三面鏡【大柴壮平コラム vol.16】

ウェストブルックの凱旋試合の裏で起きた「場外乱闘」

先週当コラムで、ラッセル・ウェストブルック(ヒューストン・ロケッツ)のオクラホマシティ凱旋試合を取り上げた。感動の凱旋となったのは紹介した通りだが、実はその裏である事件が発生していた。ケビン・デュラント(ブルックリン・ネッツ)とケンドリック・パーキンスという元サンダーの2人によるツイッター上の口論である。 パーキンスの「あと30分したらスポーツセンター(ESPNの番組)で、なぜ俺がラッセル・ウェストブルックこそオクラホマシティ・サンダー史上最高の選手だと思っているか話してくるぜ。あいつこそMr.サンダーだ!」というツイートに対し、セルティックスでリポーターなどを務めるマーク・ダミーコが“デュラントの方が上”と示唆するリプライを送ったことが発端となった。 初めはパーキンスとダミーコの会話だったが、途中でデュラント本人が登場したことで事態はエスカレートする。デュラントが「平均2点、3リバウンド」とパーキンスのスタッツを茶化せば、パーキンスはデュラントのウォリアーズへの移籍を「NBA史上最も軟弱な行動」と非難。結局両者は落とし所を見つけられず、喧嘩別れに終わってしまった。

以前からお騒がせ発言の多いデュラント

またデュラントか――。騒動を知った時の、私の正直な感想である。デュラントがツイッターでしくじるのはこれが初めてではない。2017年のこと、デュラントはサンダー時代のフロントやヘッドコーチを批判し、自身を擁護する内容のツイートを、いわゆる裏アカから行おうとして露見している。 私は優れたアスリートが必ずしも人格者である必要はないと思う。むしろ、才能も人格も兼ね備えた人間など、探す方が難しいだろう。しかし、物には程というものがある。裏アカから第三者を装って自分を擁護するのは、その程を超えている。パーキンスの発言も、放っておけばいいものをなぜわざわざ自分から首を突っ込むのだろうか。 そう言えば今シーズンが始まる前も、「ゴールデンステイトではチームの一員になりきれなかった」「オクラホマシティの人間は誰も信用できない」などというデュラントの発言が報じられていたな……そんなことを思い出した私は、当時の記事を読み返してみた。そして、気がついた。私が読んでいたのは引用記事ばかりで、引用元のインタビューは読んでいなかったのである。

センセーショナルな発言ばかりが拡散される現代

インターネットの発達で、様々な情報を素早く手に入れることができるようになった。しかし同時に、氾濫する情報から正しいものを選ぶ技術が必要になった。これはここ20年来よく言われるところである。私は職掌柄ウェブのスポーツメディアをよく読むが、いい加減な引用記事に当たることが多々ある。引用記事というのは、他の記事から引用してそれに記者の見解を足して記事にしたもので、もちろん見識の深さに唸ることもあるが、質が低いものも少なくない。 引用記事が問題なのは、引用部分の切り取り方次第で印象を操作できることである。今シーズン前、「ゴールデンステイトではチームの一員になりきれなかった」「オクラホマシティの人間は誰も信用できない」などの発言を切り取った引用記事を沢山見た。しかし、改めて元記事の『ウォール・ストリート・ジャーナル』を読んでみると随分印象が違う。彼がウォリアーズのオフェンスに限界を感じていたことがわかる。サンダーのファンがデュラントのジャージーに銃弾を放つ動画を見た彼の母親が、色を失ったことがわかる。 他にも、デュラントが地元の子供たちを支援する数百万ドルのプログラムを設立したこと、インスタグラムのダイレクトメッセージを通じて若者の相談に乗っていることなどが書かれていたが、それを引用した記事を、私は寡聞にして知らない。


物には程があると言った。そしてデュラントの行動はその程を超えていると言った。しかし、デュラントのジャージーに発砲したファンは程を超えていないのだろうか。センセーショナルな発言だけを切り取って記事にしたメディアはどうか。 インターネット、ことにSNSの発達により、馬脚を露わす選手がいる。デュラントがその代表だと思っていた。しかし、SNSで馬脚を露わすのはデュラントのみではない。ファン、メディアも同じことなのである。 そこに思い至って、ファンでありメディアの端くれである私は今、苦笑している。

大柴壮平:ロングインタビュー中心のバスケ本シリーズ『ダブドリ』の編集長。『ダブドリ』にアリーナ周りのディープスポットを探すコラム『ダブドリ探検隊』を連載する他、『スポーツナビ』や『FLY MAGAZINE』でも執筆している。YouTube『Basketball Diner』、ポッドキャスト『Mark Tonight NTR』に出演中。

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