規格外!MVP有力候補 ギリシャの怪物 ヤニス・アデトクンボ
2018-19シーズン開幕から2週間が経過した日本時間10月30日(火)、NBAは週間最優秀選手を発表した。ウェスタン・カンファレスからは先日歴代6位の3ポイント成功率を記録したゴールデンステイト・ウォリアーズのステフィン・カリーが選出された。カリーと並びイースタン・カンファレンスから選出されたのがミルウォーキー・バックスの若きエース、ヤニス・アデトクンボである。一体彼がどうやってここまで登り詰めたのか。そしてバックスの今シーズンは?
NBA入団までの道のり
ガード並みのクイックネストとスキル、センター並みの高さとパワー、そして何よりファンを惹きつける豪快なプレイスタイルを持つヤニス・アデトクンボは、グリーク・フリークと言う愛称でNBAファンに親しまれているオールラウンドプレイヤーだ。今年も40ヶ国以上から実に100人を超える外国人選手が開幕ロースターへの登録を果たし、シーズンのスタートを迎えたわけだが、間違いなくその頂点に君臨するのがこのヤニス・アデトクンボだ。 そんな彼がNBA入りを果たしたのは2013年まで遡る。1巡目15位でミルウォーキー・バックスへの入団を果たすことになるのだが、この年は近年最も期待外れのドラフト1位と称されているアンソニー・ベネットがクリーブランド・キャバリアーズへ入団した年でもある。ヤニスのほか、1巡目下位指名までデニス・シュルーダー、ティム・ハーダウェイJr.、ルディ・ゴベアなど、現在チームの主力として活躍する選手が残っていたこともあり、この年のドラフトピックを後悔しているチームのフロント陣も多いことだろう。 今オフに行われた現地NBA.comによる各チームのGM宛の調査で「今日フランチャイズを開始するとすれば、どの選手と契約するか?」という問いに対し、30%のGMがヤニスの名前を挙げている。これはアンソニー・デイビス(23%)、ケビン・デュラント(20%)、そしてレブロン・ジェームズ(17%)を上回る結果だ。規格外の体と運動神経を持ち、どのポジションをもこなせる柔軟なプレイスタイルの彼へ対して、いつかリーグを制するかもしれないという期待値が込められている結果だったに違いない。 そんなヤニスだが、これまでの人生は決して平坦なものではなかった。1994年にギリシャで元プロサッカー選手の父親と高跳び選手の母親の間で、類無き身体能力を受け継ぎ誕生した。ナイジェリアでの生活が困窮したことでギリシャに渡った一家なのだが、不法移民にまともな仕事があるはずもなく、ヤニスも幼少期から道端で物品を販売し、難を凌いだという。幼少期から身長が高かったこともあり、12歳の時にジュニアチームでバスケットをはじめると、その才能を見込んでか、周囲の住民が彼の生活をサポートしてくれたことで何とか生活を繋ぐことができた。17歳でギリシャ2部のプロリーグへデビューすると、その活躍がNBAのスカウト陣の目にも止まり、市民権の問題などを乗り越えた後の2013年にNBAデビューを果たすことになる。 ヤニスは4兄弟の次男になるが、長男のタナシスも翌年の2014年のドラフトでニューヨーク・ニックスから指名を受け、2016年には念願のNBAデビューを果たしている。また、三男のコスタスも今季のドラフトで2巡目60位指名に滑り込み、ダラス・マーベリックスと2WAY契約を結んでいる非常に楽しみな逸材。4男のアレクシスもバスケットをプレイする現役高校生であり、今オフにヤニスが自身のInstagram で4人揃って筋トレを行っている写真を載せたことは記憶に新しい。
急成長を遂げたNBAキャリア前半
211cmの身長(ドラフト時の身長は204cm)、221cmのウィングスパン、最高到達点は371cm。ルーキー時代は90kgを切っていた体重も、今では100kg台に載せ、近年はアウトサイドのシュート力の向上も際立つ。 2014年には、NBAで殿堂入りを果たしたジェイソン・キッドがバックスのヘッドコーチへ就任し、211cmのアデトクンボをポイントガードとして起用する構想があると公言した。あのマジック・ジョンソンを超える長身ポイントガードというスケールの大きさに、誰もがその将来性を期待したに違いない。実際にポイントガードとしての役割を経験したことで同時期からアシスト数を伸ばし始めており、NBAでも通用する周囲を活かす視野の広さを身につけたことを証明した。 彼がトップ集団の仲間入りを果たしたのは2016-17シーズンのことだ。ガードの視野に加え、この時期から筋力を増加させることでインサイド選手とも渡り合える強さを手に入れたアデトクンボは、本来自身が担っていたフォワードのポジションで試合へ出場すると、平均得点は20点をオーバーさせ、アシストとリバウンドも自己最多を更新。 また、なんと言っても自らボールを運び、大股でディフェンダーを交わしながら、特に力強いダンクまで持っていくプレイスタイルを確立させたことで大いにファンを惹きつけた。その結果念願の初オールスター選出をまさかのスターターという形で飾ることとなった。イースタン・カンファレンス内でのファン投票数ではレブロン・ジェームズ、カイリー・アービングに次ぐ3番手という快挙だった。 同年に最も成長した選手に与えられるMIPを獲得し、オールNBA 2ndチーム、オールディフェンシブ2ndチームにも選出。年々頭角を現してきたグリーク・フリークが名実ともにスターの仲間入りを果たしたシーズンであった。昨年も順調に数字を伸ばしたアデトクンボは、遂には有名なテレビゲームのNBA2K19の表紙を飾った。今後のキャリアで彼に残された使命は、MVPの獲得となんと言ってもチームを優勝へと導くことであろう。
類を見ないプレイスタイルでバックスを東の頂点へと導けるか!?
今年はレブロン・ジェームズがロサンゼルス・レイカーズへ移籍したことで、イースタン・カンファレンスの大本命として挙げられることとなった2強がボストン・セルティックスとトロント・ラプターズだ。そして、3番手として食い込む可能性が高いのがフィラデルフィア・セブンティシクサーズというのが大方の見方である。 しかし、毎年必ずサプライズチームが生まれるのがNBA。昨季で言うとインディアナ・ペイサーズがこれに当たるだろう。ポール・ジョージとのトレードで加入したビクター・オラディポがチームにジャストフィットし、自身も初のオールスター出場を果たすという大躍進を遂げたが、シーズン開幕前に誰がこのことを予想することができただろう。 ジャバリ・パーカーが抜けた穴は痛いが、その分ベテランのブルック・ロペスとアーサン・イリャソワが加入した今季は、チームに安定感が加わり、彼らのベテランならではの活躍はアデトクンボの負担を減らしてくれるに違いない。両ビッグマンともにアウトサイドシュートを得意とすることから、アデトクンボのペネトレイトからのアシスト数も伸びるはず。バックスは毎年イーストの上位に食い込む力があると言われ続けながら、プレイオフでは勝ち切れていない現状にある。実質、プレイオフでは17シーズン連続で2ndラウンドへの進出を果たせていない。 アデトクンボに加え、クリス・ミドルトン、エリック・ブレッドソーを要するバックスは、今季もオフェンス力は申し分ない。ロスターにはマルコム・ブログドン等、複数ポジションをこなせる選手が多いことから、相手に応じてラインナップを変える柔軟性を持ち、特にサイズ面ではリーグ1位の大型ラインナップを組むことも可能だ。問題はチームとしてディフェンス力を向上させられるかどうかだが、その点はマイク・ブーデンホルザー新指揮官の手腕に期待したい。 今季で6年目を迎えるグリーク・フリークは24歳という若さでリーダーシップを発揮し、チームを上位進出させることで歴史に名を刻むスーパースターへの階段を駆け上がることができるか。イースタン・カンファレンスで最も注目度の高い選手の真価が問われる1年になりそうだ。
NBAライター ゆーきり 幼少期の10年間をアメリカで過ごす。初めて行ったNBA観戦で間近で見る選手に強い衝撃を受けNBAにどっぷりのめり込み、自身もバスケットボールを始める。ファン歴は20年を超え、これまでの自身の知識を発信しNBAファンを増やしたいという想いから、ブログ「NBA journal」を開設。現地の情報をもとに、わかりやすくもマニアックな内容を届けることを意識し、日々奮闘している。