ワシントン・ウィザーズのルーキー八村塁はNBA1年目の今季、開幕から全18試合(現地12月2日時点)にスタメン出場して平均13.3得点、5.6リバウンド、1.6アシストの成績を残している。これまでラマーカス・オルドリッジ(サンアントニオ・スパーズ)やケビン・ラブ(クリーブランド・キャバリアーズ)ら実績のあるスターとのマッチアップを経験してきたなか、11月26日からのアウェー4連戦ではレイカーズとクリッパーズというリーグ上位につけるロサンゼルス勢と激突。レブロン・ジェームズや昨季ファイナルMVPのカワイ・レナードら“トップ・オブ・トップ”との対戦で見えた八村の現在地とは――。 八村は日本バスケットボール界のパイオニアである田臥勇太(宇都宮ブレックス)さえも成し得なかった出来事を、現在進行形で体験している。日本人史上初のNBAドラフト1巡目指名(9位)に始まり、開幕スタメン……、そして日々数字を積み重ねて日本人記録を更新中だ。 ウィザーズで開幕から全試合スタメン出場を続けているのは、エースのブラッドリー・ビールと八村の2人のみ。スコット・ブルックスHC(ヘッドコーチ)の寵愛を受け、ルーキーながら主力としてチームを支えている。 そのなかで、11月29日にはレイカーズ、12月1日にはクリッパーズと連続で強豪に挑んだ。レイカーズ戦では“キング”レブロンにフィジカルコンタクトを受けながらも力強くゴール下で得点を決め、リーグ屈指のセンターであるアンソニー・デイビスとのマッチアップでも粘りのディフェンスで奮闘。両者に目の前で長距離砲を沈められ、デイビスには勝負に行ったシュートを背後からブロックされてコートに打ち付けられる場面もあったが、チーム2位の16得点、8リバウンドとインパクトを残した。 リーグ首位争いを繰り広げるレイカーズの面々は、一様に八村のパフォーマンスを称えた。試合後に握手をかわし、「頑張れよと言われた」(八村)というデイビスが、「フィジカルだし、ディフェンスもできる。彼はルーキーだ。日に日に良くなっていくだろう」と言及すれば、ジャベール・マギーは「彼はいいね。上手くプレイしていた。ジャンプショットも打てるし、アグレッシブ。バスケットボールをよく理解したプロフェッショナルだ」と評価した。 また、八村が参考にしてきたレナードと8年間チームメイトだったダニー・グリーンは、「とてもフィジカルが強くて、いいボディを持っている。ルーキーだけどディフェンスもいい。攻守で活躍できて、手も大きいという部分では(レナードと)類似点があるかもね」と日本人ルーキーが秘めるポテンシャルについて語っていた。 そして、レブロン&デイビスとの対戦から中1日でクリッパーズと対戦。終始レナードとマッチアップではなかったが、目の前でプルアップジャンパーやダンクを決めるなど自己ベストの30得点をマーク。チームが125-150と大敗した点を差し引いても、十分に評価されてしかるべきプレイを見せた。 八村にとって憧れのレナードは、「優れた選手だ。基礎がしっかりしていて、(コート上で)オープンになる能力がある。経験を積んで、引き出しが増えていって、どんどん上達していくだろう」と見解を述べたが、“現在地”と判断するうえではポール・ジョージのコメントがより適切かもしれない。 「彼は本当にいいルーキーだ。彼を初めて観たけど素晴らしいよ。(リーグには)たくさんのルーキーがいるけど、たしかに彼は(そのなかでも)際立っている。長い目で見れば、ルーキークラスのなかでいい選手の一人、もしかしたらベストプレイヤーの一人かもしれない。ジャ(・モラント)やザイオン(・ウィリアムソン)、RJ・バレットらがいるけど、タレントレベルでは彼らにひけを取らない。シュートが打て、強靭なボディを持ち、素晴らしいアタッカーだ。彼はディフェンダーでもある。素晴らしいクオリティーだよ」 ジョージが引き合いに出したのは、鳴り物入りでNBA入りしたザイオン(ニューオリンズ・ペリカンズ)、新人トップの平均18.6得点、6.4アシストを挙げているジャ・モラント(メンフィス・グリズリーズ)、開幕からスタメン出場を続けるバレット(ニューヨーク・ニックス)と今年のドラフトトップ3だ。リーグを代表する選手たちも、八村を“トップルーキーの1人”として認識しており、世界最高峰の舞台で確かな存在感を示している。 もっとも、修正すべき課題はもちろんある。指摘されてきた3ポイントシュートは、コーナーで待ち構え、フリーで放つシーンが何度もあったにもかかわらず、その多くが短くなって失敗に終わっている。18試合で試投数35本に対し、成功はわずか8本。22.9%の成功率は最低でも30%台に乗せたい。 ビールやアイザイア・トーマスら攻撃的な選手が多く、守備が崩壊して大敗を喫する試合が増えているなかでは、ディフェンスのキーマンとしてさらなる奮闘も求められる。先発センターのトーマス・ブライアントが右足の故障で最低3週間の離脱となり、センター不在のチーム状態ではなおさらだ。 「塁はどんなことがあっても精一杯やってくれる。闘争心が素晴らしい。勝者のDNAがあるから、このチームにいる。だから引き続き、ビールとともに中心にしてチームを作り上げていきたい」(ブルックスHC) NBAはいくら素晴らしい個人成績を残そうとも、チームを勝利に導く、あるいはリーグ優勝を達成できなければ本当の意味では評価されない。八村自身、クリッパーズ戦後には「チームをどうやったら助けられるかをもっと考えていかなといけない」と主力としての自覚を覗かせている。 ルーキーイヤーはまだ4分の1を終えようとしている段階。八村は自らの可能性を信じ、毎日を全力で駆け抜ける。