白熱したNBAオールスターゲームーーB.LEAGUEを盛り上げる秘策、大西方式とは【大柴壮平コラム vol.21】

エキサイティングなオールスターゲームが還ってきた

どのジャンルにも昔語りをするオールドファンがいる。「棚橋弘至もいいけれど、全盛期の武藤敬司の方がすごかった」という類の話をして悦に入るファンである。昔の話を聞くこと自体は悪くはない。しかし、それを理由に現在を否定されると、なんだか鼻白む思いがする。そんな経験を持っている方は少なくないだろう。 NBAは、そういったオールドファンが幅を利かせることが少ない興行だと私は思う。ルールの変化と選手の進化によって、以前とはゲーム性が変わってしまったのがその理由で、例えば私がいくら90年代のNBAはタフだったと若者に力説しても、言われた方も困り顔で「はあ、そうですか」という位が関の山だ。 そんなNBAにあって、唯一オールドファンが自慢できたのが、オールスターゲームではないだろうか。昔のオールスターゲームは面白かった。最近のオールスターゲームはつまらない。こんなに満場一致で過去を礼賛できるものも、なかなかない。この認識は我々ファンだけではなく、アダム・シルバー・コミッショナーも共有していて、彼も数年前からオールスターゲームの活性化を課題に挙げていた。そしてついに今年、どうやらNBAはその解決策を見つけたようだ。オールドファンもご新規さんもおめでとう。エキサイティングなオールスターゲームが還ってきた。

今年のオールスターでは近年見られなかった真剣なディフェンスも。ルール変更が奏功したと言える

イーラム・エンディングが生んだ白熱した試合

ルールの変更をおさらいしよう。昨年まではオールスターゲームも通常のNBAと同じルールで行われてきた。今年変わったのは以下の2点。ひとつは、第1クオーターから第3クオーターまではクオーターごとに得点を競い、その勝者が支援するコミュニティへの寄付金を獲得すること。もうひとつは「イーラム・エンディング」と呼ばれる試合方式で、第3Qまでの合計点が高いチームのスコアに特定の点数(今年のオールスターではコービー・ブライアントの背番号に因んで24点とした)を足してターゲットスコアを設定、先にその点数に到達したチームが試合の勝者になることである。 フォーマット変更の効果は覿面だった。第1クオーター、第2クオーターこそ少し点差が離れたこともあって静かだったが、接戦となった第3クオーターから徐々にヒートアップする。面白かったのは第3クオーターの終わり方である。残り22秒のタイムアウト時点で1点を追っていたチーム・ヤニスは、タイムアウト明けのディフェンスでチーム・レブロンのクリス・ポールにプレッシャーをかけてパスを出させると、よりフリースロー確率の低いラッセル・ウェストブルックが持った時点ですぐにファウルしたのだ。ウェストブルックがフリースローを1本落とし、その後チーム・ヤニスのルディ・ゴベアがアリウープを決めた結果このクオーターは同点で終わり、作戦が功を奏す形となった。 戦略的なファウルなどこれまでのオールスターではついぞお目にかかったことがなかったので、私は驚いた。しかし、第4クオーターはそれ以上に驚きの連続だった。ジョエル・エンビードは大量の汗を流し、カイル・ラウリーはテイク・チャージを狙い、アンソニー・デイビスは審判に猛抗議する。いずれの光景も、これまでのオールスターとは無縁なものばかりだ。最後まで白熱した試合は、ミスマッチを見逃さなかったレブロンのナイスパスからアンソニー・デイビスがフリースローを獲得し、2本中1本を沈めてチーム・レブロンの勝利となった。

試合終盤にはプレイオフさながら、真剣にハドルを組む場面も

B.LEAGUEも変化を恐れないNBAの姿勢を見習うべき

NBAの真に素晴らしいところは、変化を恐れないことだと私は思う。オールスターゲームのフォーマット変更の他にも、NBAはいろいろなルールを試している。今シーズンからNFLに倣ってチャレンジ制度が導入された。現在Gリーグではフリースローの新ルールを試している。これも評判が良ければ早晩NBAに適用されるだろう。 こうした変化を恐れない姿勢は、B.LEAGUEでも大いに見習うべきだ。おそらく来年には、ライジング・スターズ・チャレンジもオールスター本戦に倣ってフォーマットを変えるはずである。数年遅れでB.LEAGUEオールスターでも採用されるかも知れない。もしB.LEAGUEオールスターのフォーマット変更を議論することがあれば、イーラム・エンディングに加えてもうひとつ検討して欲しいことがある。B.LEAGUEのオールスターゲームを、ライジング・スターズ・チャレンジのように外国籍選手対日本人選手の形式にするというのはいかがだろうか。 これはポッドキャストを収録していた時に友人でライターの大西玲央君が酔っ払って発案したものだが、聞いて以来私の頭から離れないでいる。外国籍選手のオールスターと日本人選手のオールスターでどれほど力の差があるのか、もしくは無いのか。興味のあるファンは少なくないだろう。イーラム・エンディングという名前は、発案者であるニック・イーラム氏の名字が由来だそうだ。B.LEAGUEオールスターでの外国籍選手対日本人選手というフォーマットが採用された暁には、大西方式とでも名付けてもらいたい。実現すれば、友人として欣快の至りである。


最後に先週の反省をして終わろう。先週当コラムは『NBA版穴馬予想のススメーーオールスターウィークエンド編』と称して各コンテストの優勝者、そしてライジング・スターズ・チャレンジとオールスター本戦のMVPを予想した。しかし、本戦のMVPに指名したリラードがコラムを公開した直後に欠場を発表。その時点で不吉な予感がしていたが、その予感通り一本の的中も無しという惨憺たる結果に終わってしまった。 一つも当たらなかったこともさることながら、穴馬予想と称しながら真の穴馬を発見できなかったことが最も悔やまれる。ライジング・スターズ・チャレンジのマイルズ・ブリッジスと、スキルズ・チャレンジのバム・アデバヨは、競馬だったら単勝万馬券に値する大穴だろう。こうした穴馬を当てずして何が穴馬予想だと、私は今忸怩たる思いでいる。 おそらく次の予想はプレイオフのファーストラウンドだと思うが、私はそれまでにもう一度穴馬予想家として研鑽を積む所存である。読者諸兄におかれましては、これに懲りずにお付き合いくださいますよう、よろしくお願い申し上げます。

大柴壮平:ロングインタビュー中心のバスケ本シリーズ『ダブドリ』の編集長。『ダブドリ』にアリーナ周りのディープスポットを探すコラム『ダブドリ探検隊』を連載する他、『スポーツナビ』や『FLY MAGAZINE』でも執筆している。YouTube『Basketball Diner』、ポッドキャスト『Mark Tonight NTR』に出演中。

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