復活の狼煙を上げる2010-11シーズンMVPのデリック・ローズ

鳴り物入りでNBAデビューを果たしたシカゴ・ブルズのスーパースター

今から10年前、デリック・ローズは2008年のNBAドラフト全体1位指名でシカゴ・ブルズへの入団を果たした。同年にはラッセル・ウェストブルック、ケビン・ラブ、ディアンドレ・ジョーダン等、今も尚リーグで活躍する実力者が多く入団した年としても有名だ。 特に、ラッセル・ウェストブルックは現在リーグ最高のトリプルダブルマシーンとして名を馳せ、圧倒的な身体能力と爆発力を武器にNo.1ポイントガードの座を争っているスーパースターだ。今年の8月に来日した影響もあり、日本人からも非常に人気の高い選手である。彼の能力の高さは折り紙付きだが、実は全盛期のデリック・ローズは現在のウェストブルックに勝るとも劣らない身体能力を武器にリーグを支配していた、元No.1ポイントガードなのだ。スピードとドリブルの切れ味がまるで異次元であり、トップスピードからのクロスオーバーやダンクまで持ち込むフィニッシュに多くのファンが魅了された。 その活躍ぶりは、つい先日のように思い出されるのだが、皮肉にも彼の全盛期からは既に7年近い月日が経とうとしている。再び輝きを取り戻そうと必死に努力をする彼の姿は、今最もリーグで涙を誘っている。そんなローズの魅力に迫りたい。

ローズは既に高校時代からスターだった。シメオンキャリア・アカデミー高校ではチームを州チャンピオンへ導き、自身はアメリカ代表チームへも選出されたことから、この世代で既にNo.1ポイントガードとの呼び声が高かった。その後、メンフィス大学へ進学し、入学1年目からチームの顔として活躍したローズは、NCAAトーナメントでチームを準優勝へと導き、オールアメリカン3rdチーム(NBAでいうオールNBA3rdチームにあたるもの)にも選出された。 地元であるシカゴ・ブルズがドラフト1位指名権を引き当てた影響もあり、トップ指名をほぼ確実視された状態でNBAドラフト当日を迎えることとなる。予想通り、地元シカゴ・ブルズへの入団を果たしたローズは、寡黙で謙虚な性格も相まって、ファンからの人気度は人一倍高く、ルーキーイヤーからチームのエースとしての活躍が期待された。さっそくシーズンを通して平均37分の出場時間を得ると、平均16.8得点、チーム最高となる6.3アシストを記録し、ドラフト1位指名の重圧に負けない見事な活躍で新人王を獲得している。 また、チームは勝率5割でプレイオフへ返り咲き、そのファーストラウンドで、ブルズは前年の王者、ボストン・セルティックスを相手にNBA史上でも死闘と呼べる戦いを繰り広げることとなる。7戦目まで突入した両者の戦いだが、そのうち4戦はオーバータイムへもつれ込む大接戦。4戦目はダブルオーバータイム、6戦目はなんとトリプルオーバータイムまでもつれ込んでいる。 そんな中、ローズは第1戦で36得点、11アシストのダブルダブルを記録。第4戦ではトリプルダブルに迫る勢いの活躍を見せ、シリーズを通して平均19.7得点、6.4アシスト、6.3リバウンドというルーキーらしからぬ活躍を見せた。最後は惜しくも力尽き、ブルズはファーストラウンド敗退という結果に終わったが、前年王者を相手に奮闘したチームにはマイケル・ジョーダン、スコッティ・ピッペン、デニス・ロッドマンとNBAで最も有名なトリオを主軸に三連覇を達成した三銃士時代のシカゴ・ブルズを彷彿とさせる強さと期待感があった。 ローズは早くも2年目にリザーブメンバーとしてオールスターへの出場を果たすと、3年目となる2010-11シーズンにはファン投票によりスターターの座を獲得し、トップ集団の仲間入りを果たす。チームへはリーグトップとなるシーズン62勝をもたらし、その積極果敢なプレイスタイルに磨きがかかったローズは、なんとNBA史上最年少となる22歳と6ヶ月でシーズンMVPに輝いた。チーム状況、個人成績、そしてリーグへインパクトを与えたプレイスタイルを考えれば当然の結果だったかもしれない。 その年第1シードとしてプレイオフ進出を果たし、勢いに乗るブルズは順当にカンファレンス・ファイナルまで駒を進めた。しかし、そんな彼らの前に最大の敵として現れたのがレブロン・ジェームズ、ドウェイン・ウェイド、クリス・ボッシュで結成された”スリーキングス”要するマイアミ・ヒートだ。 全盛期のスーパースター3人がトリオを結成した、NBA史上でも稀にみるスーパーチームを相手に初戦を奪い、善勝したものの、レブロン・ジェームズを止めることはできなかった。シリーズは1勝4敗で敗れ、ファンの優勝という期待は泡となって消えた。そして、デリック・ローズにとってスーパースターの階段を一気に転げ落ちることとなる魔の2011-12シーズンを迎えることとなる。

キャリアを揺るがす暗黒時代への突入

2011-12シーズンはNBA(米プロバスケットボール協会)とNBA Players Association(NBA選手協会)間の労使交渉が決裂したことで、1998-99シーズン以来のロックアウト(新たなサラリー制度導入の際などに、オーナー側と選手側とで折り合いがつかない場合に運営側が選手を出場させないこと)が実施され、シーズン中の試合数は各チーム合計66試合に留まる結果となった。 この年、ローズは足首のケガなどで欠場を繰り返したことで僅か39試合の出場に留まったが、チームは引き続き好調を維持し、2年連続でリーグ最高勝率を記録。再び第1シードでプレイオフ進出を果たす。 マイアミ・ヒートへのリベンジに燃えるブルズは、ファーストラウンド初戦でフィラデルフィア・セブンティシクサーズと対戦。ホームで迎えた第一戦は危なげなく勝利を掴んだのだが、その試合残り時間1分22秒の出来事がローズの今後のキャリアを大きく左右することとなる。ジョアキム・ノアのスクリーンからギャロップステップで勢いよくペイントエリアへ飛び込んだローズ。しかし、着地の際にバランスを崩し、そのまま地面に崩れ落ちた。スタッフの支え無しで立つことができなかったローズはコートをあとにすることになる。 診断の結果は左膝前十字靭帯断裂。全治1年を要する重傷で、特にローズのような身体能力の高い選手は、復帰後のプレイスタイルへの影響も危惧される非常に悩ましいケガだ。手術は無事成功したものの、翌シーズンは全休。 ローズはケガについて「神からの恵み」と表現し、リハビリ期間中は学ぶことが多かったと前向きに捉えていたが、復帰した2013-14シーズンも僅か10試合の出場で、更に今度は右膝半月板断裂という大ケガを負い、またもやシーズン全休を余儀なくされた。 翌年以降、復帰の度に随所で活躍する姿を見ることができたが、その後も右膝半月板部分断裂をはじめ、足首やハムストリングの負傷を繰り返し、満足に試合に出場できない日々が続いた。シーズン中は非凡な個人成績を残すも、2シーズンで約50試合の欠場を繰り返したローズは、2016年のオフシーズンにニューヨーク・ニックスへトレードされた。 ローズへ幾度となく再起を期待したチームが、次の世代への移行を決めた瞬間だった。ニックスではカーメロ・アンソニー、クリスタプス・ポルジンギスと共にビッグ3を結成し、再起を図るも、チームはリーグ下位に沈んだ。シーズンを通し、ローズは64試合への出場を果たし、平均18得点を記録したが、シーズン終盤に今度は左膝の半月板を断裂し、再びリハビリ生活を余儀なくされた。 2017年のオフにはレブロン・ジェームズのサポート役として優勝を見据えたクリーブランド・キャバリアーズとベテランミニマム契約を果たすも、勢いに乗らないチームは三角トレードでローズを放出。移籍先のユタ・ジャズではウェイブされ、その後はブルズ時代の恩師、トム・シボドーが指揮を執るミネソタ・ティンバーウルブズに拾われる形で何とかリーグへの残留を果たした。 ブルズ時代の輝かしい功績が嘘かのように、ジャーニーマンとしてチームを転々とする存在となってしまったローズ。苦悩の連続に一時は引退も考えたが、なんと今シーズンは完全復活をほのめかす1試合平均19.5得点を記録。 10月31日にはキャリアハイとなる50得点を叩き出すという目を疑うニュースが飛び込み、まるでタイムワープをしてMVPシーズンに戻ったかのような活躍ぶりだ。試合後にそんなローズの潤んだ瞳を見て涙を流したファンも多いことだろう。 ロッカールームでローズへウォーターシャワーをかけるチームメイトの姿、そして、レブロン・ジェームズをはじめとする多くのスターから寄せられたコメントの数が彼のこれまでの苦労と乗り越えた壁の高さを表している。 バスケットは球技の格闘技と呼ばれ、おそらく一度もケガを負わずにキャリアを終えた選手はいないだろう。あの時、あのプレイをしていなかったら。デリック・ローズという選手は、これまで自身のキャリアをどれほど悔いてきたか分からない。我々ファンとしてできることは、彼が引退を決意するその日まで、暖かく見守り続け、世界に感動を与えたスターへ拍手を送り続けてあげることだろう。ロサンゼルス・レイカーズのレジェンド、コービー・ブライアントもまた、キャリア終盤はケガに悩まされたスーパースターだが、彼のような華やかな引退試合をローズが演出してくれることをただただ願うばかりだ。

NBAライター ゆーきり 幼少期の10年間をアメリカで過ごす。初めて行ったNBA観戦で間近で見る選手に強い衝撃を受けNBAにどっぷりのめり込み、自身もバスケットボールを始める。ファン歴は20年を超え、これまでの自身の知識を発信しNBAファンを増やしたいという想いから、ブログ「NBA journal」を開設。現地の情報をもとに、わかりやすくもマニアックな内容を届けることを意識し、日々奮闘している。

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