NBAを席巻する最新のセンセーション———。ダラス・マーベリックス(以下マブス)のエースとなったルカ・ドンチッチを、もうそう呼んでしまっても良いのだろう。昨季の新人王に輝いたスロベニアの新星は、2年目のジンクスなどものともせず、2019-20シーズンも最高のスタートを切っているのだ。 最初の14戦で7度もトリプルダブルを達成したドンチッチは、日本時間の11月25日現在で平均29.9得点、10.4リバウンド、9.7アシスト、1.3スティールという好成績をマーク。特に19日のサンアントニオ・スパーズ戦、21日のゴールデンステイト・ウォリアーズ戦では、2戦連続で35得点以上を挙げた上でのトリプルダブルを成し遂げ、ここでついに話題沸騰した感があった。 「ステップバックからの3ポイント、パス能力などはジェームズ・ハーデン(ヒューストン・ロケッツ)に似ているのかもしれない。一歩先を読む能力はラリー・バード(元ボストン・セルティックス)にも似ているが、バードはドリブルからステップバックしての3ポイントなんて打たなかった。とてもユニークなプレイヤーだ」 ウォリアーズ戦後、敵将のスティーブ・カーHCがそう絶賛していたほどのクリエイティブなプレイスタイルがドンチッチの魅力だ。スキル、シュート力、パス能力をすべて備えたプレイメイカー。アメリカの水にも完全に慣れたのか、今季は往年のマヌ・ジノビリ(元スパーズ)を彷彿とさせる、華やかで奔放な活躍を続けている。 「もう何度も言ってきたが、彼は凄い選手だ。この惑星で最高級のプレイヤー。彼はとてつもないことをやってのけてくれる。こちらの方が毎日、毎週、彼が何かすごいことをやってくれるのをほとんど予期してしまうくらいだ」 “One of the best players on the planet(この惑星で最高級のプレイヤー)”。15日、ニューヨーク・ニックス戦の際、マブスのリック・カーライルHCが残した褒め言葉は大げさだったが、今のドンチッチを表現するには適しているようにも思えた。
こうして快進撃を続けるのと時を同じくして、ファンタジスタの人気、知名度も急上昇している。甘いマスクのドンチッチはフォトジェニックなだけに、前述したニックス戦でも大量のカメラマンに追いかけ回されていた。 “メッカ”と呼ばれるマディソン・スクウェア・ガーデンでのゲームでどれだけ注目されるかは、その選手の商品価値を示すバロメーターにもなっている。この日の騒ぎを見る限り、ドンチッチはすでに話題性でもトップクラスなのだろう。 「(トリプルダブルには)なんの意味もないよ。それよりも勝ちたかった。特にディフェンス面で良いプレイができなかった」 ニックス戦でも33得点、10リバウンド、11アシストと軽々とトリプルダブルを成し遂げたが、チームが惜敗したこともあって、景気の良い言葉はほとんど聞かれなかった。英語、スペイン語、スロベニア語、セルビア語を話すドンチッチだが、メディア対応時の素っ気なさもすでに有名。それでもこのシャイな性格と華やかなプレイスタイルのギャップも、20歳の若者の魅力のひとつになっているのかもしれない。
序盤戦最大級の注目選手となったドンチッチの評判は、高まる一方だ。開幕5週目を終えた時点で、NBA.comが発表するMVPランキングでヤニス・アデトクンボ(ミルウォーキー・バックス)、レブロン・ジェームズ(ロサンゼルス・レイカーズ)に次ぐ3位に浮上した。昨季新人王に輝き、今季は早くもMVP候補。同じく10代でNBA入りし、すぐにスターダムに躍り出たレブロンと比較する声も最近は増えてきている。 もちろんこのリーグで真のスーパースターになるためには、自身が好成績を残すだけでなく、チームを勝利に導かなければいけない。ドンチッチにとってNBA1年目の昨季、マブスは33勝49敗に終わっており、今季の勝率アップは必須。レブロンは20歳で迎えた2年目にクリーブランド・キャバリアーズを7年ぶりの勝ち越し(42勝40敗)に導いており、この成績がひとつの基準になるのだろう。 心強いのは、欧州時代も含めれば13歳のときからプロで活躍するドンチッチは、この点も十分に理解しているように思えることだ。 「自分がMVP候補だとは思わない。凄い選手はたくさんいるからね。そんな風に言ってもらえて嬉しいけど、実際は気にもしていない。それよりもプレイオフに出たい。そこでプレイできたら楽しいだろう」 ニックス戦時にもこともなげにそう語り、実際に今季のマブスは10勝5敗と好スタートを切った。このままいけば、2016年以来となるプレイオフ進出のチャンスも十分。ダーク・ノビツキーに変わる欧州産の新たなスーパースターを手にし、マブスの行く手には明るい未来が広がっている。 弱冠20歳。生き馬の目を抜くようなNBAのコートも、恐れ知らずのドンチッチにとっては“プレイグラウンド”に過ぎない。さらなる成長の可能性は無限大。私たちスポーツファンは、これから10年以上は楽しませてくれそうな選手が、アメリカのコートに降臨したことを心から喜ぶべきなのだろう。
杉浦大介:ニューヨーク在住のフリーライター。NBA、MLB、ボクシングなどアメリカのスポーツの取材・執筆を行なっている。『DUNK SHOOT』、『SLUGGER』など各種専門誌や『NBA JAPAN』、『日本経済新聞・電子版』といったウェブメディアなどに寄稿している。