NBA好き、そしてスポーツビジネス好きの皆さま、スポーツイベントがコロナショックの影響で縮小されている中、いかがお過ごしでしょうか? 今回のコラムでは、NBAの全チームが活用する世界最大級のスポーツデータ分析企業であるシナジー・スポーツ・テクノロジー社(以下、シナジー社)が提供するデータ分析サービス「シナジー」について紹介していきます。
シナジーでは、バスケットボールのあらゆるプレイの詳細なデータを自社が定めた項目(アドバンスドスタッツ、プレイタイプ、試合状況など)を基に分析、更にはそれに紐づいた試合映像が取得可能です。しかもそれらを試合終了後一時間以内に閲覧可能にしまうのですから驚きです。これを活用し、NBAの各チームは自軍や相手チームの選手はもちろん、ドラフト対象選手を分析しています。なお、NBAの試合中継時に各テレビ局がデータをレポートする際も、シナジーのデータが活用されています。
これによって、各チームは自分たちの選手はどのようなプレイが得意か(例:ピック&ロール後のシュート、スポットアップシュートなど)を理解し、チームにとって最適な戦術をたて易くなると共に、シナジー内にある莫大なデータベースを活用して今後対戦するチームの特徴を細かく分析することができるのです。例えば、NCAAの名門デューク大ヘッドコーチの“コーチK”ことマイク・シャシェフスキーは、毎試合前にコーチ陣と共に事細かく対戦相手の癖を分析し、相手に左へのドライブが不得手の選手がいれば、試合中左へ行かせるように仕向けているといいます。 上記のように、シナジーによって各チームはビデオ分析の時間を大幅に短縮するとともに、より高度な試合展開が可能となったのです。
NBAに欠かせないサービスであるシナジーを立ち上げたのは、フェニックス・サンズのビデオコーディネーターだったのです。 1992年、米国大学バスケ界の中堅グランド・キャニオン大でアシスタントコーチを務めていたギャレット・バーは、フェニックス・サンズにビデオコーディネーターとして転職しました。「コーチや選手に、試合映像から読み取れる分析データを提供したい」というのが、新天地での彼の野望でした。 そんなバーに当時サンズのHCだったポール・サイラスが命じたのが、「自チームの選手が、相手選手のシュートを如何に上手くチャレンジしたかを測って欲しい」とのものでした。バーはそれを可能にするべく、ビデオ分析中に相手の全シュート機会、自チームが相手をチャレンジした全シュート機会をそれぞれ記録すると共に、それらシュートチャレンジを一定の法則に基づいて点数化することで、この難題に挑みました。そしてこの第一歩が、後にシナジーの根幹となるのです。 バーの熱心な取り組みは、すべてのサンズ関係者を満足させました。そして、その有益性はサンズ内にとどまらず、リーグ内でも瞬く間に評判を呼ぶこととなるのです。 1998年、サンズ在籍7年目を迎えていたバーは、古巣グランド・キャニオン大でHCを務めていたスコット・モスマン氏と共に、シナジー社の前身となるクオンティファイド・スカウティング社を設立します。同社では、モスマンが衛星中継などを通して得られるNBAの試合をすべて録画し、グランド・キャニオン大の選手たちと共に、全ポゼッション、プレイをタグ付けによって分類することで、NBA全選手のオフェンス分析レポートを作成していました。そして、彼らが作成するその真新しいレポート欲しさに、瞬く間に大半のNBAチームが同レポートを定期購入するまでに至ったのです。
その後、インターネットの急速な進化を受け、バーは資金調達を行なった上でシナジー社を設立します。現在ではNBAのみならず、NCAA、更には日本のBリーグ含む世界中のリーグを顧客に抱えるまでに成長したのです。
シナジー社は映像と自社サービスの相性の良さを加味し、昨年末、前回ご紹介したキーモーション社を傘下に収めるアトリウム社に買収されることで、キーモーションと事実上の合併を果たしたのです。これにより、練習・試合映像の自動取得機能と高度データ分析機能の一体化が可能となり、各リーグ・チームにより良いサービスを提供できるようになりました。 本稿執筆にあたり、シナジー社CEOのマーク・シルバー氏に今後の展望を聞きました。シルバー氏は、「シナジーはNBA、そして日本のBリーグを重要なパートナーと捉えている。世界における主要リーグである両リーグに対して、今後も最高のサービスの提供を続けたい」と述べ、NBAと同様にBリーグに対しても積極的に取り組んでいくという姿勢が見て取れました。 NBAに限らず、日本をはじめとする世界各国のリーグでも多く活用されているシナジーは、キーモーション社とセットで今後さらにバスケットボール界を盛り上げていくのは間違いないでしょう。
家徳悠介:「スポーツはヲタクに変えさせろ」をスローガンに、 ニューヨークをベースにスポーツビジネスコンサル、及びスポーツテクノロジー事業を行う「スポヲタ社」を経営。テクノロジーを活用して、よりスポーツを面白くする事を心掛ける。