レブロンが新シーズンに胸躍らせるワケ【宮地陽子コラム vol.1】

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レブロンの粋な申し出に、感銘を受けたデイビス

今年の夏、アンソニー・デイビスのロサンゼルス・レイカーズへの移籍が決まった後のある日のこと。デイビスとレブロン・ジェームズは、レブロン行きつけのイタリアン・レストランで食事をしていた。食事が終わる頃、ウェイターがレストランの持ち帰り用紙袋を持ってきて、レブロンに手渡す。袋の中から背番号23のレイカーズ・ユニフォームを取り出したレブロンは、「これは君のものだ」と、デイビスに差し出した。チームメイトになった記念にレブロンのユニフォームをくれたのだと思ったデイビスは、背中の23の数字の上に、自分の名前があるのを見て驚き、そして、レブロンの意図を理解した。大事な背番号を譲ってくれるというのだ。 レブロンにとってもデイビスにとっても、『23』はNBAに入る前からつけてきた愛着がある番号だった。1984年、マイケル・ジョーダンがシカゴ・ブルズに入った年の年末に、シカゴがあるイリノイ州の隣、オハイオ州で生まれ育ったレブロンと、ジョーダンがブルズで最初のスリーピートを達成する3ヶ月前、93年3月にシカゴで生まれたデイビス。場所と年代は少し違うが、同じアメリカ中西部で生まれ育った彼らにとって、『23』は紛れもなくエース番号だった。 順番でいえば、後からレイカーズに入ってきたデイビスが別の番号を選ぶところなのだが、レブロン自ら、その番号を譲ると申し出てくれたことに、デイビスは感銘を受けたのだ。自分に遠慮することなく、レイカーズの中心となってプレーしてほしいという、レブロンの気持ちの表れだった。結局、番号の譲渡は実現せず、少なくとも今シーズンの間は、レブロンが23をつけ続けることになった。リーグの規定による背番号変更届けの期限は過ぎていて、ユニフォームの在庫の関係から、特例の許可も下りなかったのだ。 「だめだと言われて、僕らは2人ともがっかりした。僕らにとってすごく大きなことだったからね」とデイビスは言う。 その後、デイビスはバスケットボールを始めた時につけていた3番を今シーズンの背番号として選んだ。一方、レブロンも練習中には、デイビスに23を譲った場合に着るつもりだった6番の練習着で汗を流している。まるで、もう23は自分の番号ではないとでもいうかのように。 2人が試合や練習で何番をつけていようと、番号を譲ることで示そうとしたレブロンの気持ちに変わりはない。たとえば、デイビスが中心となるようなオフェンスを組み立てるようにと、キャンプ前からフロントやコーチ陣に提言してもいた。 「コーチ陣が新しくなって、どんなオフェンスになるのか、どんなディフェンスになるのかはまだわからない。でも、僕らはみんな、アンソニー・デイビスがどれだけいい選手なのかは知っている。アンソニー・デイビスが試合に出ているときに、彼が中心になって攻めなかったら、彼が試合に出る意味がない。彼はそれだけすばらしい選手なんだ」とレブロンは、その意図を説明した。 「だからといって、毎回攻撃のたびに、彼のボールを入れ続けるというわけではないけれど、でも、それだけの能力はある。キャリアを通して、とても効率いい選手で、ダブルチーム相手にも対応できる」

レブロン「デイビスはすべての面で秀でた人間」

実は、レブロンがオフェンスの主導権の座を別の選手に譲ろうとしたのは、これが最初ではなかった。マイアミ・ヒートからクリーブランド・キャバリアーズに戻った2014年、レブロンがいない間にドラフト1位でキャブズ入りしていたカイリー・アービングをオフェンスの中心にするようにと、当時のキャブズのコーチ陣に提案したことがあった。 「このリーグのMVPになるだけの選手だと思っていたからね」とレブロンは当時を思い返して言った。「あの頃の僕のコメントを見てもらえれば、そういうことを何度も言っていたのがわかるはずだ」 チームメイトになって2シーズン目の16年には共に優勝したレブロンとカイリーのコンビだったが、その翌シーズンにカイリーがチームにトレードを要求し、セルティックスに移籍したことで分裂した。若く、自分のやり方、自分のチームで結果を出したかったカイリーは、影響力の強いレブロンのもとを離れたかったのだ。カイリーにチームを託すつもりだったレブロンは、トレード要求が明らかになるまでカイリーがそんな気持ちでいることも知らなかったという。 デイビスとコンビを組むことになったレブロンが、その時のことを思い出さないわけがない。まるで、恋人に婚約指輪を贈る時のように準備万端でユニフォームを用意して、自分の気持ちを伝えようとしたのも、自分の思いが伝わっていなかった過去を繰り返さないためだったのかもしれない。 レブロンは言う。 「彼(デイビス)がレイカーズに来ることになったときは、とても嬉しかった。夏の間に僕らは多くの時間をいっしょに過ごした。そのことからも、どれだけ嬉しかったのかわかると思う。彼はすばらしい心の持ち主、すばらしい選手だ。それに、すばらしいリーダーでもある。彼のようにバスケットボール面だけでなく、すべての面で秀でた人間を迎え入れることができたことは、このフランチャイズにとってまたとないすばらしい機会だ」 とはいえ、どれだけ言葉やジェスチャーで表しても、レブロンの大きな存在感や強力なリーダーシップが消えるものではない。それだけに、レブロンとデイビスの間のコミュニケーションは、コンビの成功、レイカーズの成功にとって鍵となる。 レブロンは、デイビスとはとてもいい関係を築けていると言う。 「チームメイトになる前からいい関係を築いていたから、いい関係でいられる。お互いに率直に言い合い、相手が言うことを個人批判だと受け止めることもない。彼に厳しいことを言えるし、彼も僕に厳しいことを言える。でも、それはすべて、お互いに挑み合い、向上するためなんだ。そうすることで、チームのためにもなる」 この夏、レブロンとデイビスは頻繁に連絡を取り合った。レイカーズのロブ・ペリンカGMは、FA選手の契約やトレードなどの補強話が上がるたびに、レブロンとデイビスに意見を求めた。そんなこともあってか、2人の話は、いつもバスケットボールの話に戻るのだと、デイビスは言う。 「いっしょにランチを食べていても、レブロンは突然、『今シーズンが楽しみでしかたないよ』と言ったりしていた。いつでもバスケットボールの話になるんだ。彼も、僕も、とにかく楽しみでワクワクしている」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 宮地陽子:ロサンゼルス近郊在住のスポーツライター。『Number』、『NBA JAPAN』、『DUNK SHOOT』、『AKATSUKI FIVE plus+』など、日本の各メディアにNBAやバスケットボールの記事を寄稿している。NBAオールスターやアウォードのメディア投票に参加実績も。Twitter:@yokomiyaji

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