シーズン再開反対派も。NBA選手に迫る決断の時【杉浦大介コラム vol.24】

人種差別抗議の鈍化を危惧

7月30日(日本時間31日)のシーズン再開に向けて邁進するかと思われたNBAの行く手に、新たな議論の種が生まれている。焦点は新型コロナウイルスに対する安全対策ではない。現在のアメリカで展開されている人種差別への抗議活動が疎かになるという理由で、一部の選手がシーズン再開に難色を示しているのだ。 報道によると、この件について話し合われた12日(同13日)の電話会議には、80人以上のNBA、WNBA選手が参加したという。仕掛け人はブルックリン・ネッツのカイリー・アービング。NBA選手会のバイスプレジデントも務めるアービングは、「人種差別は受け入れられない」と述べた上で、「オーランドに行くことを支持できない」と主張したという。 こういった意見を明らかにしているのは、アービングだけではない。翌13日(同14日)にはロサンゼルス・レイカーズのドワイト・ハワードが、代理人を通じてCNNで声明を発表。「カイリーの意見に賛同する。バスケットボールやエンターテインメントは、今は妨げになってしまうだけだ。僕は初めてのNBA優勝を何よりも勝ち取りたいけど、仲間たちと団結することはそれよりも重要だ」と明確な意思を明らかにした。

アービングに賛同したハワード。「仲間たちと団結することはそれよりも重要」と語った

また、ロサンゼルス・クリッパーズのルー・ウィリアムズも同じ気持ちのようで、インスタグラムにこんなメッセージを投稿している。 「僕たちは大きな変革のために戦っているんだ。スポーツによって心が癒されることは誰もが認めるところだけど、現状では人々の気持ちが散らされてしまう。人は外に出て平等のために戦うのではなく、家に帰ってビールを片手にバスケットボールの試合を観ることを望んでしまうだろうからね」

選手たちは冷静かつ平和的に抗議

昨今のアメリカで最大の話題が、コロナのパンデミックでもスポーツの再開でもなく、人種差別の問題であることは紛れもない事実だ。5月25日(同26日)、46歳の黒人男性、ジョージ・フロイド氏がミネアポリスの白人警官に殺された事件に端を発し、全米各地で大規模なデモが勃発。平和的な抗議活動だけでなく、一部は暴動、略奪にまで発展し、社会問題となったのだった。 “Black lives matter(黒人の命は大切だ)”を合言葉にした活動に、多くのNBAプレイヤーも積極的に参加してきた。 フロイド氏と長年の友人だったというスティーブン・ジャクソン(元サンアントニオ・スパーズほか)が活動の先頭に立ってきたのをはじめ、ステフィン・カリー、クレイ・トンプソン(ともにゴールデンステイト・ウォリアーズ)、ヤニス・アデトクンボ(ミルウォーキー・バックス)、トレイ・ヤング(アトランタ・ホークス)、ラッセル・ウェストブルック(ヒューストン・ロケッツ)、カール・アンソニー・タウンズ(ミネソタ・ティンバーウルブズ)といったスター選手がデモに参加。レイカーズのレブロン・ジェームズが「アメリカはなぜ俺たちも愛してくれないのか?」と投稿したのをはじめ、SNSでも数え切れないほどの選手たちが声を挙げてきた。

ウェストブルックをはじめ、多くのNBA選手が各地で行われているデモに参加している

NBAはもともと黒人選手が圧倒的に多いリーグだ。人種問題への関心は必然的に高く、特にレブロン、カリーといったスーパースターが社会活動に熱心なことが、後に続く世代にも影響を与えてきた感があった。 現在の騒ぎの中でも、選手たちは総じて冷静に“平和的な抗議”の大切さを訴えている。その活動、発言からは、社会活動でもリーダーになっていきたいという明確な意思が感じられる。そういった流れを考えれば、アービング、ハワードのような意見が出てきたことを驚くべきではなかったのかもしれない。

試合後の会見で“発信”を、という声も

もちろん、このような姿勢、意見にすべての選手たち、関係者が同調しているわけではない。『ブリーチャーズ・レポート』のベテラン記者、ハワード・ベックは15日(同16日)、自身のポッドキャスト内でこう主張していた。 「何が正しいとか、間違っているとか、そういった答えはない。アービング、ハワードがプレイすることが障害になるというなら、私やリーグが言うべきことはない。ただ、NBAというプラットフォームで、再開後に大きな注目を浴びる中でプレイし、メディア対応時や記者会見でも話し続けることで、人種差別問題にもより大きなインパクトを残せるのではないかと思う」 実際に人種を問わず知名度の高いNBA選手たちが、オーランドでプレイし、同時に人種差別の件にも声を上げ続けることで、より大きな貢献が可能になるという考え方は根強い。これまでも様々な形で社会問題に反応してきたレブロンも、ベック記者と同じ思いのようだ。現役では最大の影響力を持つレブロンは、12日(同13日)の電話会議にも参加しなかったという。

SNS等を通して積極的に発信を続けるレブロン。再開については推進派のようだ

このような意見の相違に代表されるように、社会活動への取り組み方は人それぞれ。どのような動きが最も効果的であるかも見方が分かれるところで、明確な答えはないのだろう。そんな状況下で、プレイする、しないも個々の意思次第。アービングのようにすでに財を築いた選手はともかく、若手が無給になるのを覚悟で出場を拒否するのは簡単ではないだけに、現時点では依然として予定通りのシーズン再開を予想する声が多い。ただ、選手たちの考え方、団結具合で情勢は変わりかねない。

不参加選手が増えれば、再開プランの見直しも

「(アービングの主張は)数日前に考えられていたよりも、もっと多くの選手の声を代表しているのかもしれない。選手たちはオーランドの“バブル(シーズン再開のために隔離された空間の通称)”に行くことに熱心ではない」 15日(同16日)、『ESPN』のスポーツセンターに出演したエイドリアン・ウォジナロウスキー記者はそう述べていた。近いうちに再び選手同士の話し合いが行われるという報道もある。参加を取りやめる選手は6月24日(同25日)までにチームへ報告する義務があると伝えられたが、それまでの動きが気になるところだ。今後、不参加を表明する選手が劇的に増えれば、リーグも再開プランの見直しを余儀なくされるかもしれない。

ご意見番のチャールズ・バークレーは「再開しないのは最悪な間違い」と断言している

混乱を続ける2020年のアメリカ。現在の私たちは、これまで誰も経験したことがない時間の中にいる。人種差別への抗議活動がどういった変化を引き起こすか、NBAのシーズンにどう影響するかの予測も難しい。7月30日に予定されるシーズン再開までの間、いや、再開した後でさえも、さらなる波乱の展開も十分に考えられそうだ。


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杉浦大介:ニューヨーク在住のフリーライター。NBA、MLB、ボクシングなどアメリカのスポーツの取材・執筆を行なっている。『DUNK SHOOT』、『SLUGGER』など各種専門誌や『NBA JAPAN』、『日本経済新聞・電子版』といったウェブメディアなどに寄稿している。

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