ウェイターズ・アイランドへようこそ【大柴壮平コラム vol.42】

スター候補生からの転落

読者諸兄は「ウェイターズ・アイランド」をご存知だろうか。ディオン・ウェイターズはスターになれる。そう信じるファンだけが住む島のことだという。ウェイターズの自信溢れる姿と、時折見せる試合を決定づけるシュート力に、限りないポテンシャルを見たファンがいた。一方、多くのNBAファンは非効率なシュートを連発する姿に早くから愛想を尽かしていた。ウェイターズのファンの熱が、一般的なNBAファンの冷めた見方からあまりにも乖離しているので島の住民と揶揄されたわけだ。 ドラフトでの指名順位は全体4位だから(2012年にクリーブランド・キャバリアーズ入り)、実際ウェイターズは未来のスターと期待されてリーグ入りしたことになる。その期待に応えたウェイターズは平均14.7点を記録し、オール・ルーキー・ファーストチームに選出された。2年目は平均15.9点と大躍進とはいかなかったが、スリーポイントの確率を31.0%から36.8%と大幅に改善した。この年のオールスターではライジング・スターズ・チャレンジのメンバーに選ばれ、ティム・ハーダウェイJr.と1on1バトルを繰り広げて大いに会場を沸かせた。 順風満帆に見えたウェイターズのキャリアだが、3年目となる2014-15シーズンに歯車が狂い始める。きっかけは、レブロン・ジェームズのキャブズ復帰だった。レブロンはキャブズ契約を発表する数日前に電話で「準備しておけ」と伝えるなど、当初はウェイターズに期待を寄せていた。しかし、蓋を開けてみればレブロン、カイリー・アービング、ケビン・ラブの揃ったチームで以前のようにボールを持てなくなったウェイターズは調子を落とし、シーズン途中の1月5日に三角トレードでオクラホマシティ・サンダーへ放出されてしまうのだった。

サウスビーチに自分の居場所を確立しかけたが

開幕をサンダーの一員として迎えた2015-16シーズンは、平均得点がキャリア初の一桁に落ち込んだ。こちらもキャリア初となるプレイオフでは、しばしばサンダーに貴重なスリーポイントを供給したものの、その姿はかつてのスター候補生のそれではなかった。 すかすかになったウェイターズ・アイランドに住民が戻ったのは、マイアミ・ヒートに移籍した2016-17シーズンのこと。ヒートはオフにエースのドウェイン・ウェイドが移籍、大黒柱のクリス・ボッシュも血栓のためシーズン全休が決定し、ロスターを刷新せざるを得なかった。新しいメンバーのケミストリー構築に苦しんだヒートは、シーズンの前半を11勝30敗と大きく負け越してしまう。 この危機を救ったのがウェイターズだった。恥骨筋を痛め2週間の休養から戻ったウェイターズは、1月4日の復帰戦を白星で飾ると、1月17日に行われたヒューストン・ロケッツ戦からチームを13連勝に導く原動力となった。連勝中のウェイターズは平均20.6点、スリーポイントは50%という高確率を記録。圧巻だったのは2試合連続で33得点を挙げた1月21日のミルウォーキー・バックス戦と、1月23日のゴールデンステート・ウォリアーズ戦だ。 特にウォリアーズ戦はすごかった。試合残り11.7秒で同点に追いつかれた場面。バックコートからボールを運ぶと、ゆっくり時間を使った上でリーグ最高クラスのディフェンダーであるクレイ・トンプソンの上から、決勝点となるプルアップスリーを決めてみせたのだ。当時のウォリアーズはクレイ、ステフィン・カリー、ドレイモンド・グリーンに加えケビン・デュラントもいる最強のロスターを誇っていた。そのウォリアーズを1人で粉砕し、ドヤ顔でランDMCポーズを決めるウェイターズを見て、ウェイターズ・アイランドの住民はついに自分たちの正しさが証明されたと歓喜したことだろう。ウェイターズはスターになれる。そのはずだった……。

強豪ウォリアーズを破り、ランDMCポーズを決めるウェイターズ。しかしその輝きは長続きしなかった

■ウェイターズのプルアップスリーを観る

レイカーズのニーズに合ったウェイターズ

残念ながら、ウェイターズのヒートでのキャリアは尻すぼまりだった。好調だった2016-17シーズンの最後13試合を足首の故障で欠場すると、翌2017-18シーズン途中に同箇所を手術。2018-19シーズンにようやくコートに戻ったが、出場試合数は2シーズンで計74試合に留まった。怪我で不在の間にウェイドの復帰や若手の加入などで存在感は薄れ、チームからはロールプレイヤーになることを求められた。不満を募らせた結果、今シーズンはチームの規律を乱すような問題行動を起こすようになってしまう。ヒートの信頼を失ったウェイターズはシーズン途中でメンフィス・グリズリーズにトレードされ、その直後にカットされるという憂き目に遭った。 そんな傷心のウェイターズが辿りついたのがレブロン・ジェームズのいるロサンゼルス・レイカーズなのだから、人生は不思議である。ウェイターズがスター街道から外れるきっかけとなった男が、今度は救いの手を差し伸べたのだ。チームの人事にも大きな影響力を持つと言われるレブロンが、一度は見放したウェイターズ獲得に賛成したのには理由がある。昨年オフからレイカーズはずっとボール・ハンドラーを探していたが、上手く補強できずにいた。一時は引退したダレン・コリソンに復帰を説得するという奇策に走ったがそれも失敗。結局トレード・デッドラインを超えても層の薄さを補えなかったのだ。

ボール・ハンドラー補強のため、ウェイターズに救いの手を差し伸べたレブロン

さらに、ウェイターズがレイカーズに加入したあと、エイブリー・ブラッドリーが残りのシーズン全休を発表、次いで先日ラジョン・ロンドが練習中に右手の親指を骨折して6〜8週間離脱することになった。ただでさえボール・ハンドラーに困っていたレイカーズにとっては緊急事態である。もちろん大事な場面でボールを持つのはレブロンだが、セカンド・ハンドラーは誰が務めるのだろうか。35歳となったレブロンの負担を減らせるかどうかはセカンド・ハンドラーの出来にかかっている。アレックス・カルーソやクイン・クックがステップアップできればそれに越したことはないだろうが、さもなくばウェイターズにお鉢が回ってくるだろう。


今年4月20日、『プレイヤーズ・トリビューン』にウェイターズが『For Me, Depression Is Fake Happiness(鬱は見せかけの幸せ)』という手記を寄せた。その中でウェイターズは、2つ興味深いことを書いている。1つはキャブズでレブロンと同じチームだった頃は自分がまだ子供だったと認めたことだ。今度は上手くやれるという意味にとれるので、レイカーズファンにとってはいい兆しだろう。ただし、もう1つはあまり嬉しくないことかも知れない。手記の最後をウェイターズはこう結んでいる。 「50年後に俺がどう評価されてようが構わない。1つを除いてはね。『あの野郎は常に自分自身を貫いた』と言われていれば本望だ。他のことは何を言われようが気にしないよ」 かつて「シュートは0/9より0/30の方がいい。なぜなら0/9ということはそこで打つのをやめちまったってことだからな」と豪語した男は、はたしてレイカーズでも自分らしさを貫くのか。それとも成熟した男としてチームの役割を全うするのか。はたまたエゴも仕事も両立させ、ついに居場所を見つけるのだろうか。 ウェイターズのレイカーズデビューを待ちわびている私は、一足先にウェイターズ・アイランド入りしようと思う。他にも入島したい方がいれば、大歓迎でお出迎えする所存である。

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大柴壮平:ロングインタビュー中心のバスケ本シリーズ『ダブドリ』の編集長。『ダブドリ』にアリーナ周りのディープスポットを探すコラム『ダブドリ探検隊』を連載する他、『スポーツナビ』や『FLY MAGAZINE』でも執筆している。YouTube『Basketball Diner』、ポッドキャスト『Mark Tonight NTR』に出演中。

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