富永啓生の「あめりか物語」。来シーズンはポイントガード転向? 和製カリーへの道編【大柴壮平コラム vol.36】

先週に引き続き、2018年ウインターカップ得点王富永啓生選手のアメリカ挑戦の模様をお届けする。2週目の今回はいよいよプレイ面について。アメリカでの1シーズンを終えて富永選手が感じた手応え、そして来る新シーズンについて話を聞かせてもらった。

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名将に認められたシュート力

私が初めて富永選手に会ったのは、2019年3月のことだった。当時の富永選手はNBAとFIBAが共催する「バスケットボール・ウィズアウト・ボーダーズ・グローバル・キャンプ」に参加した直後で、「海外ではボールが回ってこない」「思うように中で点が取れなかった」と語っていた。ところがアメリカ初挑戦の今シーズン、富永選手はいきなりチーム最多の平均16.8点を記録する活躍を見せた。「バスケットボール・ウィズアウト・ボーダーズ」で感じた課題をどのように克服していったのだろうか。 「アメリカはもっと能力でバスケをするものだと思っていたのですが、レンジャーズは違いました。相手チームの分析やプレイの質の高さが日本と似ているんです。少しでもプレイを間違えたら止めるタイプのヘッドコーチなんですが、そのコーチが僕がノーマークなのにパスを出さなかったチームメイトをしつこく怒ったのでパスがくるようになりました」 そのコーチの名はビリー・ギリスピー。過去にNCAAの名門ケンタッキー大学のヘッドコーチを務めたこともある名将で、彼の存在がレンジャー・カレッジを選んだ理由の1つでもあった(ギリスピーは今シーズンで退任、来シーズンからはアシスタントコーチから昇格したジェームズ・スタフォードが指揮を執る)。 ギリスピー前HCは富永選手に、フリーになったら迷わず打つことを求めた。ケンタッキー大学の元指揮官からシュート力を評価されたことで、富永選手は「NCAAでも自分のシュートは通用するはずだ」と自信を持つことができたと言う。ノーマークの富永選手にパスを出さないチームメイトは怒られると書いたが、その代わり富永選手はノーマークなのにシュートを打たないと怒られた。今シーズンのハイライトには、富永選手がトランジションから自信を持ってスリーポイントを放っている姿が再三映っているが、背景にはこうした指導方針があったのだ。

練習でシュートを放つ富永選手(写真提供:富永選手)

プレシーズンで結果を残せなかった2つの理由

名将ギリスピー前HCの信頼を得た富永選手だったが、プレシーズンではなかなか結果が残せなかったと言う。理由は2つある。1つは昨年のインタビューでも触れていた通り「思ったように中で点が取れなかった」から。 「プレシーズンの最初の3試合は、ほとんどのアテンプトが3ポイントでした。それでは得点が伸びないことを痛感しました」 この反省を踏まえて練習中から中に行くことを意識するようになった富永選手は、徐々にリム周りでも得点できるようになっていった。そしてシーズンが終わる頃には、2ポイントの比率が3ポイントと同じになるまで増えた。 2ポイントを決められるようになったのは、ブロックの高さとスピードに慣れたからだと富永選手は言う。たしかにハイライトでも、完全に振り切ったように見える状態からブロックされているシーンを幾度か見た。現在はリム周りでも普通にレイアップにはいかず、フローターやバックシュート、ダブルクラッチを駆使して得点を挙げている。また、ハーフコートの展開でも2ポイントを決められるように、両足で踏み切る練習を増やしているそうなので、来シーズンはさらなる大量得点に期待したい。

チームメイトと談笑する富永選手(写真提供:富永選手)

プレシーズンで結果を残せなかったもう1つの理由は、ディフェンスでやられてしまったことだ。ディフェンスでやられ続ければ、当然出場時間自体が減ってしまう。ディフェンスに関しても、中での得点と同様、慣れと練習での意識が解決してくれたと富永選手は言う。最初はちょっとぶつかられるとすぐ後ろに下がってしまっていたが、今では耐えられるようになった。それどころか、ハイライトではスティールやブロックをする富永選手が見られる。

意識改革によって得た思わぬ副産物

中での得点、ディフェンスと次々に課題をクリアしていった富永選手だが、メンタル面でも大きな収穫があった。桜丘高校時代は自らクリエイトする場面も多く、必然的にタフショットも多かった。しかし、レンジャーズではセットプレイでチームメイトが富永選手をフリーにしてくれる。いかにタフショットを沈めるかではなく、どれだけ落ち着いてノーマークを決められるかが重要になってくる。富永選手は徐々に意識改革を行っていった。 役割とメンタルの変化は、富永選手のシューターとしての動き方も向上させた。オフボールで上手く動いてフリーになり、パスをもらったら素早くかつ冷静に沈める。こうしたシューターとしての動きに慣れることで、富永選手は安定して得点できるようになった。スリーポイントの成功率は驚異の47.9%。しかもアテンプト数はチーム最多の平均7本だから天晴である。 また、意識改革に成功した富永選手は、素晴らしい副産物も手にした。富永選手自身が課題の1つに挙げていたフリースローを、シーズンを通して85.5%という高確率で決め続けたのだ。レンジャーズが所属する短大リーグでは、チームファウルでのボーナスはワンエンドワン方式(1本目のフリースローを成功させなければ2本目を打てない。1本目が外れるとそこからゲームがスタートする)を採用しているため、高確率のフリースローは大きな武器となる。次のステージであるNCAAも同じルールなので、この調子を維持してほしいところだ。

レンジャー・カレッジのチームメイトと(写真提供:富永選手)

来シーズンはポイントガードにも挑戦する予定

次のステージに向けて着実にステップアップしているように見える富永選手だが、私には1つ気になることがあった。昨年取材したときに「190センチはいきたい」と言っていたが、その後身長は伸びたのだろうか? 「アメリカに行ってから計ってないんですが、190は全然いってないと思います」 富永選手のレンジャー・カレッジでの登録は6フィート(約183センチ)。そこから数センチ伸びたとしても、NBAでシューティングガードをするには低すぎる。 もちろん年齢的にまだ伸びる可能性はある。しかし思ったように伸びなかった場合に備えて、早いうちからハンドラーとしての経験も積んでもらいたいところだ。そんな私の懸念を伝えると、富永選手は頷きながらこう言った。 「実はコーチから『来シーズンはポイントガードもやらせてみようと思っている』と言われているんです」 なんと、今シーズン先発ポイントガードを務めたモントレー・ギプソンの卒業に伴い、富永選手をポイントガードにコンバートする案が出ているというのだ。 現在のNBAでは、大きく分けて3タイプのハンドラーが主流なのは読者諸兄もご承知の通りだろう。ステフィン・カリーのようなロングレンジのシュートを得意とするタイプ、ジェームズ・ハーデンのように体格と得点力に恵まれポイントガードとシューティングガードの2ポジションをこなせるタイプ、そしてシュート力は劣るがサイズと運動能力で圧倒するベン・シモンズのようなタイプである。カリー、デイミアン・リラード、トレイ・ヤングといったシューター系ポイントガードの系譜に富永啓生の名前が刻まれる日を想像するだけで胸が躍る。

バスケットボールキャンプ「Underrated Tour, powered by Rakuten」でカリーから直接指導を受けた富永選手(左端)

ところで、本人にポイントガードをこなす自信はあるのだろうか。 「フロントコートまで運べればなんとかなるんじゃないですかね」 富永選手は笑いながら言った。実際、フロントコートまで運べれば射程圏内に入ったも同然だ。困ったらいつでもシュートを選択できるという強みが、富永選手にはある。 最後に私は、こう聞いた。答えを誘導するような質問をするのはメディア失格かも知れないが、今回ばかりは許してほしい。 「ポイントガードをする上でイメージする選手はいますか?」 こちらの意図を汲みとった富永選手はフフフと笑うと、こう言った。 「もちろんステフィン・カリーです」 ウインターカップでの大活躍後に、こんなタイトルの記事が出た。賛否両論の超高校級シューター、富永啓生は和製カリーになれるか。 来シーズン、我々はその答えを知ることになる。 (次週に続く)


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大柴壮平:ロングインタビュー中心のバスケ本シリーズ『ダブドリ』の編集長。『ダブドリ』にアリーナ周りのディープスポットを探すコラム『ダブドリ探検隊』を連載する他、『スポーツナビ』や『FLY MAGAZINE』でも執筆している。YouTube『Basketball Diner』、ポッドキャスト『Mark Tonight NTR』に出演中。

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