名門ヒューストン・ロケッツの歴史を知ろう
ヒューストン・ロケッツは1967年に設立され、現在はウェスタンカンファレンスのサウスウェストディビジョンに属している名門チームである。テキサス州を本拠地とするNBAチームは4チームあるが、中でもロケッツは州内最大の人口を誇る大都市ヒューストンを本拠地としている。NBAの他、MLBではヒューストン・アストロズ、NFLではヒューストン・テキサンズが拠点として構えている都市だ。 日本が誇る、世界的にも有名なTOYOTA社が所有するトヨタセンター(Toyota Center)は、ヒューストンのダウンタウンに位置し、オープン時の2003年からずっとヒューストン・ロケッツのホームコートとして現在も利用されている。 ヒューストンにはNASAがあることで有名なので、ロケッツというチーム名も当然そのことが由来しているかと思いきや、意外にも別の理由があった。ロケッツの拠点は以前カリフォルニア州のサンディエゴにあり、メキシコの国境に近いことから軍事基地が多く、兵器という意味でロケッツと命名されたのだ。現在の拠点地ヒューストンに拠点を移すと共にサンディエゴ・ロケッツからヒューストン・ロケッツへと改名されたが、NASAのおかげで同じロケッツでもマイナスイメージが払拭されたため、ロケッツという名はそのまま残すこととなった。 ヒューストン・ロケッツになってからの70年代はセンターがリーグを支配した時代。ロケッツも例外ではなく、永久欠番を持つモーゼス・マローンやアキーム・オラジュワンなど、名立たるセンターを中心に強豪の地位を確立した代表格のチームだ。特にオラジュワンの全盛期には、当時のセンターでは規格外な多才なステップで相手を翻弄する通称”ドリームシェイク”を駆使し、94年にはロケッツを初の優勝へと導いている。その後の連覇は、マイケル・ジョーダンが引退していた期間とはいえ、パトリック・ユーイングや後にリーグを支配するシャキール・オニールなど、錚々たるメンバーが凌ぎを削った時代での2連覇とあって、価値のあるものだと評された。 90年代後半にはオラジュワン、チャールズ・バークレー、クライド・ドレクスラーといういわゆるビッグ3布陣を構えた時期もあれば、ジョーダンの相棒として有名なスコッティ・ピッペンを獲得した時期などもあり、チームは毎年コンスタントにプレイオフで活躍。そのため長年観客動員数も一定レベルを保った。 2000年代に入るとそれまでチームを支えていた選手が次々と離れ、チームは一時低迷するが、2002年にドラフト1位指名で中国出身の229cmのビッグマン、ヤオ・ミンを獲得。また、2年連続得点王のトレイシー・マグレディをトレードで獲得したことで、リーグを代表するコンビ結成にリーグ制覇の可能性をも匂わせた。しかし、残念ながらこのコンビは共に故障が多く、揃ってコートに立つことは非常に珍しかったため、王座の地位へと上り詰めることはなかった。もしもケガさえ無ければ、と悔やまれるケースはいつの時代にも存在するものだが、この時代のロケッツもまた、フルメンバーさえ揃っていれば歴代優勝トロフィー数に変化をもたらしていた可能性は非常に高い。 その後はドワイト・ハワードの獲得などもあり、引き続きプレイオフ戦線に名を連ねる強豪という地位を維持。そして、ジェームズ・ハーデン、クリス・ポールの獲得により、チームは再び優勝争いに加わるような現在の戦力を有することとなるのである。
現ロケッツのプレイスタイルと見所
昨シーズン、チームは球団記録の65勝をマーク。超攻撃型なスタイルは王者ゴールデンステイト・ウォーリアーズにもひけをとらず、特にアウトサイドの得点力はNBA史上でもかつてないレベルにまで進化を遂げている。2本に1本はスリーポイントを打つスタイルは、かつてビッグマンがリーグを支配していた時代では考えられないが、ロケッツはサイズに捉われず、豊富な運動量やシュート力を武器に戦う”スモールボール”という現在のトレンドの最先端を走るチームへと変革を遂げた。今シーズン、12月19日のワシントン・ウィザーズ戦では26本のスリーポイントを沈め、1試合のスリーポイント成功数でNBA記録を樹立。実に78得点をアウトサイドから稼いだのだから、相手チームのウィザーズはうんざりしたに違いない。 ”スモールボール”、そしてストレッチ4、5スタイルを多用するチーム編成を見ると、ハーデン(196cm)、ポール(183cm)、エリック・ゴードン(193cm)、オースティン・リバース(193cm)、イマン・シャンパード(196cm)、ジェラルド・グリーン(203cm)とガード過多で、明らかにスモールラインナップを好んでいることが分かる。また、インサイド人ですら、クリント・カペラ(208cm)とネネ(211cm)を除くと、P.J.タッカー(198cm)、ケネス・ファリード(203cm)とそのサイズはNBAのチームとしては異例なまでに小さい。しかし、サイズのハンデを物ともせず、今年も前半のもたつきさえ無ければ確実に60勝を上げられたチーム作りを行っている。きっとメンバーの意思と能力が戦略にハマり、チームの徹底された方針によって得られた力なのだろう。当然、エースのジェームズ・ハーデンの並外れた得点力があって成り立っている戦略だということも忘れてはならない。 さて、それでは気になる来期以降はどうなるのだろうか。2019-20シーズンも、主力となるハーデン、ポール、カペラのビッグ3に加え、キーマンとなるゴードンとタッカーは契約が残っているので、主力の大幅チェンジの心配はない。ただ、サラリーキャップに余裕がなく、これ以上の大幅なロスター強化の策がないというのが実態だ。短時間で得点を量産できるグリーンとはぜひ安価で再契約を交わしたいところだろう。また、ファリードが残留してくれれば戦力維持は堅いが、シーズン後半で株を上げた選手が簡単にチームに残るとは思えない。そうなると、今季カーメロ・アンソニーを獲得したようなベテランミニマム契約で、優勝に飢えているベテラン選手を引っ張ってくるのが現実的だろう。 ロケッツへのフィットを考えると、やはり狙い目となるのはスリーポイント多様型のガード、もしくはアウトサイドを得意とするビッグマンとなる。ダニー・グリーン、ロドニー・フッド、ブルック・ロペス、トレバー・ブッカーなどがこれに当たるが、ベテランミニマム契約でJ.R.スミスなどを狙うのは面白いかもしれない。 高望みはできないながら、主力が残留することでチームカラーが大幅に変わることはない。つまり、ジャパンゲームでもラン&ガンの超オフェンシブスタイルで、特にアウトサイドを中心とする世界最高峰の攻撃力を目の当たりにすることが出来るのは間違えない。オフの間にどれほどの新戦力が加わるか、楽しみにしたいところだ。 ロケッツは他チームと比べ、中国との親交が深い。その活動は、漢字でロケットと描いたバージョンのユニフォームをつくるほどだ。これまでのヤオ・ミン、ジェレミー・リン、ジョウ・チーなどの中国人選手の積極的起用は、マーケティングの側面でも中国を意識したものだろう。その甲斐があってか、中国人のNBA公式アカウントのフォロワー数は約3300万人おり、Weiboという中国のSNSではプレイオフ時期のNBA動画視聴回数が29億回を記録している。どうやら中国での絶大なNBA人気の要因と直結していそうだ。 中国と規模は違えど、日本にも熱狂的なNBAファンがいるのは事実である。今回のジャパンゲームで熱い声援を送ることで、選手に日本を気に入ってもらうことは勿論、NBAとの親交を深め、ぜひ定期的にジャパンゲームを開催する流れに繋げたいものである。 次回はロケッツの対戦相手である東の強豪、トロント・ラプターズの実態に迫りたい。
NBAライター ゆーきり 幼少期の10年間をアメリカで過ごす。初めて行ったNBA観戦で間近で見る選手に強い衝撃を受けNBAにどっぷりのめり込み、自身もバスケットボールを始める。ファン歴は20年を超え、これまでの自身の知識を発信しNBAファンを増やしたいという想いから、ブログ「NBA journal」を開設。現地の情報をもとに、わかりやすくもマニアックな内容を届けることを意識し、日々奮闘している。