過小評価されがちなホーネッツの絶対エース
名門コネチカット大学で3年時にチームをNCAA優勝へと導き、1巡目9位指名でNBAの道へ足を踏み入れることとなったケンバ・ウォーカー。当時のチームメイトのジェレミー・ラムと共にホーネッツのバックコートを務め、チームをプレイオフ戦線へと食い込ませようと牽引する絶対エースだ。入団時のチームは、ロックアウトの影響もあるが、シーズン中に僅か7勝しかあげられないほどの弱小チームだった。絶対的エースが不在という状況下、ケンバはスタメン争いにも苦戦を強いられた。その後着々と成長を遂げることで、同年にNBAへの入団を果たしたカイリー・アービング、クレイ・トンプソン、カワイ・レナードやジミー・バトラーと比較しても、個人スタッツでは決して劣ることのない活躍でチームを鼓舞した。 おそらく、身長は登録上の185cmよりも小さく、ポイントガードの中でもアンダーサイズのケンバ。しかし、その分クイックネスとボールハンドリングの能力に長けている。素早いクロスオーバーから一気にゴール下まで駆け抜けるドライブと、相手を揺さぶり、綺麗なフォームから放たれるジャンプシュートが得点源となる。また、キャリア中盤からアウトサイドシュートの精度を磨いたことで平均得点が20得点を超えはじめ、今では攻め方のバリエーションが豊富なのも強みの1つとなっている。 これまで、チームに長く在籍したフランチャイズプレイヤーと呼べる選手が少ないホーネッツだが、先日、デル・カリーを抜き、ケンバがチーム歴代最多得点者となったことも忘れてはならない。派手なプレイでアシストを量産するような選手ではないが、ミスが少なく、堅実で状況判断が素晴らしいプレイスタイルは、チームの中心選手として重宝されるタイプの選手だ。 ステフィン・カリー、カイリー・アービング、ラッセル・ウェストブルックなどのオールスター常連メンバーをはじめ、現在のNBAにはかつてないほど優秀なポイントガードが在籍していると言っても過言ではない。他にもクリス・ポール、デイミアン・リラード、ジョン・ウォールなど、その名前をあげればきりがない。2017年以降、オールスターに名を連ねるようになったケンバだが、どうしても周囲のガードと比較すると注目度が低く、過小評価を受けている印象は否めない。その最大の要因は、チームが勝てないことにあるのだろう。既に8シーズンのキャリアを過ごし、ケンバがプレイオフに出場したのは僅か2度に過ぎない。しかも、いずれもファーストラウンドでの敗退と、決して優秀な成績を残しているとは言い難い。今シーズンも、終盤までプレイオフ争いを繰り広げたものの、結局チームは3年連続でプレイオフを逃す形となった。主力選手の大半が中堅からベテラン選手となるホーネッツ。一見、ケンバの堅実なプレイがマッチしそうな布陣だが、実は大勝・大敗の波が激しく、接戦を物にできていないなど、チームカラーとはアンバランスな戦績となっている。複数人のスターが在籍するチームではないため、ケンバへの負担が大きいのも事実だが、今後はケンバにもチームへ安定的に勝利もたらす力が求められてくることだろう。
近年稀なフランチャイズプレイヤーとなる道を選択するか!?
チームへの忠誠心が高く、これまでもトレード話が上がりながら、チームへ残留し続けたケンバ。完全FAとなる今夏の動向には非常に注目が集まるところである。ホーネッツのチーム事情からすると、ニコラス・バトゥムが年に2,000万ドルを超える大型契約を結んでおり、ビスマック・ビヨンボ、マービン・ウィリアムズ、コディ・ゼラー、マイケル・キッド・ギルクリスト等のロールプレイヤーにも、明らかに活躍以上のサラリーを支払っていることで、非常に苦しい財政状況にある。チームで6番手のサラリーという、言わばコスパ抜群であったケンバには今回MAX契約の提示が求められることから、チームはラグジュアリータックスを支払う事態となるため、慎重に方針を検討することとなるだろう。 そのような中、ケンバを求める声は複数あがっている。その筆頭と呼ばれるのがダラス・マーベリックスだ。今季のルーキー・オブ・ザ・イヤー候補のルカ・ドンチッチと、左膝前十字靭帯断裂からの復帰が待たれるクリスタプス・ポルジンギスに加え、ケンバ・ウォーカーを獲得することで誕生する新生ビッグ3はリーグに新たなインパクトを与えるに違いない。 また、ニューヨーク・ニックスやロサンゼルス・レイカーズなどのビッグマーケットも、ケンバへはアプローチをかけるに違いない。現在は再建モードながら、一気に複数のスターを獲得することで上位進出を目論んでいるチームにとって、大物FAが多い今オフはまたとないチャンスだからである。ケビン・デュラント、カワイ・レナード、カイリー・アービングなどが大本命となるだろうが、必ずや第二オプションにはケンバの獲得が視野に入っていることだろう。チームカラーにフィットしそうという意味では、ロサンゼルス・クリッパーズ、インディアナ・ペイサーズ、オーランド・マジックあたりも魅力的かもしれない。 ケンバは努力家であり、チームに対する忠誠心も高い。これまでホーネッツもそのバスケットに対するケンバの姿勢を評価しており、今オフも可能であれば他のロールプレイヤーを複数手放してでも、ケンバをキープしたいのが本音だろう。ケンバ自身もまた、至って普通の生活を好んでいることから、ビッグマーケットへの移籍よりも、ホーネッツに残留する方がその希望を叶えられると踏んでいるかもしれない。 ただし、ケンバも29歳を迎え、自身がエースとして満足にプレイできる期間が長く残されているわけではない。近年はスターが優勝を追い求め、移籍を選択するというケースが珍しくないだけに、交渉期間に彼の心を揺さぶるチームが表れても何ら不思議なことではない。 今季、ホームコートのスペクトラム・センターで開催されたオールスターでは初めてスターティングラインナップに身を連ね、すっかりスーパースターの中身入りを果たしたケンバ。 今後もマイケル・ジョーダンがオーナーを務めるチームで、お気に入りのジョーダンブランドのウェアとシューズを身をまとい、笑顔でチームメイトと会話をするケンバを見たい一方、ケンバとの大型契約により、サラリーキャップに一切の余裕がなくなるホーネッツでは、マリーク・モンクやマイルズ・ブリッジズ等の若手の成長を願うのみの状況となってしまうのも少し寂しい。そうすると、他のチームでビッグ3などを形成し、プレイオフで活躍するケンバを応援したいという想いもファンの中には少なからずあるのではないだろうか。 熱いプレイオフが繰り広げられる中、裏側では既に来シーズン以降を視野に入れた戦いが始まっている。ケンバはフランチャイズプレイヤーとしての道を歩む可能性が残されている状況ではあるが、熱い頂上決戦を目の当たりにすることで、果たして優勝争いに食い込む戦いを求め、移籍を選択する可能性があるか、FA選手全体の中でも非常に注目度が高い。きっと、彼の場合はどのような道を選ぼうが、ファンも優しく後押しをするだろうが、そんなチームを背負う1人のエースのオフシーズンの動向から目が離せない状況がしばらく続くだろう。