大量得点待ったなし? 8.8「八村対ザイオン」の注目ポイント【大柴壮平コラム vol.45】

日本時間8月8日土曜の午前9時より、ワシントン・ウィザーズ対ニューオーリンズ・ペリカンズの一戦が行われる。八村塁がNBAで初めてザイオン・ウィリアムソンと対決するとあって国内の注目度が高く、「NBA Rakuten」では日本代表の富樫勇樹選手や人気お笑い芸人ハライチの澤部佑氏、四千頭身の後藤拓実氏をゲストに迎え、特別中継として放送する予定だ。そこで今週の当コラムは、両チームのある共通点にフォーカスしてみようと思う。

近年PACEの上がっているNBA

ウィザーズとペリカンズの共通点、それはともに早いペースの試合を指向しているということだ。『NBA.com』にはその名もずばりPACEという指標が載っているが、これは48分当たりのポゼッション数を表している。つまり、この数値が高ければ高いほど攻守交代の多い、早い展開の試合を行っていることになる。本稿執筆時点(日本時間8月5日)でウィザーズのPACEはリーグ5位の103.47、ペリカンズは同3位の103.94と、共にリーグトップクラスだ。 近年、リーグ全体のPACEが上がっているというデータがある。『BASKETBALL REFERENCE』によればリーグがPACEを指標として取り入れたのが1973-74シーズンで、この頃は現在より早いペースで試合が行われていた。その後タフなディフェンスで鳴らした「バッド・ボーイズ」ことデトロイト・ピストンズが2連覇した辺り(1989、90年)からスローダウンし、しばらくは重い試合展開の時代が続いていたが、2011-12シーズン以降は8シーズン連続でPACEが上昇している。

『stats.nba.com』内にあるPACEのランキング。ウィザーズ、ペリカンズともにリーグ上位の数字を残している

PACEの上昇は、ドン・ネルソンやマイク・ダントーニのもたらしたオフェンス革命に因るところが大きい。センターを置かないスモール・ラインナップの登場や、3ポイントの打てるビッグマンの登場で90年代とはスペーシングが激変した。それに合わせてスタッツ研究も進化し、ミドルシュートの効率が悪いことが明らかになったことで、確率の高いリム周りか3ポイントを狙う戦術が採用されるようになった。さらに2015年のゴールデンステート・ウォリアーズの優勝にも後押しされ、3ポイント多投時代が到来した。 では、3ポイントの多投とPACEにはどんな関係があるのだろうか。実は3ポイントはショットクロックが多く残っているうちに打つ方が確率が高いというデータがあるのだ。そのため、以前はよしとされなかったトランジションからの3ポイントを各チームがこぞって狙うようになった。フェニックス・サンズ時代のダントーニが7秒以下で攻めることを目標に掲げたが、できるだけ高い確率で3ポイントを打つという点において、これは大正解だったということになる。

PACEを上げることに成功した両チームだが、課題もある

PACEを上げるというトレンドの先頭を走っているウィザーズとペリカンズだが、それが勝利に結びついてこないのが難しいところだ。本稿執筆時点でウィザーズは24勝43敗。ブルックリン・ネッツとの直接対決に敗れたことで、プレイオフ出場はかなり厳しくなった。ニューオーリンズ・ペリカンズは29勝38敗でまだプレイオフ戦線に踏みとどまっているが、おそらくファンの多くはもう少し勝てると予想していたのではないだろうか。 PACEを上げることが勝利に直結しないのにはいろいろな理由がある。まず言えるのは、PACEという数字自体にからくりがあるということだ。トランジションから素早くシュートを打つことでPACEは上がる。これはポジティブだ。しかし、ネガティブな要素でもこの数字は上がってしまう。例えば相手のトランジションオフェンスを止められなかった、トランジションでターンオーバーを連発してしまった、オフェンシブリバウンドが取れなかった、などの事象もPACEが上がる原因になる。つまり、PACEが早いチームが必ずしもいいトランジションオフェンスを展開しているとは言えないのだ。

素早いオフェンスだけでなく、ネガティブな要素によってもPACEは上がってしまう。正しくチーム力を評価するには…

また、PACEを上げたことが、リム周りのシュートと3ポイントのアテンプト増加につながっているかどうかも重要なポイントだ。リーグ5位のPACEで戦うウィザーズだが、リム周りのアテンプト数は20位、3ポイントのアテンプト数はリーグ17位と効率性に結びついていない。同3位のペリカンズはリム周り、3ポイントともにリーグ6位のアテンプト数ということで、ウィザーズよりも結果を出せていることがこうしたデータにも裏付けされている。 言うまでもないが、いくらPACEを上げることでオフェンス力を向上したとしても、ディフェンスが悪ければ勝てないということも付記しておく。ウィザーズは100ポゼッション当たりの失点を示すディフェンシブ・レーティングがリーグ最下位の115.0。ペリカンズも111.3でリーグ20位と低迷しているが、ザイオンがデビューした1月22日以降に絞るとリーグ7位の108.8まで改善している。オーランドではコンディションが整わずディフェンシブ・レーティングを下げているザイオンだが、プレイオフに向けて上手く調整できるか注目である。

ウィザーズがアップセットするためには

8月8日は両チームが走り、攻守交代の多い派手な試合になるだろう。1つ懸念があるとすれば、ペリカンズの圧勝で第4クオーターの大半がガベージタイムになってしまう可能性があることだ。それぐらい現状の仕上がりでは両者に大きな開きがある。そこで、アンダードッグのウィザーズがアップセットするにはどうしたらいいかという観点から、試合のポイントを挙げてみたいと思う。 まず、オフェンスはオーランドに来てから落ちているPACEを再び上げることが1つの鍵だと思われる。ウィザーズはこれまで、PACEを上げることでエースのブラッドリー・ビールと大型シューターのダービス・ベルターンスに気持ちよくシュートを打たせることに成功していた。しかし、バブルに入って以降はその2人がいないことで本来のリズムを失っているように見える。ここまでずっと走るバスケを指向してきたチームが、急に上手くハーフコートを攻められるようになるとは思えない。むしろ得点源の2人がいない今こそ走る、気持ちよく打つを徹底するのが上策だろう。 ディフェンス面では相当な苦戦が予想される。オールスターに成長したブランドン・イングラム、スペースが空けば確実に決めてくるJJ・レディック、そしてアメフト選手のような体格ながら誰よりも跳ぶザイオンとペリカンズのロスターは多士済々だ。そこでチームとして目標を絞るのであれば司令塔のロンゾ・ボールを自由にさせないことが第一優先だろう。リーグ屈指のコートビジョンを誇り、ペリカンズ自慢の走る展開で主役となるロンゾだが、スマートな選手なのでプレッシャーをかければ簡単にボールを離す傾向がある。彼にプレッシャーをかけ続けることでチーム全体のリズムを崩すことができれば突破口になり得る。 オフェンス、ディフェンス共にプランが成功し接戦に持ち込むことができれば、勝利が転がり込んでくるかも知れない。と言うのも、ペリカンズは接戦を苦手としているのだ。『NBA.com』では第4クオーター残り5分・5点差以内をクラッチと定義しているが、ペリカンズはこうしたクラッチタイムが発生した試合で13勝25敗と、リーグ26位という勝負弱さを露呈している。ウィザーズも同24位で大差はないが、接戦になれば算盤の上では勝利の可能性が高まるということはたしかだ。クラッチタイムではタイムアウトが使われるので試合が止まることが多い。そのため、なかなか走る展開に持ち込むことはできない。こうした場面で活躍するのはボールを持てるスコアラーだ。現在のウィザーズのロスターを見れば、八村がボールを託される確率は高い。八村が決勝弾を沈めて富樫選手が絶叫となれば、特別中継をした甲斐もあるというものだが、果たして。

■目指すはKDやカワイ級? 「アドバンスド・スタッツ」で見る八村塁【大柴壮平コラム vol.43】

【8/8(土)午前8時45分】ウィザーズ対ペリカンズ戦を富樫勇樹と一緒に観よう!

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大柴壮平:ロングインタビュー中心のバスケ本シリーズ『ダブドリ』の編集長。『ダブドリ』にアリーナ周りのディープスポットを探すコラム『ダブドリ探検隊』を連載する他、『スポーツナビ』や『FLY MAGAZINE』でも執筆している。YouTube『Basketball Diner』、ポッドキャスト『Mark Tonight NTR』に出演中。

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