グリット・アンド・グラインドよ永遠なれ【大柴壮平コラム vol.14】

グリズリーズのカルチャーとなった「グリット・アンド・グラインド」

2019年12月27日、ザック・ランドルフが引退を発表した。キャリア初期の問題児扱いから、メンフィス・グリズリーズ加入後の大活躍は皆さんもよく知るところだろう。2017年にFAとなったランドルフがサクラメント・キングスと契約すると、グリズリーズのオーナーであるロバート・ペラは、ランドルフが引退する時には彼の背番号50を永久欠番にすると宣言し、長年の貢献へ感謝の意を表した。グリズリーズファンの私にとっては「ついにこの時が来たか」と感慨深い。 グリズリーズでのランドルフの功績は、オールスターに2度、オールNBAサードチームへ1度選出、7シーズン連続となるプレイオフ出場への貢献が挙げられる。最高成績が2013年のカンファレンス・ファイナル進出ということを考えれば、他のチームだったら永久欠番にはなっていなかったかも知れない。しかし、グリズリーズはランドルフがチームのカルチャー醸成に大きく寄与したことを評価した。「グリット・アンド・グラインド(=歯を食いしばりながら日々懸命に)」というグリズリーズのスローガンは、執拗なディフェンスであのコービー・ブライアント(元ロサンゼルス・レイカーズ)をして「最も厄介なディフェンダー」と言わしめたトニー・アレン、そしてゴール下で体を張り、泥臭くプットバックを量産するランドルフ無しには生まれ得なかった。 「グリット・アンド・グラインド」は、プレイスタイルだけではなく選手のメンタル面にも波及し、いつしかチームのカルチャーになった。その「グリット・アンド・グラインド」の体現者たるランドルフがフランチャイズ初の永久欠番になることは、グリズリーズファンである私にはとても誇らしいことである。しかし、同時にこんな疑問も浮かぶ。体現者が退場した今、チームはこのカルチャーをいつまで持続できるのだろうか。

FCバルセロナに見るカルチャーの承継

あらゆるスポーツチームで最もそのカルチャーが名高いのは、FCバルセロナ(以下バルサ)だろう。レアル・マドリーと並ぶリーガ・エルパニョーラ(注:スペインのサッカーリーグ)の名門である。リーガ優勝26回、スペイン国王杯優勝30回に加え、UEFAチャンピオンズリーグでも5度頂点に立っている。 そんなバルサのカルチャーは、1988年から1996年までクラブを指揮したヨハン・クライフによってもたらされた。「フットボールは常に魅力的かつ攻撃的にプレイし、スペクタクルでなければならない」「ボールを持て。ボールは1つしかない。常にボールを持てば、ディフェンスをする必要はない」「私は1-0よりも5-4で勝つことを望む」というクライフは、その攻撃的でポゼッション重視のサッカーで4度のリーガ優勝を含む10個のタイトルを獲得した。当時はACミランに代表される守備的なサッカーが主流だったため、初めは批判も多かったという。しかし、勝ち続けることでクライフ個人の思想がクラブ首脳陣、“ソシオ”と呼ばれる会員に徐々に伝播し、いつしかクラブのカルチャーへと成熟していった。 2008-09シーズン、バルサはスペインのクラブとしては史上初となる三冠を達成しているが、この時に指揮を執っていたジョゼップ・グアルディオラ、通称“ペップ”は、現役時代にクライフの薫陶を受けている。クライフ監督時代の1990-91シーズンにカンテラと呼ばれる育成組織から昇格し、以来「ドリームチーム」と称されたチームの中心メンバーとなった。2008年に監督となったペップは、指揮を執った4シーズンでリーガを3度、国王杯を2度、チャンピオンズリーグを2度優勝した。この時のバルサは相手をポゼッションで圧倒する、クライフの理想を具現化したようなチームだった。ペップはカルチャーは承継し、そして昇華させたのである。

攻撃的なウォリアーズ、献身的なスパーズ、ストイックなヒート

NBAにも、カルチャーを持つチームはある。まず私の脳裏に浮かんだのはゴールデンステート・ウォリアーズだ。優秀なビッグマンがしのぎを削っていた90年代から、鬼才ドン・ネルソンはスモールボールを志向していた。クリス・ウェバーがセンターをやりたくなくて移籍を志願したというのは有名な話である。ネルソンは1度ウォリアーズを離れたが、2006年にチームに戻ると再びスモールで攻撃的なチームを作った。ウォリアーズが2009年のドラフトで当時評価の割れていたステフィン・カリーを指名したのも、ネルソンの強い意向に因ると言われている。このネルソンの思想が底流となり、強豪ウォリアーズのカルチャーが形成されていった。 スパーズでアシスタント・コーチを経験した人物が他チームにヘッドコーチとして招聘されることが多いが、この動きにはスパーズのカルチャーを学びたいという思惑が見える。長年にわたり献身的なチームプレイヤーを育て続けたスパーズは、リーグでも尊敬を集めている。マイアミ・ヒートも、個性的なカルチャーを持ったチームだ。カリスマ、パット・ライリーの指導によって、チーム全体がストイックな姿勢を共有している。ミネソタ・ティンバーウルブズ時代はアンドリュー・ウィギンズやカール・アンソニー・タウンズの態度を強く非難していたジミー・バトラーも、ヒートのカルチャーは水が合うようで、今シーズンは彼の上機嫌な姿がSNSで散見される。 上記に挙げたチームは素晴らしいカルチャーを作り上げたが、それぞれのファンは私がグリズリーズに対するのと同じ疑問を抱いているだろう。いつまでそのカルチャーを持続できるのだろうか。ウォリアーズの理想とするバスケットボールにはステフィン・カリーが欠かせない。ウォリアーズは、彼が去ってもまだ理想のスタイルを追い続けるのだろうか。ポポビッチやライリーというカリスマが去った時、去る以前と同じ組織でいられるのだろうか。


バルサにはクライフやペップといったカリスマがいたが、彼らが去ってもカルチャーは残った。愚考すれば、サッカーにはドラフトが無く、育成組織が存在することも大きな要因だろう。しかし、それよりも重要なのは、ソシオ、そしてファンがカルチャーの継続を望んだからではないかと私は思っている。かつてクライフが言った「私は1-0よりも5-4で勝つことを望む」という言葉は、今ではファンの思いになっている。フロント、監督、選手だけでなく、ファンにも浸透して、初めてカルチャーは世代を超えて継続されるのではないだろうか。 汗臭い肉体労働者を想起させる「グリット・アンド・グラインド」というスローガンは、低所得な労働者階級が多いメンフィス市民に愛された。そして、フロント、監督、選手、ファンを巻き込むカルチャーに育っていった。ジャ・モラントとジャレン・ジャクソンJr.というスター候補生が入った新生グリズリーズは、プレイスタイルとしての「グリット・アンド・グラインド」はすでに捨てた。チームも「グリズ・ネクスト・ジェン(=新世代グリズリーズ)」を標榜し、新しくチームが生まれ変わったことをアピールしている。はたして新生グリズリーズは、新しいプレイスタイルを模索しつつ「グリット・アンド・グラインド」のメンタリティを持続することができるだろうか。それとも生まれ変わる中で、これまで培ったカルチャーを失ってしまうのだろうか。 「グリット・アンド・グラインド」のメンタリティが、チームのカルチャーとして続いていくかどうかは、グリズリーズのファンがそれをどれだけ望むかにかかっている。我々グリズリーズファンが泥臭くルーズボールに飛び込む姿や、ゴール下で体を張る姿に、これまで通りの惜しみない称賛を送り続ける限り、「グリット・アンド・グラインド」が消えることはないだろう。もしチームがカルチャーを見失いそうになった時は、フェデックス・フォーラムの天井を見上げればいい。直に掲げられるだろう背番号50のバナーが、あの頃の熱い気持ちを思い出させてくれるはずだ。

大柴壮平:ロングインタビュー中心のバスケ本シリーズ『ダブドリ』の編集長。『ダブドリ』にアリーナ周りのディープスポットを探すコラム『ダブドリ探検隊』を連載する他、『スポーツナビ』や『FLY MAGAZINE』でも執筆している。YouTube『Basketball Diner』、ポッドキャスト『Mark Tonight NTR』に出演中。

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