ブルックリン・ネッツ:シティ・エディション・ユニフォームに込められた思い【ビタラフ・アドル コラムvol.1】

ブルックリン・ネッツが、昨季からカモフラージュ柄のユニフォームを着用していることをご存じだろうか? 「シティ・エディション」と称されるこのユニフォームは、ブルックリンの象徴であるラッパー、ノトーリアス・B.I.G.(通称ビギー。本名クリストファー・ウォレス)に敬意を表してデザインされたものである。評判が良かったことから、胸部の文字を「BROOKLYN(ブルックリン)」から「BED-STUY(ベッドスタイ)」に変えて今季も継続使用している。

急速に治安が改善された「BED-STUY」

ベッドスタイとは「ベッドフォード・スタイヴェセント」の略称で、アフリカ系アメリカ人とカリブ系移民が多く住むエリアを指す。ビギーが暮らしていた1990年当時は、全米でも特に治安の悪いエリアの1つとして知られていた。 しかし、近年はニューヨーク州のマンハッタン区を中心とした家賃高騰に伴い、それに押し出される形で多くの人がベッドスタイに移り住むようになったことで、治安も急速に良くなっている。

ベッドスタイの消火栓に張られたステッカー「家賃が高すぎる!」

筆者もベッドスタイに在住しているが、10数年前なら「そんな所に住んでいて大丈夫?」と心配された場所も、今では「オシャレな街だよね」と言われるほどに変化を遂げている。なお、地元不動産サイトによると、賃貸価格はここ10年で41%も上昇しているのだから、地元民が家賃高騰を嘆くのも納得だ。

ブルックリンにおけるビギーの存在

この急速に変わりつつあるベッドスタイで、90年代にラッパーとして活躍したのがビギーだ。駆け出しのラッパーだったビギーは、ベッドスタイの路上でハスラー(ドラッグディーラー)として生計を立てていた。1994年にそのハスラーライフの厳しさを赤裸々に歌った1stアルバム『Ready to Die』を発表。自分の弱みをさらけ出すリリックと、その滑らかなフローが注目され、後に伝説的なラッパーの1人と称されることとなる。ヒップホップ専門誌『ソース』に「ニューヨークの王様を引き継ぐ者」と特集されたことで、ビギーは知名度を高めると共にブルックリンの名を世界に広めた。 ビギー登場以前、西海岸のラッパーたちが確立したギャングスタ・ラップ「Gファンク」の絶大な人気に押され、ヒップホップカルチャー発祥の地であるニューヨーク(東海岸)のシーンは陰りを見せていた。そんな時代に、ヒップホップの人気を東海岸に引き戻す事にも大きく貢献したビギーは、やはり偉大である。 そんな絶頂にあったビギーだが、1997年3月、2ndアルバム『Life After Death』の発表直後に銃撃を受け、24歳の若さでこの世を去った。そのため、皮肉にも同アルバムは彼の死後リリースされることとなる。

ベッドスタイにある、ビギーとブルックリン出身のラッパーであるジェイ・Zのウォールアート

ビギーが育った通りの交差点が昨年から正式に彼の名に改名された

ビギーが育ったクリントン・ヒルの西に隣接するフォート・グリーンにある、彼の名が冠されたバスケットボールコート

フォート・グリーンにあるビギーのウォールアート

ベッドスタイの東に隣接するブッシュウィックのウォールアートプロジェクト「ブッシュウィックコレクティブ」の作品

これらの写真は、2020年現在のものだ。ビギーのウォールアートや彼の名が冠された交差点、バスケットボールコートが、ブルックリンの至る所に点在している。没後23年が経ってもなお、彼が未だにブルックリンから愛されている証拠だ。

ネッツのシティ・エディション・ユニフォームに込められた意味

そのビギーが生前愛用していたクージー社製セーターの基本デザインが、ネッツがユニフォームのモチーフにしたカモフラージュ柄だったのだ。この柄は多くの異なる人種、国籍、宗教が入り混じるブルックリンの多様性を体現している。地元のグラフィックアーティストであるエリック・ヘイズがデザインを手掛けた「BED-STUY」の文字は、近年ブルックリンで広まっているウォールアート文化を象徴していると言えるだろう。 さらに、ネッツとユニフォームを手掛けるナイキは、この地に多大な影響を与えたビギーの永続的なレガシーを称えるため、ベッドスタイのマディバ・プレップ中学校の音楽プログラムを復活させる予定だ。同校は2018年に同プログラムを実施していたが、資金不足のため継続できなかった。 数々の名曲を残したビギーの作品の中で、おそらく最も有名なのが『Juicy』だ。自分が成り上がる様を歌ったその曲のリリックに、「Spread love, it’s the Brooklyn way」というラインがある。直訳すると「愛を広げるのがブルックリン流」となるのだが、このラインには「稼いだ金を独り占めするのではなく、共に育った仲間たちにも分け与える」という意味が込められている。このことからも、地元地域への奉仕活動を行うネッツはビギーの遺志を継いでいると言えるだろう。

カモフラージュ柄のユニフォームとビギーのボブルヘッド

変化するブルックリンで進化するネッツ

ハスラー時代の困難を乗り越え、ヒップホップを通してブルックリンの名を世界に広めたビギーは、今もなおブルックリンを象徴する存在として語り継がれている。そして、彼の死後に形を変えながら人気を伸ばし続けているブルックリンで優勝を狙うネッツもまた、再建を経て進化し続けている。 フロントを改善し、ポジティブなチームカルチャーを築き上げたネッツは、昨オフにカイリー・アービング、ケビン・デュラントという2人のスーパースター獲得に成功。また、選手育成のスペシャリストであるケニー・アトキンソン前HCを解任し、優勝を見据えられるリーダーを探し始めたことからも、ネッツはいよいよ本格的に優勝を目指すチームとなったと言えるのではないだろうか。 伝説的なラッパーと称されるビギーの遺志を継ぎ、地元地域に愛を広めているネッツが優勝を果たし、ブルックリンの更なる知名度向上、および人気上昇に貢献する――。そんな日が来るのは、そう遠くないのかも知れない。

ビタラフ・アドル:ニューヨーク州をベースにスポーツビジネスを総合的に手掛ける「スポヲタ社」に在籍。スポーツシーンをよりエキサイティングにすべく日々奮闘している。

Twitter

会社HP

Instagram

関連タグ

チーム

  • ネッツ

キーワード

  • ニュース全般
  • シティーエディション・ユニフォーム
  • ビタラフ・アドル
  1. NBA Rakuten トップ
  2. ニュース
  3. ブルックリン・ネッツ:シティ・エディション・ユニフォームに込められた思い【ビタラフ・アドル コラムvol.1】