日本時間9月19日(土)、ついにウェストのカンファレンス決勝の組み合わせが決まった。1位シードから順当に勝ち上がったロサンゼルス・レイカーズに、7戦の末に優勝候補ロサンゼルス・クリッパーズを破ったデンバー・ナゲッツが挑む。今週はレイカーズとナゲッツのここまでの軌跡を振り返りつつ、カンファレンス決勝の見所を紹介したい。
レイカーズのシーズン勝率(.732)はミルウォーキー・バックス(.767)、トロント・ラプターズ(.736)に次ぐリーグ3位。プレイオフに入ってからはここまで1回戦、カンファレンス準決勝共に4勝1敗で危なげなく勝ち上がった。成績だけを見ると盤石に見えるレイカーズだが、実際の試合を観てみるとその印象は大きく変わってくる。 ガベージタイムの数字を除いたスタッツを提供するサイト『Cleaning The Glass』によれば、今シーズンのレイカーズのハーフコート・オフェンスはリーグで19位と苦戦している。カンファレンス準決勝でマーキーフ・モリス、ラジョン・ロンド、アレックス・カルーソといったロールプレイヤーたちが日替わりで活躍したのを見てもリズム自体は上向いている様子だが、それでも勝ち残っている他の3チームと比べると見劣りする感は否めない。 プレイオフを勝ち上がるのに必須に見えるハーフコート・オフェンスが機能していないにも拘らずレイカーズが圧倒的な強さを見せているのは、ディフェンス力のおかげだ。フランク・ボーゲルHCはインディアナ・ペイサーズ時代からディフェンスの構築に定評があった。ペイサーズを指揮していた頃からNBAのトレンドは変わっているが、その変化に対応して再び優秀な守備型の強豪を作り上げたことは称賛に値する。 堅牢なディフェンスで相手をシャットダウンし、速攻から得点を狙う。ハーフコートの展開になったらレブロン・ジェームズとアンソニー・デイビスの個人能力に頼る。レイカーズの作戦は実にわかりやすい。しかし、これは言うは易しの類で、なかなかもって簡単に遂行できる作戦ではない。このやり方で戦えているのは一重にレブロンの力に因る。通常スター選手というものは勝負所で点を取ることを考えるはずだが、レブロンは大事な局面でまずディフェンスのギアを上げる。レブロンの強烈なブロックからレイカーズが速攻に転じるシーンを皆さんも容易に思い出せるはずだ。ここまでのプレイオフの活躍は、NBA史上最高のオールラウンダーたるレブロンの面目躍如と言えるだろう。
圧倒的な強さでカンファレンス決勝に駒を進めたレイカーズとは対照的に、ナゲッツは1回戦、カンファレンス準決勝共に7戦までもつれる激戦の末に勝ち上がった。さらに、いずれも1勝3敗のピンチから大逆転の末に勝利している。プレイオフでのオフェンシブ・レーティグは112.5、ディフェンシブ・レーティングは114.0とその差分であるネット・レーティングはなんとマイナス。ボコボコにやられても蘇ってくるしぶとさが数字にも表れている。 勝ち上がり方だけではなく、プレイスタイルもレイカーズとは対照的だ。ナゲッツの武器はニコラ・ヨキッチとジャマール・マレーを中心とした破壊力のあるオフェンスである。ヨキッチはプレイオフに入り3ポイントを44.0%の高確率で決めている。スリーにチェックが来れば、ポンプフェイクからドライブし、ヘルプディフェンスを嘲笑うかのようなアシストを繰り出す。さらに、シュートが上手いので3ポイントラインの内側でボールを受けられたらシングル・カバレージ(注:ダブルチーム無し)では止めることができない。さりとてダブルチームにいけば的確なパスをさばかれる。現代バスケの理想系のようなセンターだ。 相棒のマレーは元々ポテンシャルを買われてナゲッツからマックス契約を与えられていたが、プレイオフに入りついにその才能が覚醒した。ハンドリングはあるが無駄にドリブルをしない。味方にボールを預けてオフボールでシューターになれる。必要な場面ではプルアップスリーとドライブからの柔らかいフローターで自ら点を取りにいく。その姿はまるでステフィン・カリーのようだ。ヨキッチとマレーというエース2枚が揃って点も取れてアシストもできるタイプなこともあり、ナゲッツのオフェンスはよくパスが回る。レギュラーシーズンのディフェンシブ・レーティングが5位だったクリッパーズが守りきれなかったのも肯ける話だ。 そんな強力なオフェンスを持ちながらここまでの2シリーズが接戦続きだったことからもわかる通り、ナゲッツはあまりディフェンスを得意としていない。クリッパーズとの第7戦でも解説のジェフ・バンガンディが指摘していたが、シンプルなピストル・アクションにもローテーテョンが間に合っていなかった。ジェラミ・グラントの加入でオンボールに強いディフェンダーは増えたが、チームとしてのディフェンス力には疑問が残る。ただし、カンファレンス準決勝の最後の3連勝では105点、98点、89点と試合を重ねるごとに失点を減らしていた。ディフェンスを苦手としながらもシリーズ内でアジャストする力があるのは強みだ。
対照的な2チームによるカンファレンス決勝だが、レギュラーシーズンは3勝1敗でレイカーズが勝ち越している。とは言え最後の1試合はナゲッツが主力のミニッツを管理していたので参考外、3戦目はオーバータイムにもつれる接戦だったことから、ナゲッツの負け越しをそこまで重く見ない向きもあるだろう。しかし、私には気になることがある。それはデイビスとヨキッチの相性だ。 デイビスがナゲッツとの4戦で平均29.3点、9.3リバウンドを記録したのに対し、ヨキッチは平均16.3点、5.8リバウンドと低調だった。4戦のうちヨキッチがデイビスについた時間は10分15秒で、その間デイビスは3ポイント1本を含む9本のフィールドゴールと、フリースロー7本を沈め26得点を挙げた。一方のヨキッチはデイビスがマークマンだった9分24秒でフィールドゴール3本とフリースロー6本の計12得点に抑えられている。 前述の通りナゲッツのオフェンスはヨキッチ、マレーの2人が得点するだけでなく、ディフェンスを引きつけてパスをさばくことで成立している。仮にデイビスがシングル・カバレージでヨキッチを抑えることができるとすれば、ナゲッツに勝ち目はない。プレイオフに入りヨキッチは3ポイントの確率を上げている他、センターながらに味方のスクリーンを受けてペイントへ進入してパスを受けたりと進化を見せている。ヨキッチの進化がデイビスの壁を越えるのか、それともデイビスがオール・ディフェンシブ・ファーストチームの実力を見せつけるのか。このマッチアップがシリーズの行方を決めるのは間違いないだろう。 メンフィス・グリズリーズのファンとしては、同じくスモール・マーケットで生え抜きを育てながら頑張っているナゲッツに勝ってほしい気持ちはある。ヨキッチは最もエキサイティングな選手で、ファイナルで躍動する姿も見てみたい。というわけで応援するのはナゲッツだが、予想は4勝2敗でレイカーズとした。不安なハーフコート・オフェンスは、レブロンとロンドの試合巧者2人が徹底的にヨキッチを攻めることでなんとか形にする。ディフェンスでもデイビスを中心にヨキッチをある程度スローダウンさせることに成功すると見た。ナゲッツの2勝は、スーパースターの域に到達しつつあるマレーに敬意を払って。イーストのカンファレンス決勝も初戦から壮絶な試合だった。ウェストも負けずに熱い試合を見せてくれることを心待ちにしている。
大柴壮平:ロングインタビュー中心のバスケ本シリーズ『ダブドリ』の編集長。『ダブドリ』にアリーナ周りのディープスポットを探すコラム『ダブドリ探検隊』を連載する他、『スポーツナビ』や『FLY MAGAZINE』でも執筆している。YouTube『Basketball Diner』、ポッドキャスト『Mark Tonight NTR』に出演中。