運も実力もないニックス

「ニックスはNBAファイナル第5戦で敗退」 
そんな見出しが、アキレス腱を押さえるケビン・ディラントの写真と共に、NBAファイナル第5戦終了後のニューヨークの新聞一面を飾った。この怪我はニューヨーク・ニックスにとってゴールデンステイト・ウォリアーズと同じくらい大きいショッキングな出来事だったのだ。

2013年以来プレーオフに進めず、NBAファイナルは20年前の1999年を最後に出場はなく、ましてやNBAチャンピオンに関しては1972年以来、実に47年も遠ざかっているのだ。

しかしそんなニックスの昨シーズンは別の意味で高いモチベーションを持っていた。なぜなら100年に1度の逸材と言われるザイオン・ウィリアムソンを指名できる可能性があったからだ。昨シーズンは、タンキング*によって意図的に最下位を確定させ、またシーズン中にはフランチャイズプレーヤーとして期待されていた若きエース、クリスプタス・ポルジンギスをトレードに出してサラリーキャップに空きを作り、マックス契約選手を最大2名獲得する事を可能にした。そしてそれらは全て、このオフシーズンにFAになるデュラントをニックスに呼び込むために打ってきた布石に他ならなかった。

*わざと負けて勝率を低くしドラフト上位指名権獲得の可能性をあげる行為

ザイオンをドラフト1位指名で、デュラントともう一人オールスタークラスの選手をFAで獲得して、来シーズン一気にタイトルコンテンダーの仲間入りとなれればこれまでの我慢はすべて報われる。ニックスファン、NBAリーグ全体が古豪ニックスの復活を期待していたはずだ。しかしどうしてこうもニックスは運も天に見放されるのだろうか。

成績がリーグ最下位のチームは、これまでなら25%もあった1位指名権獲得率が、ニックスが最下位の昨シーズンから新規定で下位3チーム横並びの1位指名権獲得率になり(全て14%)、結局抽選結果は3位指名権に終わった。あれほど騒ぎ立てたザイオンのニックス行きはあっけなく水の泡となり、また将来のフランチャイズ選手を放出してまでラブコールを送ったデュラントはアキレス腱断裂により来シーズンのプレーは不可能に。そしてさらにデュラントの行先はなんとニックスではなく、ブルックリン・ネッツになったのだ。

運にも見放され、長いトンネルの出口が見えないニックス。だがニックス弱体化の要因は本当に運に見放されただけだろうか?90年代にパトリック・ユーイングやジョン・スタークスらの活躍で常に強豪チームだったニックスは何故こうも弱くなってしまったのだろうか。その最大の理由3つをご紹介したい。

①企業努力をしないニューヨーク・ニックス

カーメロ・アンソニーを擁してカンファレンスセミファイナルまで駒を進めた2012-13シーズンを最後に万年弱小軍団の常連となったニックス。昨シーズンはタンキング戦略を取っていたとはいえ、フランチャイズ史上ワーストタイの成績(17勝65敗)。5年連続で50敗以上、そして直近6シーズントータルの勝率はレイカーズと並んでワーストタイ(163勝329敗:勝率.331)という不名誉記録のオンパレード。

しかしこれだけ負けが込んでもニューヨークという巨大マーケットに守られ、価値の高い人気チームであり続けるニックス。まずは下記のForbesが発表した2019年のNBA各チームの「球団価値」ランキングを見てほしい。

ニックスの2019年球団価値はUS$4B(約4,400億円)を記録し、5年連続NBAファイナルに進出したあのゴールデンステイト・ウォリアーズよりも価値が高い。しかも2位にはレイカーズと、ここ6シーズンで最低勝率の2チームが球団価値ランキング1・2位。日本のプロ野球で言えば「巨人が東のニックスで、阪神が西のレイカーズ」みたいなものだ。巨大マーケットにホームタウンを持つことに加え、NBAの数々の歴史・ドラマ・スーパースターを生み出しているのもまたこの2チームであり、にチームが弱くても価値そのものが下がる事はないのである。

その証拠がチケット価格にもあらわれている。上記は2018-そしシーズンの各チームチケット二次流通チケットサイトでの平均価格。(二次流通は運営から許可されていて、人気により価格が自由に決められる。)ウォリアーズは説明不要。レイカーズも元々高いチケット価格だったがレブロン移籍により更に高騰したので、この上位2チームは理解できるが、その次に平均単価が高いのがニックス。正直シーズン前からパッとしない選手ばかりのロースターで、ザイオン狙いのタンキングシーズンであったにも関わらずである。

ここからもわかるようにニックスは弱かろうが強かろうが、球団価値は下がる事はなく、人もカネも入ってくるチームなのだ。その立地と世界一価値の高いアリーナ、マディソン・スクエアガーデンがホームコートであることに胡座をかき、悪名高きオーナー、ジェームズ・ドーランを始めとするフロントオフィス陣の間には、「企業努力しなくても儲かる」という風潮・メンタリティが蔓延してしまったと想像する。このメンタリティが選手育成やチーム編成に弊害をもたらし、ニックス弱体化の一つの要因となったと言って過言ではない。

②迷走を続ける選手補強や球団フロントオフィス

そんな負のメンタリティに侵されたフロントオフィスの数々の迷走ぶりが、ニックス弱体化の主な要因2点目としてあげたい。彼らの明らかに「失敗」と言えるトレードや選手強化の数々、またそれに関わる球団社長・GMたちのダメっぷりは目に余る。2000年以降弱体化したニックスを象徴するそんな彼らの数々の「失敗」5つをランキングで紹介したい。

5位:カーメロ・アンソニーはトレードで獲得すべきではなかった!?

多くのニックスファンにとって、2010-11シーズンのトレード当時、アンソニーは長年低迷していたチームの救世主として期待され拍手喝采を浴びた。事実、アンソニーが来てから3年連続でプレーオフ出場も果たし、2012-13シーズンには96-97シーズン以来の好成績(54勝28敗)も記録し、アンソニーはエースとして立派に責務を果たしていた。

しかしフロントオフィスの迷走はそのアンソニー獲得に費やしたコスト。アンソニー(と峠を越えたチャウンシー・ビラップス)と引き換えにニックスがナゲッツに差し出したのは、ダニロ・ガリナーリ、ウィルソン・チャンドラー、レイモンド・フェルトン、ティモフェイ・モズコフの4選手と現金300万ドルとさらに2012年と2013年のドラフト2巡目指名権、2014年の1巡目指名権。しかもアンソニーはニックス移籍前の10-11シーズン後にはFAとなっており、ナゲッツ側には「延長契約はしない」「ニックスに行きたい」と公言していたのだから、このシーズンが終わってからFAで獲得する事も出来たのだ。

アンソニー獲得自体は良かったのだが、当時NBAレベルの水にも慣れ好成績を収めていた若手ホープのガリナーリに加え、複数のドラフト指名権まで手放して獲得する必要はなかったと思われる。

4位:オールスター級の活躍だったデビット・リーの放出

多くのニックスファンを激怒させたトレードの一つが、デビッド・リーのトレード。2005年に1巡目30位でニックスにドラフトされ、年々成長を見せていたファンお気に入りの選手だったリー。サイン・アンド・トレードでウォリアーズに移籍する前のシーズンは平均20.2点、11.7リバウンドを記録しオールスターにも選出。選手として脂も乗りはじめ、これからフランチャイズを支える選手として期待されたリーの放出は謎であった。リーのウォリアーズでのその後の活躍(2015NBAチャンピオン、オールスター・オールNBA3rdチーム選出)を見ても、このトレードは失敗だといえよう。

3位:全く役立たずだった殿堂入り選手アイザイア・トーマスと巨匠P・ジャクソン

ニックスファンの間でもかなり評判の悪いフロントオフィスの施策が、コーチ兼GMとしてアイザイア・トーマスを起用した事と、球団社長にフィル・ジャクソンを雇った事だろう。

2003年にGMに就任したトーマスは、GM就任後3年で、プレイオフチームだったニックスを、リーグで最も高い給料を払いながらリーグで2番目に弱いチーム(2005-06シーズン:23勝59敗)に仕立て上げた。しかも解雇される事なく2006年から昇進してヘッドコーチも兼務。複数の1・2巡目ドラフトと引き換えにブルズから高給取り問題児のエディー・カリーを獲得。さらにGM時代に女性職員にパワハラ・セクハラ発言で訴えられ、ニックスの親会社MSGにUS$11.5M(約13億円)の和解金を払わせたりと、とにかくトーマスの問題点はあげればキリがないほど。

また、2014年に低迷するチームの復活を託し球団社長にフィル・ジャクソンを招くもチームは上昇せず。ジャクソン政権下の成績は80勝166敗とむしろ低迷。ジャクソンは選手の意思に反してトライアングルオフェンスの導入を試み、また高額年棒のアンソニーを移籍させようと画策した事が裏目に出てしまうなど、選手間でジャクソンに対する不満が続出し信頼関係を構築する事ができなかった。

しかもニックスはジャクソンに対して球団社長としては当時史上最高額のUS$60M(66億円)/5年、という異例の大型契約。

2位:問題児エディー・カリーの獲得に費やした代償とは?

前述の3位で触れたすでに触れた、エディー・カリーのトレードもまた、フロントオフィスの大失敗トレードの一つとしてあげられる。
彼は不整脈の疑いがあり、ブルズから医療機関でのテストを受けるようアドバイスされていたにも関わらず無視し続け、コート内外でもたびたび問題を起こしていた。そんな性格に難ありのカリーを、ニックスはそれらの事実を知った上で2006年と2007年の1巡目ドラフトピックを差し出してまで獲得。*しかも5年契約の最後の2年間(年棒約10億円)はわずか10試合の出場に終わり、1試合出場給に換算すると1試合あたり2億円の給与を払った事になる。

*保持していれば、ラマーカス・オルドリッジとジョアキム・ノアを指名できていた。

1位:アンドレア・バルヤーニを高評価した理由

そして一位となった迷走トレードが、2013シーズン前に行ったアンドレア・バルヤーニのトレードである。怪我がちで、実力に疑問符のつくバルヤーニを、将来複数のドラフト指名権(2016年1巡目ドラフト含む)に加え、マーカス・キャンビー、スティーブ・ノバックなどとのトレードで獲得。確かに彼は2006年にイタリア人として初のドラフト1位指名を受け、ラプターズ時代には平均20点超えのシーズンもあった。しかしトレードされる前の2シーズンは合わせてわずか71試合の出場にとどまり、平均得点も右肩下がり状態だったのである。

ファンのお気に入り選手だったキャンビーやノバックを放出した事もファンの怒りを買った。またエディー・カリーのトレード同様、ここでも将来的なドラフト指名権を手放す事で、その後のチームの再建を難しくさせたこのトレードを決行したフロントオフィスの罪は重い。

③諸悪の根源は2代目オーナー ジェームズ・ドーラン!?

この一連のフロントオフィス失策のほぼ全ては、ニューヨーク・ニックスのオーナーで、マディソン・スクエア・ガーデンカンパニーとMSGネットワークの社長でもあるジェームズ・ドーランに責任があると言っても過言ではない。

ドーランは1999年に父親が創業したケーブルビジョン(ケーブルテレビ・インターネット会社)のスポーツ事業トップとなり、自動的に傘下にあるニックスやNHLのニューヨーク・レンジャーズ、WNBAのニューヨーク・リバティ等のオーナーに就任。親の七光りで苦労せず球団トップに自動昇格したドーランは典型的なお坊ちゃん気質な性格で、球団の私物化に精を出す2代目オーナーなのだ。

現場介入も甚だしかったドーランは、上記5つの失策を主導した張本人(2014年のP・ジャクソンの球団社長就任以来、現場介入は減ったと言われるが)。問題なのは、「友達」という理由だけでアイザイア・トーマスをニックスのGM兼社長に就任させ、そのトーマスはセクハラ裁判で会社に莫大な損害を与えたにも関わらず、数年後にWNBAのニューヨーク・リバティのマイナーオーナー兼球団社長に就任させ、周囲を唖然とさせた。

また、昨シーズンMSGでの試合後に「チームを売却しろ!」と野次を飛ばしただけのファンを永久追放させる処分を下し世間の猛反感を買っている。最近は趣味のバンド活動に精を出しすぎて「本業のMSG社長業を疎かにしている」という事で株主から訴えられている。社長業の給料は3年/US$77M(85億円)と高額。とにかくドーランの好き勝手な行動は米国でも話題になっている。

オーナー手腕とチーム成績の相関関係がどこまであるかははっきりしないが、過去にはオーナーを刷新したゴールデンステイト・ウォリアーズは常勝軍団へと変貌を遂げている。史上最低オーナーと揶揄されるドナルド・スターリンからスティーブ・バルマーにオーナーが変わった事例のあるロサンゼルス・クリッパーズはプレーオフ常連チームの仲間入りを果たすなど、少なからずオーナーチェンジは悪しき古い体制・風習を一新させ、組織として新陳代謝が促されポジティブな効果を生むはず。そう考えると、ニックス復活の一番の近道は、オーナー、ドーランの退陣なのかもしれない。

DJ Kim

スポヲタ株式会社 ~スポーツは、ヲタクに変えさせろ~

スポヲタ社では、日本のスポーツシーンをより明るく、より楽しくする事を目標に掲げ、欧米の最新スポーツテクノロジーを活用した、ファン体験を向上させる事業等に主に取り組んでいる。また、スポーツパッション溢れるスポーツオタクたちが、日本のスポーツシーンを盛り上げるべく、世界各地から世界のスポーツ事情、最先端スポーツテクノロジー、現地スポーツレポート等の情報発信もスポヲタ社では日々行なっている。
所在地:ニューヨーク/ 東京
代表: 家徳悠介

(C)2018 NBA Entertainment/Getty Images. All Rights Reserved.