ワシントン・ウィザーズの八村塁、メンフィス・グリズリーズ/ハッスルの渡邊雄太、テキサス・レジェンズの馬場雄大と、今季のNBAとGリーグでは3人もの日本人選手が活躍していた。 彼らの活躍については国内メディアが連日報じていたが、現地ではいったいどのような評価をされているのだろうか。2月中旬、NBAオールスター2020を取材するべくシカゴにやってきた地元記者に、日本人選手の活躍について聞いた。
『The Washington Post』でウィザーズの番記者を務めるキャンディス・バックナー記者は、八村の活躍で最も印象的なのは安定性だと言う。 「ルーキーシーズンに怪我で長期離脱してしまうという不利な状況ながらも、怪我をする前もした後も、とても安定した活躍を見せている。ルーキーがそんなプレイを見せるなんて想像もできなかったわ」 かつて『ESPN』や『TNT』で記者を務め、現在は『The Athletic』でリーグを追うデイビッド・オルドリッジ記者は、「彼のことはとても好きだ。とにかくハードに努力しているからとても気に入っているよ」と八村を称賛した。 「リーグの常識にとらわれずプレイしているのが何よりも良い。エルボーからのジャンプショットが上手いなら、それを打ち続けるべきだ。『そのショットは打たない方が良い、3ポイントショットを打つべきだ』とか言う人の言葉で、自分のプレイスタイルを曲げる必要はない。スリーやほかの要素は後からいくらでも追加できる。まずはできることをしっかりやっていることが大切だ。ディフェンスもまだ向上させる必要があるが、ルーキーなんてみんな大体そういうものだしね」 同じく『The Athletic』でウィザーズを追っているフレッド・キャッツ記者は、日本でバスケットボールがここまで人気だったことに驚いていると語った。
「彼と(渡邊)雄太がいることで、人気がすごいことになっているね。僕は野球ファンでもあって、イチローの大ファンとして育ったから、日本のファンが日本人選手を全力で応援することはよくわかっている。それと同じことがバスケットボールでも起きていることが嬉しいよ。八村はとても良い選手なので、これからもどんどん広がっていきそうだ」
渡邊はグリズリーズの2ウェイ選手として、Gリーグのメンフィス・ハッスルでのプレイを中心に、コールアップされればグリズリーズと帯同するという状況が今季も続いていた。2月10日(日本時間11日)に発表されたミッドシーズン・オールGリーグチームに選出されるなど、Gリーグでは圧倒的な活躍を見せている。 ハッスルの実況を担当しているジョン・ローザー氏は、ハッスルでもグリズリーズでも渡邊の試合を2シーズンにわたってほぼ見ているという、彼の活躍に期待する現地メディアのひとりだ。 「数週間前に番組で、雄太の成長が少し停滞していることへの不満を口にしたことがあったんだ。すると、次の試合からめちゃくちゃ活躍するようになってね(笑)。4、5試合くらいで平均27得点とかを記録していた。40得点を叩き出す試合もあったな。雄太に関してはずっと言っていることなのだけど、自信を持てるかどうかだと思っている。もっと力をつけたりとか、課題は色々あるだろうけど、自信を持ってプレイすることが大切だ」
ハッスルではボールを任され、メインスコアラーとして起用されることが多い渡邊だが、グリズリーズではコーナーに待機してキャッチ&シュートを狙うシーンなどが多い。そうしたプレイスタイルの違いについても聞いてみた。 「もちろんその違いがあるのは難しいことだと思う。しかしグリズリーズはあまりハーフコートセットを作らずに、走って攻めるスタイルを徹底している。ジャ・モラント、ディロン・ブルックス、ディアンソニー・メルトンといった、ボールを持ったらどんどんプッシュできる選手が揃っている。雄太もそれができるタイプだ。確実にハンドリング能力はある。トレードやジョシュ・ジャクソンがコールアップされたことで、選手の枠が変わってきているから、ローテーションになかなか食い込みにくい状況になってしまっているのは彼にとって残念だ」
ハッスル対レジェンズの試合で実況を担当していたローザー氏は、馬場についても語ってくれた。同試合で馬場のことを「フルネームで呼びたくなる選手」と表現していたローザー氏は、「ユーダイババ!」とテンション高めで振り返った。 「拮抗した試合で、ハッスルが調子を上げてきたところで、ユーダイババがスリーをひたすら決め続けたんだ。18分で19得点くらい決めていたよね(実際は19分27秒で19得点)。だからとても印象に残っているよ。開幕戦ではあまり出場していなかったけど、この試合でのことはよく覚えている。間違いなく彼は『プレイヤー』だなと感じた」 そんな馬場は、今季のレジェンズで合計41試合に出場し、平均6.3得点、2.6リバウンド、1.2アシスト、1.0スティール、3P成功率41.5%という数字を残した。シーズン序盤こそはなかなか試合に出られない時期が続いたが、徐々にチームにフィットしていくと、そのプレイタイムと貢献度は飛躍的に伸びていった。
レジェンズのコミュニティ&メディア関係部門のブリトニー・ウィン・バイスプレジデントは、馬場が「しっかりとチームに馴染んでいる」と説明してくれた。 「最初は少し戸惑いなども感じられたけど、今では何も問題ないわ。自らコミュニケーションもしっかりと取れている。それにあの性格だからね、スタッフも含めチーム内で彼のことを嫌いな人なんていないでしょうね。愛されキャラになってる」 レジェンズが拠点とするテキサス州フリスコ市は、隣町のプレイノ市に北米トヨタ本社があることもあって、日本人が多く居住している。週末の試合になると、多くの日本人ファンが会場に詰めかけるそうだ。筆者が訪れた試合は平日だったのだが、それでも十分に日本人ファンの存在が感じられるほどの集まりだった。街中には多くの和食レストランなども見られ、馬場が早くからアメリカの生活に馴染めた理由のひとつでもあるだろう。 現在新型コロナウイルスの影響でNBAシーズンは中断した状況が続いているが、日本人選手が躍動したシーズンであったことには変わりない。今季を境に、NBAと日本の関係値がグッと高まり、より身近なものになったことは間違いない。今季なのか来季なのかわからないが、彼らの活躍を楽しめる日々が再びやってくるのが待ち遠しい。
大西玲央:アメリカ・ニュージャージー州生まれ。現在『NBA.com Japan』『ダブドリ』『NBA Rakuten』などでライターとして活動中。記事のライティング以外にもNBA解説、翻訳、同時通訳なども行なっている。訳書に『コービー・ブライアント 失う勇気』『レイ・アレン自伝』など。近年は、NBA選手来日時の通訳をNBA Asiaより任され、ダニー・グリーン、ドレイモンド・グリーン、レイ・アレン、ケンバ・ウォーカー、トニー・パーカーといった数々の選手をアテンド。