史上最高峰のオールラウンドセンター ナゲッツを牽引する ニコラ・ヨキッチ

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新世代センターに求められる役割とは!?

シャキール・オニールのシャックアタック、ハキーム・オラジュワンのドリームシェイク。NBAを知る者なら一度は聞いたことのある有名なプレイではないだろうか。 2010年代に入るまで、NBAの主戦場はインサイドであった。バスケットボールにおいて、長身と強固な体を活かし、よりゴールに近い位置で得点を量産できる選手ほど都合の良いことはない。シャキール・オニールやハキーム・オラジュワン以外にも、パトリック・ユーイングやデイビット・ロビンソン、近年ではドワイト・ハワードなど、剛柔タイプはあれど、インサイドを主戦場に歴史に名を刻んだNBAを代表するビッグマンは数多く存在する。 そんなNBAにおいて、近年ではゴールデンステイト・ウォリアーズをはじめ、スモールボールでスリーポイントを多用するチームが多く、時代と共にセンターに求められる役割も変わってきている。正確に言うと、スモールボール戦術の一部となり、自らもアウトサイドシューターの一員となれる能力を持つこと、もしくは他の4人のシュート力を最大限に引き出せる高いバスケIQを持った選手が重宝される。 いつの時代も絶対的なセンターは必要で、仮にインサイドスキルのみのセンターだとしても、時代にとらわれず高い個人成績は残すことができるだろう。しかし、近年のリーグのトレンドにおいて、チームをリーグ制覇へと導くことができるかと言うとまったくの別問題となってくる。デマーカス・カズンズやジョエル・エンビード等は勿論だが、強靭な体でリバウンドを量産するアンドレ・ドラモンドでさえ今季はアウトサイドシュートのスキルを身に付けている。今季ドラフト1位指名を受けたディアンドレ・エイトンは、既にこのスタイルに順応した新世代センターと呼べることが、ドラフトの順位にも反映されたに違いない。

センターの常識を覆すトリプルダブルマシーン

スモールボールはおそらくNBAにおいて一時代を築くプレイスタイルとなるが、一風変わった独特のプレイスタイルで今最もこのシステムにフィットし、一気にトップセンターの仲間入りを果たした選手がいる。デンバー・ナゲッツに所属する、セルビア共和国出身のニコラ・ヨキッチだ。Jokicというスペルから、現地ではジョーカーという愛称でも親しまれている。ヨキッチは7フッター(213cm)という長身に加え、がっちりとした体型。決して俊敏と呼べる動きではないがために、一見インサイドを主戦場とする従来タイプのセンターにも見えるが、彼は他と全く違うプレイスタイルでチームを牽引する、パスファースト思考のオールラウンドセンターなのだ。 その体格やプレイスタイルから、FIBAの殿堂入り選手となったアルビダス・サボニスを連想する人も多いだろう。自らのサイズを活かし、インサイドでスコアラーとして活躍することができるのはもちろんだが、時にはピック&ロールからのストレッチアウトやキャッチ&シュートでスリーポイントをも放つ器用さを持つ。アウトサイドを駆使しながらも、フィールドゴールパーセンテージを5割以上キープしている点もヨキッチならではの特徴である。 そして、最大の武器はトップやハイポストから周囲を活かすプレイメイキング能力だ。その高い視点から最も効率的に味方をフリーにし、ボールを供給する方法を熟知している様は、まるでベテラン選手のようなプレイぶりで圧巻だ。それは、彼がポイントガードとして成長した経験値に加え、パスを出すことが本当に好きだという本人の意思が相まって確立されたプレイスタイルなのだろう。 「パスは2人を幸せにする。得点は1人しか幸せになれない」という現地メディアへのコメントはもはや名言といえる。そのパスへの意識の高さについて、昨季加入したポール・ミルサップからは、エースとしてもう少し得点に対する積極性を出しても良いというアドバイスを受けるほど。 強豪ひしめくウェスタン・カンファレンスにおいて、ナゲッツは今季もトップ5に入るオフェンス力を持つが、実際にその攻撃パターンを見るとあまり個人技は目立たず、スクリーンを多用し、フリーになった味方選手へシンプルなパスを繋ぐことで得点をクリエイトする、いわばチームオフェンスのお手本となるような展開を繰り広げている。特にヨキッチがボールを保持し、オフボールスクリーンにより味方選手がフリーになったその瞬間、ヨキッチより華麗なパスがさばかれるというプレイが十八番になりつつある。 このヨキッチを起点に生まれるチームオフェンスこそが、昨季10試合に渡りトリプルダブルを記録させた原動力でもあるのだ。今夏にはチームとMAX契約を結び、カーメロ・アンソニー以来の絶対的エースとして大きな期待がかかるヨキッチ。自身の目標は優勝のみと断言する彼だが、今季はオールスターへの出場もほぼ確実視されている。独自のスタイルでリーグにどのような旋風を巻き起こすか、今最もホットなニコラ・ヨキッチから目が離せない!

昨季の悔しさをバネに、プレイオフ復活へ向け好スタート

昨季は最終的に46勝36敗という成績で、第8シードを争うミネソタ・ティンバーウルブズとの直接対決となった最終戦で敗戦し、タッチの差でプレイオフ進出を逃したデンバー・ナゲッツ。この日、ヨキッチは両チームトップとなる35得点を記録するも、延長の末に力尽きた。この敗戦で、ナゲッツは5シーズン連続でプレイオフを逃す形となり、ヨキッチ自身もまた、キャリアにおいて未だプレイオフ出場を果たすことができていない。 しかし、今年は飛躍の年となれるポテンシャルを秘めたチームへと変貌を遂げるロースターとなった。スタメンにはギャリー・ハリスとジャマール・マレーというリーグを代表するバックコート若手コンビがおり、フォワードには複数のポジションをこなせ、チームへよくフィットしているウィル・バートンと、昨季は左手首の人体断裂により長期離脱を強いられたが、攻守で頼れるベテランのポール・ミルサップが構える。これにヨキッチを加えた5人は不動のスターターとして今季もチームケミストリーを深めるだろう。 そして、なんと言っても昨季との違いはリザーブメンバーにある。ドラフト14位指名で獲得したマイケル・ポーターJr.は、高校時代はNo.1プレイヤーとの呼び名が高く、NBAでも長身万能プレイヤーとしての期待が高まるルーキーだ。ここ2年は椎間板ヘルニアに苦しめられ、この7月には2度目の手術を受けており、どの時点でキャリアのスタートを切れるかの目途はついていないものの、将来的にはヨキッチと並んでチームの顔となれる逸材だ。 また、2年前にはリーグでMVP争いをしていたアイザイア・トーマスの加入も大きい。彼もまた、股関節のケガに悩まされ、クリーブランド・キャバリアーズ移籍後から評価を大幅に下げてしまっている元オールスター選手だ。ボストン・セルティックス時代には平均28.9得点を記録していた選手が、まさかその2年後にベテラン最低保証額でデンバー・ナゲッツにいることになるなど、誰が予想できたことだろう。 この2人の共通点は、ケガによるリスクが高いながらも、持ち前のオフェンス力は折り紙付きで、復帰後は必ずチームに勢いをもたらす存在に成り得ることだ。この賭けとも思えるナゲッツの補強だが、彼ら2人の復帰を待たずとも、チームは順調に勝ち星を伸ばしており、開幕直後にはホームであのウォリアーズをも負かしている。トレイ・ライルズ、モンテ・モリス、メイソン・プラムリー等ベンチ陣の活躍に加え、ポーターJr.とトーマスが加われば、今季は早い段階でプレイオフ進出を固められるだけではなく、上位進出も十分に狙える戦力が整ったと言えるだろう。 ヨキッチ個人としては、ホーム開幕戦でさっそく35得点、12リバウンド、11アシストとトリプルダブルを達成。フィールドゴールを10本以上ノーミスで決め、且つ30得点以上を挙げてのトリプルダブル達成は実に1967年のウィルト・チェンバレン以来となる史上2人目の大快挙だ。しかも、ターンオーバーもゼロという完璧なプレイぶりまで披露している。この調子で、初のオールスター選出のみに留まらず、華々しいプレイオフデビューを飾ることでナゲッツのフランチャイズプレイヤーへと成長すべく、大きく弾みをつけたい1年になることだろう。

NBAライター ゆーきり 幼少期の10年間をアメリカで過ごす。初めて行ったNBA観戦で間近で見る選手に強い衝撃を受けNBAにどっぷりのめり込み、自身もバスケットボールを始める。ファン歴は20年を超え、これまでの自身の知識を発信しNBAファンを増やしたいという想いから、ブログ「NBA journal」を開設。現地の情報をもとに、わかりやすくもマニアックな内容を届けることを意識し、日々奮闘している。

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