ハート&ソウル(心の拠りどころ)”なんだ」と評していた。そのたゆまぬ努力でコーチ、同僚たちからリスペクトを勝ち取り、Gリーグでも力を証明したことは間違いないだろう。  

昨夏のワールドカップでは、アメリカ代表を相手にチームトップの18点をたたき出した馬場。この積極性がある限り、まだまだ飛躍が期待できるはずだ ©FIBA

もちろん馬場の最終目標であるNBAまでは、まだまだ遠いのも事実である。Gリーグレベルでは通用しても、NBAに行くにはさらに一段上のスキルと強さが必要。ガラノプロスHCも「次の段階に進むためには、ボールハンドリング、ドリブルからの状況判断、ゴール周辺でのフィニッシュ力を改善しなければいけない」と述べ、馬場には課題も多いことは付け加えていた。 ただ、アメリカではまだルーキーなのだから、克服しなければいけない点が残っているのは当然だ。特に生活環境、言語、プレイのレベルなど、すべてが違う場所で過ごしての1年目と考えれば、馬場の今シーズンは成功だったとみてよいのではないか。少なくとも来季以降につながっていく1年だったと言えるだろう。

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杉浦大介:ニューヨーク在住のフリーライター。NBA、MLB、ボクシングなどアメリカのスポーツの取材・執筆を行なっている。『DUNK SHOOT』、『SLUGGER』など各種専門誌や『NBA JAPAN』、『日本経済新聞・電子版』といったウェブメディアなどに寄稿している。

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