明らかだった成長の跡と、改善すべき課題。渡邊雄太のNBA2年目【杉浦大介コラム vol.18】

1月には40点のハイライトも演出

新型コロナウイルスの影響でNBAが中断してから早1か月、シーズンを再開できるか微妙な状況だ。Gリーグのシーズンはすでに終了が決定。たとえNBAのプレイオフが行なわれたとしても、2ウェイ契約の選手は出場できないため、ポストシーズン開始前に本契約に変更されない限り、渡邊雄太(メンフィス・グリズリーズ/メンフィス・ハッスル)の2019-20シーズンはこのまま終了の可能性が高い。 今季の渡邊は昨季(15試合)を上回る16試合でNBAの試合に出場。ただ、平均プレイ時間は平均6.2分(昨季は11.6分)にとどまったのをはじめ、平均得点(2.6→1.9)、リバウンド(2.1→1.1)、アシスト(0.5→0.3)といった主要スタッツは、すべて昨季の数字を下回っている。 こうしてグリズリーズとの2ウェイ契約2年目をまもなく終えようとしている渡邊を、現地メディアはどう見ているのか。今季を通じて『The Athletic』のグリズリーズ番記者を務めたオマリ・サンコファ二世に、渡邊の評価と今後の展望を尋ねた(注・サンコファ記者は4月から『デトロイト・フリー・プレス』紙のピストンズ番記者に)。 「雄太は期待通りのプレイはしていたと思う。攻守両面で向上し、Gリーグの中では上質な2ウェイプレイヤーだった。サイズに恵まれ、ディフェンス時の機動力に秀でていて、シュート力もある。自分自身をよく知っているのも長所だ。とても良いロールプレイヤーになるだけのツールは備えていると思う」 フレンドリーな黒人記者のサンコファは、まず今季の渡邊のプレイを“上質だった”と評価した。実際にNBAではまだ目を引く結果を残せていなくとも、Gリーグでの渡邊は22戦で平均17.2得点、5.7 リバウンドという優れた成績をマークしていた。 特筆すべきは、昨季は43.6%だったFG成功率、33.1%だった3ポイント成功率を、今季はそれぞれ54.6%、36.4%まで引き上げたこと。シュートが好調な日は高得点をマークすることも少なくなく、1月22日のデラウェア・ブルーコーツ戦では40得点というハイライトも演出した。もともと定評あるディフェンスも依然としてハイレベルで、その実力がGリーグではトップクラスにあるのは事実なのだろう。実際にプレイを見ていても、1年目とは安定感と落ち着きぶりに明らかな違いが感じられた。

“もっと打って良い”と思えるシーンがあった

そんな渡邊の今後の課題は、Gリーグだけでなく、NBAでも結果を出していくこと。前述の通り、残した数字を見ると、今季もその面では物足りなさがあったことは否めない。それでは渡邊がステップアップするために、何が必要だったのか。“とても良いロールプレイヤーになるだけのツールは備えている”とされる25歳のレフティが、実際にNBAに定着し、活躍するためにはどうしていくべきなのか。その点を尋ねると、サンコファ記者はいくつかの具体的な課題を指摘してくれた。 「まずは3ポイントをもっと自信を持って打てるようになること。今季のハッスルでの3ポイント成功率36.4%という数字は悪くないが、平均試投数は4.0に過ぎなかった、もっと積極的に打っても良かったし、その姿勢をNBAでも貫かなければいけない。雄太の昇格時のプレイにはまだ遠慮が見られる」 NBAでは典型的な3&Dプレイヤーの渡邊にとって、3ポイントを高確率で決めることは必須事項といって良い。その点で、Gリーグだけでなく、NBAでも成功率を昨季の12.5%から今季は37.5%までアップさせたことは大きかった。ただ、まだ積極性不足という意見は頷ける。

今季はプレップスクールのチームメイトであるエリック・パスカル(ウォリアーズ)と、NBAの舞台で再会したことも

周囲を見ながらプレイできるのは渡邊の長所であり、だからこそカレッジ時代から通じてチームメイトからは愛されてきたのだとしても、特に完全に主力だったGリーグでは“もっと打って良い”と思えるシーンがあった。さらにボリュームを増やし、それでいて成功率を保つのが来季以降のポイントとなるだろう。 「グリズリーズからコールアップされた際、その機会を生かさなければならなかった。2月下旬から3月上旬にかけて7戦連続でNBA のコートに立ったが、より多くの役割を勝ち取るだけのプレイはできていなかった」 サンコファ記者の言葉通り、オールスター以降の渡邊はNBAでもようやくまとまったプレイ時間を得るようになっていた。ジャレン・ジャクソンJr.、ブランドン・クラーク、グレイソン・アレン、ジャスティス・ウィンズローといったグリズリーズの主力にケガ人が続出したこともあって、2月26日のロケッツ戦以降は全試合でベンチ入り。この“NBAで7試合連続出場”というチャンスを生かしきれなかったことは、今後のアメリカでのキャリアに響いてしまうかもしれない。

来季もグリズリーズに残るとは考えにくい

ただ、個人的な意見をいえば、もともと生粋のスコアラータイプではない渡邊が、特に緊張感のないガーベッジタイムでのプレイで大きな存在感を示すのは難しかったのも事実だろう。そして、今季後半は、たいていは5~15分という限られた時間の中でも良い部分は少なからず見せてはいた。 2月29日のレイカーズ戦では3得点、2リバウンド、2スティールを挙げ、3月4日のネッツ戦でも5得点、2リバウンド、1スティール。さらに6日のマーベリックス戦でも4得点、2リバウンド、1スティールなど、プレイ時間の少なさを考えればまずまずの数字を残していた。今季前半戦頃、渡邊は「チャンスを与えられれば結果を出す自信はついてきている」と繰り返し語っていたが、継続的にプレイタイムをもらうことで、NBAでも徐々に力を出せるようになってきていたのだろう。最終的な数字が伸びなかったことを考慮した上でも、今季の渡邊はプロ選手としてまた一歩前に進んだと言って良いのではないか。

サンコファ記者は、渡邊が「来季は他のチームでプレイすることになりそう」と予想する

あとはサンコファ記者の言葉通り、ゲームの中でより大きなインパクトを残すこと。もちろん流れの中でプレイする姿勢は変わらず大事だが、オープンの際にはもっとアグレッシブにシュートを狙っていくのもいい。3月に入ってからの4戦での渡邊のFG成功率は、57.1%(4/7)と高かった。これに近い数字をより多くのサンプルの中で残していくことができれば、3&Dプレイヤーとしての未来につながっていくはずだ。 「現時点では、雄太が来季もグリズリーズに残るとは考えにくい。オフ開始時点ですでに13選手がロースターに名前を連ねており、デアンソニー・メイソンとも再契約に動くはず。さらにジョシュ・ジャクソンと再契約し、1人のFA選手と契約すれば、もうロースターは満杯だ。システム上、雄太はグリズリーズと再び2ウェイ契約を結ぶことはできないから、来季は他のチームでプレイすることになりそうだ」 そんなサンコファ記者の予想通りに進むなら、2020-21シーズンの渡邊はグリズリーズ以外のユニフォームを着る可能性が高い。来季もまずはGリーグからのスタートということになったとしても、今季に学んだことを生かし、徐々にでも階段を登っていけるかどうか。ホップ、ステップ、ジャンプの3年目は、絶対に結果を残さなければいけない土俵際のシーズンになるに違いない。

杉浦大介:ニューヨーク在住のフリーライター。NBA、MLB、ボクシングなどアメリカのスポーツの取材・執筆を行なっている。『DUNK SHOOT』、『SLUGGER』など各種専門誌や『NBA JAPAN』、『日本経済新聞・電子版』といったウェブメディアなどに寄稿している。

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