“不敵なヒール”からリーグの“主人公”へ。躍進が期待されるシクサーズ【杉浦大介コラム vol.3】

オールスター級を複数揃え“パワーハウス”に

怪物的なアスリートたちが揃うNBA でも、最も迫力のあるチームはフィラデルフィア・76ers(以下シクサーズ)かもしれない。試合前のウォームアップを眺めていても、ジョエル・エンビード、ベン・シモンズ、トバイアス・ハリスといったサイズ、スキル、パワーを兼備したスター選手たちは威圧感たっぷり。そのオーラは、“バスケットボール漫画で主人公の前に立ちはだかる強豪チーム”を連想させる。 迎えた2019-20シーズン、スター軍団のシクサーズはついに“主役”として君臨することになるのかもしれない。昨季、悲願のファイナル制覇を遂げたトロント・ラプターズからカワイ・レナードが抜け、王者の戦力ダウンは必至。おかげで大混戦が予想されるイースタン・カンファレンスで、昨季最高勝率を残したミルウォーキー・バックスとともに、シクサーズは覇権争いの本命とみなされているのだ。 「目標はもちろん優勝だ。そのためには僕が牽引車にならなければいけないし、リーダーとしての仕事も果たさなければいけない。みんなを引っ張っていきたいんだ。僕は彼らが必要だし、彼らも僕が必要。みんなでやるべきことをやっていくよ」 大黒柱のジョエル・エンビードは10月18日、ワシントン・ウィザーズとのプレシーズン戦前に早くも“優勝宣言”をしていた。 エンビードのビッグマウスは今に始まったことではないが、今やそれを笑い飛ばす者はもういないだろう。昨オフ、アル・ホーフォードとジョシュ・リチャードソンが新たに加入し、フリーエージェント(FA)だったハリスとも再契約。これでシクサーズは、シモンズ、リチャードソン、ハリス、エンビード、ホーフォードというサイズ、スキルを備えた強力なスターティング・ファイブを揃えるに至った。 3、4人がオールスターに選ばれても不思議はない陣容は“パワーハウス”と呼ぶに相応しい。平均身長206.6cmという先発5人が噛み合いさえすれば、リーグ最高級の力を発揮しても誰も驚くべきではないのだろう。

プレシーズン戦ではグレードアップした堅守を披露

昨季のシクサーズはプレイオフでラプターズと最終第7戦にもつれ込む激闘を演じ、“王者を最も苦しめたチーム”になった。その当時よりもさらに評価を高めているのは、肝心のディフェンスに向上が見られるため。エンビードとともに守備の要だったジミー・バトラー(現マイアミ・ヒート)が移籍した後でも、よりグレードアップしたと評判だ。 プレシーズン中もその堅守は話題になっていた。11日のシャーロット・ホーネッツ戦、13日のオーランド・マジック戦、15日のデトロイト・ピストンズ戦ではすべて95失点以下に抑え、100ポゼッションあたり87.8失点という好数値を記録。相手のFG成功率は35.9%に過ぎず、特に3ポイントシュートを的確に封じる場面が目立った。リバウンド、ブロックまで含め、その強力なディフェンスを指し示す数字は数多い。 「このロースターなら(守備面で)これくらいのことはできる。実際にそれだけの力が発揮できるというのは気分が良いものさ。ベン(・シモンズ)と“これは良いチームになる”って話し合っていたところだよ」 8年目のベテラン、カイル・オクインがそう述べていた通り、リチャードソンの加入でペリメーター・ディフェンスが強化され、ホーフォードのおかげでゴール周辺にも新たな柱ができた。控えのジェームズ・エニス三世、マティース・サイブル、オクインもディフェンスは良く、相手チームには厄介な存在であることは間違いない。

戦力面での大きな不足点はない

「目指すはチームディフェンスでリーグベストになり、60勝以上を挙げること。第1シードを勝ち取るため、何勝が必要になろうと、僕たちはやり遂げるよ」 そんな言葉から伝わっている通り、4年目を迎えた主砲エンビードも今季に向けて意欲満々だ。2年連続でオール・ディフェンシブ2nd チームに選出されたビッグマンは、MVPと最優秀守備選手賞の同時受賞を今季の目標に定めている。とにかくスケールの大きさが魅力の大型センターが、攻守両面で飛躍するのに機は熟したのかもしれない。 もっとも、シクサーズにも懸念材料がないわけではなく、控えの層がやや薄い点に一抹の不安は残る。特にエンビードは故障の不安につきまとわれており、65試合以上をプレイしたシーズンはまだない。エンビード不在時にはシクサーズの迫力、破壊力はかなり目減りするだけに、状況に応じて慎重な起用法も必要になるはずだ。 「理想を言えば、(エンビードには)可能な限り多くのゲームにプレイしてほしい。ただ、このチームは層が厚い。僕がセンターを務められるし、オクインもPFでプレイできるから、(エンビードは)大きな重荷を感じずに済むはずだ」 経験豊富なホーフォードは、エンビードをシーズン中に効果的に休ませることの大切さも述べていた。ブレット・ブラウンHCの采配、フロントのシーズン中の補強まで含め、スーパースターのサポート体制が見どころのひとつになるのだろう。 ただ、このようにスター選手のコンディションが真っ先に不安材料として指摘されるのは、逆に言えば戦力面で大きな不足点がないということでもある。少なくとも現時点では主力の体調は上々で、開幕ダッシュの期待は膨らむ。このタレント集団がいきなり勢いをつければ、一気に突っ走る可能性もあるはずだ。 サイズ、スキル、パワーのすべてに恵まれたシクサーズは、今年こそNBAを席巻するのか。名作漫画「スラムダンク」の翔陽や海南を彷彿とさせる“不敵なヒール(悪役)”のイメージも強かったタレント集団が、ついにこのリーグの“主人公”になるときが来たのか。一気に新時代を開きかねないポテンシャルを確実に感じさせるだけに、ファンはシクサーズの行方から決して目を離すべきではない。

杉浦大介:ニューヨーク在住のフリーライター。NBA、MLB、ボクシングなどアメリカのスポーツの取材・執筆を行なっている。『DUNK SHOOT』、『SLUGGER』など各種専門誌や『NBA JAPAN』、『日本経済新聞・電子版』といったウェブメディアなどに寄稿している。Twitter:@daisukesugiura

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