6月1日の「NBAファイナル・パブリック・ビューイング・パーティー」に出演するため、常勝軍団サンアントニオ・スパーズのダニー・グリーン選手が初来日しました。グリーン選手は、ディフェンスとスリーポイントシュートの名手として長年スパーズの先発を務める傍ら、テレビ解説や子供向けバスケットボール教室を通して自らの経験と知識を人々に伝える活動をしています。
そこで、Rakuten NBA Newsは、日本のバスケットボールの将来を考える上で重要になるであろう『若い世代の育成』について、グリーン選手の考えを聞きました。

--- あなたは子供向けバスケットボール教室を毎年開催していて、今年の6月と7月にもアメリカの数都市で開催を予定していますね。あなたのようなNBAのスター選手が子供達に直接指導することは、とても大きな意味があると思いますが、ご自身はどのようにお考えですか?

子供達の育成の大きな手助けになっていると思うよ。僕達は、彼らに良い刺激とヒントを与えられるはずだからね。もちろん、普段から彼らを指導しているコーチや彼らの両親だって良い指導ができるけれど、僕達のようなNBAレベルの人間が指導するのは、また違った意味を持つんだ。
なにより、自分達の経験を伝えられることが大きい。学生時代、僕は特に優れた運動能力を持った選手ではなかったんだ。周りは、とても身長が高い選手や、生まれながらに超人的な身体能力を持った選手ばかりだったけれど、僕は人一倍努力してNBA選手になることができた。こういった経験を伝えることで、バスケットボールに限らず、他の競技や勉学においても、子供達のモチベーションを上げることができると思っているよ。

--- あなたにとって最初のバスケットボールコーチは、あなたの父親だったそうですね。少年期にあなたの才能を伸ばしたのは、あなたの父親による指導が大きかったと聞いています。その当時、あなたの父親は、あなたにどのような指導をしたのでしょうか?

僕の父親は、僕が小さい頃から、常に年上の選手とプレーさせてくれたんだ。そのおかげで、10代の頃には、他の同年代の選手と違って、ほぼ全てのバスケットボールの基本が身に付いていたよ。それに、彼は大のバスケットボール好きだったから、偉大な選手がプレーしている試合のビデオをたくさん僕に観せてくれたんだ。当然、彼自身もそれらの素晴らしい試合からたくさん学んでいて、その知識を、僕だけでなくチームメイト全員に教えてくれた。そのおかげで、僕達は基本をしっかりと身に付けることができたんだ。

--- その後、あなたは名門ノースカロライナ大に進学して4年間プレーし、2009年にNCAA(全米大学リーグ)で優勝を果たしました。しかし、その年のNBAドラフトで、あなたはドラフト2巡目全体46位という低い順位でクリーブランド・キャバリアーズに指名されました。その時は落胆しましたか?

もちろん落胆したよ。どんな選手だって、ドラフトで上位指名されることを夢見るからね。僕だって、ドラフト10位以内ではないにしても、ドラフトの1巡目には入れると思っていたから、上位指名された他の選手達がデイビッド・スターン(当時のNBAコミッショナー)と握手するのを見るのが辛かったよ。
でも、いざ自分の名前が呼ばれて、自分を支えてくれた家族や友人の喜ぶ顔を見た時に、「素晴らしい日だ」と思えるようになったんだ。それに、ドラフトされたチームも良かったと思う。当時のキャバリアーズにはレブロン・ジェームズやシャキール・オニールといった素晴らしいメンバーが揃っていたから、ルーキーの年に彼らとプレーする機会を得られたのは幸運だったよ。
後々振り返って、その日にドラフトされずに泣いた選手もいれば、1巡目指名されなかったと落胆する選手もいるかもしれない。でも、忘れてはいけないのは、ドラフトはもちろん大きな出来事だけれど、指名順位はその時の状況やタイミングに大きく左右されることだから、それ自体に大きな意味は無いということだ。全てはドラフトの後から始まるんだからね。

--- バスケットボールチームのレギュラーには最大15名しか入れず(ベンチ入りは13名)、先発はたったの5名という狭き門です。あなたもプロ入り後しばらくはレギュラー入りできずに苦しい時期がありましたが、最終的にはサンアントニオ・スパーズという強豪チームの先発に定着しました。この厳しいプロの世界で、あなたはどうやって自分の力を証明したのでしょうか?
チームのレギュラー入りを目指す子供達にアドバイスをお願いします。

スパーズの先発になるのは、簡単なことではなかったよ。ベンチに座ったまま試合が終わってしまったら、自分の力を披露することすらできないからね。でも、当時先発だったマヌ・ジノビリが負傷欠場したことで、僕はチャンスを得た。マヌが4~6週間欠場することになったから、僕は彼の穴を埋める役目を任されたんだ。当時のスパーズは若いチームだったから、僕以外にもチャンスを貰えそうな選手が沢山いたけれど、グレッグ・ポポビッチHC(ヘッドコーチ)が僕に白羽の矢を立ててくれた。だから、僕はそこで自分の売りであるディフェンスに全力を注いだんだ。ポップ(ポポビッチHC)は、ディフェンスを重視するヘッドコーチだったしね。すると、最初は僅か5分間だった出場時間が、10分、15分と増え、シーズンが半分を過ぎる頃には、遂に子供の頃からの夢だった先発の座に定着することができたんだ。
でも、先発になったとしても、それで安心してはいけない。誰もが先発になることを虎視眈々と狙っているから、先発の座を守り続けるというのは、先発になることよりも大変なことなんだ。

僕は、Dリーグ(NBAの下部リーグ)に送られたこともあるし、ひたすらベンチを温める日々経験したこともある。それでも僕は、自分が目標とする選手になるために、休日も返上して毎日努力を続け、ここまで来ることができた。とても長い道のりだったよ。

--- あなたはバスケットボールという競技をよく理解していて、プレーを解説するのも上手いです。以前あなたはNBAオールスターで特別リポーターをしたこともありますし、最近ではテレビに出演して解説する機会もあるようですが、引退後はテレビ解説者やリポーターになることも考えていますか?

リポーターをするのは楽しいよ。NBAオールスターで他チームの選手の話を聞くのも楽しかったし、彼らに変な質問をするのも面白かったよ。でも、リポーターを本業にできるかどうかは分からないね。
テレビ解説者の方が可能性が高いかな。解説者として、プレスカンファレンスで選手に質問するのは自分に合っているかもしれない。コーチとして試合を分析するより、解説者として試合を分析する方が楽しそうだしね。もしチャンスがあったら解説者をやってみたいかな。
リポーターは楽しいけれど、仕事として考えたら、解説者の方が自分には向いていると思うよ。

--- オフの日に家でNBAの試合をテレビ観戦する時、あなははどういった視点で試合を観ているのでしょうか? 1ファンとして気楽に観戦するのでしょうか? それとも、選手やコーチ、あるいは解説者としての視点から試合を観ているのでしょうか?

その時々によって、色々な視点から試合を観ているよ。選手の視点、ファンの視点、コーチの視点…といった様々な視点からね。でも、大抵は楽しむために試合を観ているよ。仲間と一緒に「あの選手が凄い」とか「あの選手の方がもっと凄い」という話題で盛り上がりながらね。時には、NBA選手である僕だからこそ知っている裏話を交えることもあるよ。でも、概ね1NBAファンとして試合を観ることが多いかな。
あとは、特にシーズン中だと『チームの視点』というのがあるね。「このチームがこの試合に負けたら、自分のチームの順位が上がる」といった場合は、一方のチームを応援することがあるんだ。
とにかく、僕は色々な視点から試合を観ているよ。

--- あなた以外のNBA選手も、普段はあなたと同じような視点で試合を観ているのでしょうか?

他の選手も同じような感じだと思うよ。リーグでプレーした経験がある選手なら誰でも「自分ならあそこでこうプレーする」といった視点を持っているし、純粋に「いい試合が観たい」とか「どちらのチームがNBAファイナルを制すか?」というファンの視点から試合を観る選手も多い。だから、僕は明日(取材日は5月31日)のNBAファイナル・パブリック・ビューイング・パーティーが凄く楽しみなんだ。きっと面白い試合になるからね。僕もファンの皆んなと一緒になって「この選手が凄い」とか「こっちのチームの方が上手くプレイしている」とか言いながら試合を楽しもうと思っているよ。
皆それぞれの視点で試合を楽しむと思うけど、実際にコートに立ってプレーしたことがある選手は、「自分ならこうやってプレーする」という視点で観ることが多いかもね。

--- では、子供達がNBAの試合を観る時、どのような点に注目して観戦すると彼らの成長につながると思いますか?

その子供が目標とするプレイや目標とする選手によって、注目すべきポイントは変わってくると思う。僕の場合は、選手のディフェンスを注目して観ている。その試合の中でディフェンスが上手い選手を見つけて、その選手がどういうディフェンスをしているのか観察しているよ。
オフェンスに関しては、チームがどういう方法でフリーの選手を作っているか、ということに注目してみるとイイよ。そうすれば、ピック&ロールや、スリーポイントラインにいる選手をフリーにする方法や、インサイドを効果的に攻める仕組みを知ることができる。その知識は、オフェンスとディフェンスの両方で生かすことができるよ。

--- 選手の育成に関しては、あなたが所属するスパーズはリーグ随一だと思います。以前あなたは「スパーズというチームは常に『コーチの指導に忠実な選手』を揃えているから、ずっと強豪チームでいられる」と話していました。実際、今シーズンも若手選手や新加入選手が活躍したおかげで、怪我人が多い中でもシーズンを戦い抜くことができました。今シーズンはスパーズにとってどんなシーズンでしたか?

今シーズンは、いつもと少し違ったと思う。
スパーズのチーム作りは一貫しているから、今シーズンもいつも通り、エゴが無く、コーチの指導に忠実で、チームを優先し、優勝という1つのゴールに向かっていけるような、チームに適した選手が揃っていたことに変わりはないけれど、怪我人が相次いだことで、デジャンテ・マレーやダービス・ベルターンズといった若い選手が沢山プレーすることになったんだ。
でも、彼らが経験を積んだことで、チームの層は厚くなったことは間違いない。きっと、カワイ・レナードをはじめとする怪我人達が来シーズンになって帰ってくれば、僕達は再び優勝を狙えるチームになると思うよ。
あと1ヶ月半ほどしたらNBAドラフトやフリーエージェント契約の解禁があるから、スパーズのロスターにも何かしらの変化が加えられると思うので、何が起こるか楽しみにしているよ。
もちろん、若い選手の成長を見守るのは楽しいし、彼らによってチームに新たな側面が生まれるはずだから、そういった部分にも期待を寄せているよ。

取材・文/西尾瑞穂
撮影/川島功 (c)2018 KRevation

NBAジャーナリスト/イラストレーター 西尾瑞穂

雑誌・テレビ・インターネット等の媒体で活動するフリーランス・イラストレーター。イラストを通じてNBA選手やNBA球団と親交を深めており、NBAの現役選手に頼まれてイラストを制作する機会も多数。ファン歴25年以上という熱狂的なユタ・ジャズのファンだったが、最近ではイラスト制作をきっかけにチームと密接な繋がりを持つようになり、昨年はジャズの球団社長から直接依頼を受けてチームの公式イラストを制作した。NBAジャーナリストとして8年前からNBAの現地取材をスタートし、NBAオールスターゲームは毎年現地で取材している。

ユタ・ジャズのレジェンド、カール・マローンさんにイラストをプレゼントした際の写真

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