超大国アメリカの首都として、どの州にも属さず、特別区という形で存在するワシントンD.C.。人口自体はさほど多くないものの、強大な政治的影響力を持つ世界都市であり、首都としての機能を果たすべく設計された計画都市として有名である。ホワイトハウスやワシントン・モニュメントなど、緑と融合した自由で開放的な空間は、アメリカの首都にふさわしい洗練された雰囲気を作り出しており、観光客からも非常に人気の高い都市となっている。ちなみに米国でワシントンと言うと、シアトルがある西北のワシントン州を思い浮かべるのが一般的で、ワシントンD.C.のことは一般的にD.C.と呼ぶ。 政治の街と聞くと、お堅いイメージを持ってしまうが、実はスポーツがとても盛んである。アメリカの4大プロスポーツチーム(バスケット・野球・アメフト・アイスホッケー)が本拠地を構える他、サッカーや各競技の女子プロやセミプロチームも多く存在することから、1年中スポーツ観戦を楽しむことが可能なのだ。街のあるゆる所にスポーツバーがあるため、お酒を片手に熱狂的にチームを応援するファンの姿をよく目の当たりにする。 ワシントンD.C.の中心部のチャイナタウンに位置するキャピタル・ワン・アリーナ。こちらを本拠地に活動するのが、八村の指名により一気に日本人にとって親近感が高まったワシントン・ウィザーズだ。チームの創設は1961年と歴史は古いが、本拠地とチーム名を複数回に渡り変更し、現在のウィザーズに至ったのは1997年のことである。 2001年より2シーズンは、あのマイケル・ジョーダンが2度目の現役復帰をこのワシントン・ウィザーズで果たしたことでも有名である。当時、既にチームへの出資によりオーナーの1人となっていたジョーダンは、自らが復帰することでチームの浮上を試みた。しかし、ジョーダンがドラフト1位で指名をしたとされるクワミ・ブラウンが期待外れに終わった影響などもあり、残念ながらプレイオフ進出は叶わず、強豪の仲間入りを果たすまでには至らなかった。ただ、ジョーダン自身はリーグで唯一となる40歳で40得点を記録するなどの活躍を披露。フィナーレとなる2003年のオールスターゲームで、試合終了間際に決めた激的な逆転フェイダウェイシュートは、NBA史に残る名場面の一つと言えよう。ジョーダンの活躍は、ウィザーズが低迷しながらも人気チームへと浮上した非常に大きな要因となっている。 その後、ギルバート・アリーナス、アントワン・ジェイミソン、カロン・バトラーのビッグ3を結成した時代にはプレイオフ常連チームとなり、ようやく強豪の仲間入りを果たす。しかし、毎年レブロン・ジェームズ率いるクリーブランド・キャバリアーズの壁を越えることができず、主力が続々と離脱。チームは再び低迷期に入ることになる。
2010年にドラフト1位指名で入団したジョン・ウォールと、2012年に3位指名で入団したブラッドリー・ビールのガードコンビが板につくと、チームは2013-14シーズンから昨季まで5割以上を記録し、プレイオフにも名を連ねる強豪となりつつあった。特に、ポール・ピアースを獲得した2014-15シーズンにはダークホースとして恐れられ、ディビジョン優勝を決めた2016-17シーズンはバランスの取れた布陣でカンファレンスファイナル進出まであと一歩という状況にまで迫った。 しかし、今オフのロスターからは残念ながら当時の勢いは感じない。エースのウォールは左踵にある踵骨棘の修復手術を受けることを決め、今シーズンは一足早く戦線から離脱している。当初、回復期間は半年程度とされたため、次シーズン開幕時には再び万全な状態を取り戻すことを期待されたが、その後、自宅で転倒した際に左足アキレス腱を部分断裂していたことが発覚。現在も具体的な復帰の目途は立っていない。5度のオールスター出場を果たしているポイントガードは、スピードとクイックネスが売りなだけに、どれほど以前の姿を取り戻すことが出来るのかを懸念する声も上がっている。 もう一人のエースのビールは、近年はオールスターのメンバーに名を連ねるリーグ屈指の点取り屋へと成長。ウォール不在の中、今シーズンはリーグ1位となる平均36.9分の出場を果たし、シーズンを通して25.6得点、5.0リバウンド、5.5アシストを記録するなど、キャリアハイの活躍を見せた。しかし、そんなビールに目をつけるチームも多いため、常にトレードの噂が絶えない。ウィザーズ側も再建モードにあるため、トレード市場で非常に価値の高いビールを使って、数年後に焦点を当てた有望な若手獲得を決行する可能性もあり得る状況と言えよう。 その他、一時リーグでインサイドを支配したドワイト・ハワードは、近年はケガがちなことに加え、健康体でプレイをしてもチームにフィットするかは未知数の状態にある。今シーズン途中に加入し、主力として活躍したジャバリ・パーカーとボビー・ポーティスは無理をして引き留める必要性はないと決断したことで、フォワードのポジションはがら空き。唯一、今シーズンの活躍が認められたトーマス・ブライアントとの再契約が報じられた以外、未だフロントコート人の目立った補強はない。 このように、チームのツートップが不安定な状況にあり、現ロスターでは回復の兆しが見られない場合は、新たにチームの軸と成り得る若手選手の成長にフォーカスする、本格的な再建モードに入る可能性が高い。そういう意味で、今オフに1巡目指名で獲得した八村への期待は大きく、早くもチームの軸として捉えられる可能性も十分に秘めている状況なのだ。 スモールボールが主流の現リーグにおいて、八村はおそらくパワーフォワードでの出場機会が増えるのではないかと予想される。203cm、104kgというサイズはNBAにしてはややアンダーサイズだが、218cmのウイングスパンを持つ八村に対して、チームはあまり体格面には不安を感じていないようだ。確かに、あのザイオン・ウィリアムソンにも当たり負けしないのだから、心配は無用かもしれない。 むしろ、懸念されるのはディフェンス力とアウトサイドシュート、特にスリーポイントシュート力だろう。ウィザーズは八村に対し、事前のミーティングやワークアウトを実施しなかったため、指名後の会見で、本人にスリーポイントは打てるかという確認をする場面もあった。これは大学3年時、スリーポイント成功率は高いながら、成功本数自体は少ないことを知っての質問であったとされる。ウィザーズ自体、八村には非常にポテンシャルを感じており、現リーグにフィットするいわゆるストレッチ4としての役割を担ってもらいたいという期待が高い。八村の場合は、ミドルシュートとフリースローに定評があるだけに、成長余地も高いと見ているのだろう。近い将来、チームの中心選手としての活躍が期待されるだけに、アピール次第では開幕スタメンも夢ではない状況にある。 八村へのインタビューの際、流暢に英語を話す姿を見て驚いた方も多いかもしれない。渡米前は英語でのコミュニケーションを決して得意とはしていなかったが、世界で活躍するには必要なスキルと捉え、猛勉強の末に身に着けたのだろう。通訳の協力も大きかったと本人は言うが、音楽やテレビゲームからも学びが多かったというのだから面白い。 八村へ対するかつてない期待感に、日本人としては心が躍るところだが、八村以外にも、今サマーリーグには渡邊雄太をはじめ、比江島慎、馬場雄大ら日本代表メンバーも参加した。世界最高レベルの舞台で彼らがどのような活躍を見せるのかも非常に楽しみなところである。 日本人がNBAの舞台を夢のまた夢と捉える時代は終わった。田臥勇太がこじ開けた未来に、今続々と期待のホープが続こうとしている。世界と戦う日本人選手の有志と、ワシントン・ウィザーズの顔となるべく、その最先端で奮闘する八村塁の姿を温かく見守ろうではないか。
幼少期の10年間をアメリカで過ごす。初めて行ったNBA観戦で間近で見る選手に強い衝撃を受けNBAにどっぷりのめり込み、自身もバスケットボールを始める。ファン歴は20年を超え、これまでの自身の知識を発信しNBAファンを増やしたいという想いから、ブログ「NBA journal」を開設。現地の情報をもとに、わかりやすくもマニアックな内容を届けることを意識し、日々奮闘している。