2005年、高校卒業直後にプロへ転向し、JBL、NBL、B.LEAGUEと長らく活躍した川村卓也さんが、4月26日(金)に「NBA Rakuten」で配信したロサンゼルス・レイカーズ対デンバー・ナゲッツ戦で解説を務めた。類い稀な得点能力の持ち主で、NBAのサマーリーグにも挑戦した経験を持つ日本随一のオフェンスマシンに、NBA初解説の感想やプレイオフの印象、八村塁や渡邊雄太への思いを聞いた。※インタビューは解説後に実施。
――本日はお疲れ様でした。普段B.LEAGUEの試合解説はされていますが、NBAの初解説はいかがでしたか? 川村:恐縮しちゃいましたね、何せ世界最高峰のリーグですから。僕も解説者としてはまだ素人ですし。だからこそ、NBAのプレイオフで話させて頂けたのは非常に光栄でした。B.LEAGUEとNBAファンの層って違うと思っていて、NBAはよりコアな方が多いのかなと。そのなかで言葉選びとかは意識してきました。それがうまく反映されていたかは自分では分からないですけど……。 ――選手経験があるからこその視点での解説がとても良かったです! そしてオープニングでは元NBA選手のゴラン・ドラギッチとの交流について話していただきました。 川村:ゴランは僕がNBAのサマーリーグに挑戦した時(2009年)に初めて会いました。彼がNBA2年目だったかな。僕たち同い年なんです(2人は今年38歳)。エージェントが同じで、現地ではワークアウトやバスケットボール以外のオフの時もずっと一緒にいて。可愛がってもらっていた感じです。彼もアメリカ人ではないですし(スロベニア出身)、現地で自分を支えてくれた1人でした。アメリカでの思い出って言ったらまず彼が浮かびますね。それ以降もSNSでいいねし合ったり、彼が怪我でプレイできていない時などはメッセージを送ったりもしました。
――そんな交流があるのですね。そして本日はレイカーズ対ナゲッツ戦を解説頂きました。まずはナゲッツの印象について教えてください。 川村:組織的にシューターを生かすシステムだったりとか、ピック&ロールからズレを作ったりといろんな面が見られました。チームとして幅があるというか、レイカーズよりも多くのオプションを持っている印象でした。二コラ・ヨキッチとジャマール・マレーを中心としながらも、アーロン・ゴードンがうまく合わせたり、マイケル・ポーターJr.がしっかりミッドレンジを沈めたり。1つ目、2つ目とダメでも、3つ目、4つ目のオプションを持っている。B.LEAGUEのチームもナゲッツのバスケットボールは参考になるんじゃないかと思いました。 レイカーズはレブロン(ジェームズ)、AD(アンソニー・デイビス)が軸となるのはどのチームも分かっていること。なので、もう1人か2人、レブロンとADに追随する選手が出てくるといいんですけど……。
――今日の試合で八村塁選手は、あまりオフェンスに絡むことができませんでした。 川村:もう少しボールに触れさせてあげて欲しいですね。仮にシュートまで持っていけなくても、ボールムーブの中でボールをタッチするだけで感覚を掴めることもあるので。もうちょっとチャンスを与えて欲しかったです。コーナーにステイしたままボールに触れられず、ショットクロック残り2秒とかで苦し紛れにボールが来てもさすがに厳しいなと。 ――ボールを待っていてもなかなか回ってこないというのは、選手としては辛いものですよね。 川村:そこについてはしっかり割り切って、自分の役割と理解してるはず。だからこそ塁もしっかりキャッチする体制を整えている。常にイメージしながら準備しているんでしょうね。 ただ今日は本当にステイだけで、オフボールムーブにあまり絡んでいる印象はなかったです。一方でナゲッツのゴードンは、バックカットしたり、ウィークサイドからゴールにダイブしたりしていました。塁もそれをやる能力は十分あるし、むしろそういうことが得意だと思うんですけど、(それをしないのは)チームの方針なのかもしれません。 ――今日は元気のなかった八村選手ですが、川村さんから見て今シーズンを通してのパフォーマンスはどんな見方をされていますか? 川村:毎年成長しているなというのがよく分かります。レブロンとADがいるなかで、自分の役割を理解できているなと。そして3ポイントの改善。レイカーズでこれだけのパフォーマンスを残せたのは、自分の立ち位置や技量を理解して、改善点をしっかり克服してきたからだと思います。塁と言えばランニングプレイだったりミッドレンジのジャンパーというイメージが強いですが、そこに3ポイントが加わったんだから相手も非常に厄介と思っているでしょうね。
――NBAはプレイイン・トーナメントが先日終わって、プレイオフ1回戦が行なわれています。気になるチームはありますか? 川村:ヒートですね。セルティックスに対してジミー・バトラー抜きで第2戦を勝ちましたから。下位シードですが「ちょっと怖いなぁ」っていう雰囲気がありますよね。 他にも気になるチームはありますけど、自分はオフェンスで生きてきた人間なのでペイサーズを挙げたいです。オフェンスに振り切ったスタイルは観ていて楽しいです。どちらがいいとか悪いとかではなく、B.LEAGUEではディフェンスを中心に考えているチームが多いので、そういう意味でも新鮮な気持ちでペイサーズを観ています。ただ完成度で言ったらナゲッツが群を抜いていると思います。 ――完成度が高いというナゲッツですが、川村さんから見て穴というのはありましたか? 川村:SG、SFのサイズですかね。レブロンやADもミスマッチになったら徹底的に突いていたので。でもまあそこまで大きな穴ではないというか、自分も解説しながら圧倒されたくらいなので(笑)。得点面もリバウンドなどもやるべき選手がしっかり働いていたという印象です。あとは強いて言うならゲームの入り。今日もレイカーズに8-0のランを喰らっていましたが、序盤がちょっと重いという印象です。でもそれくらいかもしれません。 ――NBAもいよいよ残り約2か月、NBAファイナルの予想を教えてください。 川村:難しいなぁ(笑)。ナゲッツはもちろん、サンダーもいいし。イーストはセルティックスですかね。1回戦でヒートと1勝1敗ですが、セルティックスが勝つと思います。んー……ナゲッツ対セルティックスで! 第6、7戦にもつれるクロスゲームになって、最後はナゲッツがちょっと上回って連覇する気がします。
――最後に、今季まで6シーズンにわたってNBAでプレイしてきた渡邊雄太選手についてお聞かせください。来季からはB.LEAGUEに活躍の場を移します。 川村:八村選手と同様、日本人選手として成功しようという強い気持ちを持ちつつ、自分の立ち回り方をしっかり理解した上で泥臭いことから頑張っていたというのは、本当に感じるものがたくさんありました。献身的なディフェンスからのスティール、そしてファストブレイクからのダンク、NBAのトッププレイヤーからのアシストで沈めるコーナースリー。そんな姿には、僕もそうですが多くの人が心を動かされたと思います。本当に敬意を表したいです。 ――日本ではどのチームに行くのか、SNS上でも大きな話題となっています。 川村:本人がフラットに考えていると言っているんですから、すべてのチームはオファーすべきでしょう(笑)。あれだけのプレイヤーなので、チームはもちろん世間に与えるインパクトも大きいですし。選手たちにもいい影響を与えると思いますよ。彼の情熱やバスケットボールに取り組む姿勢など、選手たちも考えさせられるポイントが多いはずです。そんな選手が来るんですから、B.LEAGUEにとっても幸せなことですよね。 ――渡邊選手にはどのような活躍を期待しますか? 川村:環境も大きく変わる中で、多くのファンが楽しみにしているように圧倒的なパフォーマンスを見せてほしいですね。最初から自分なりのペースをつかんで、最終的に「やっぱNBAプレイヤー・渡邊雄太は違うな」って。彼の凱旋を僕自身もめちゃくちゃ楽しみにしています!